目覚めたら昭和だった件
目が覚めたら、そこは昭和だった。
いや、マジで。冗談抜きで。
「……え、なんで俺、畳の上で寝てんの?」
天井は木造、壁は土壁、そして目の前には――黒電話。しかもダイヤル式。レトロ通り越して、もはや博物館案件だ。
「夢か? いや、夢にしてはリアルすぎる……って、うわ、手が若い!?」
鏡を見て驚いた。20歳くらいの青年が映ってる。いや、これ俺だ。中身は令和の社畜、武井昭夫、35歳。ブラック企業で過労死寸前だった俺が、なぜか昭和30年(1955年)に転生していた。
「……転生って、ラノベかよ!」
ツッコミを入れたところで現実は変わらない。とりあえず状況整理だ。
まず、ここは東京の下町らしい。新聞の日付は「昭和三十年四月一日」。エイプリルフールにしては悪質すぎる。
次に、俺の名前も「武井昭夫」のまま。どうやらこの時代に生まれた別人の身体に入ったわけじゃなく、完全に新しい人生をスタートしてるっぽい。
「……ってことは、未来知識、使えるんじゃね?」
そう、俺には令和までの歴史が頭に入ってる。昭和の事件、経済の流れ、政治の腐敗、アイドルのデビュー年まで――Wikipediaで読んだだけだけどな!
「これは……チートじゃね?」
俺TUEEEの予感がする。だが、ここで調子に乗ると痛い目を見るのが転生モノの定番。慎重に行こう。
とりあえず、外に出てみる。街並みは完全に昭和。子どもたちはゴム飛びしてるし、商店街では「三丁目の夕日」みたいな風景が広がってる。
「うわ、牛乳瓶のフタって本当にあったんだ……」
感動してる場合じゃない。まずは身分証明と生活基盤の確認だ。どうやら俺は大学生らしい。しかも、東京大学の法学部。マジかよ、エリートじゃん。
「……ってことは、学生運動の時代、ど真ん中じゃね?」
そう、昭和30年代後半から60年代にかけて、日本は学生運動の嵐に巻き込まれる。安保闘争、全共闘、機動隊との衝突――歴史の教科書で見たあれこれが、これから現実になる。
「……俺、もしかして、歴史を変えられる?」
そのとき、ドアが勢いよく開いた。
「同志! 準備はできているか!」
現れたのは、赤いハチマキを巻いた熱血女子――美咲だった。
「え、誰?」
「なにを言ってるんだ同志! 今日のビラ配り、遅れるわけにはいかないぞ!」
「ビラ……って、え、もう運動始まってんの!?」
「当然だ! この腐敗した体制を打破するために、我々は立ち上がるのだ!」
……うん、完全に巻き込まれた。
「ちょ、ちょっと待って、美咲さん? 俺、まだ心の準備が――」
「同志! 革命に準備など不要だ!」
「いや、いるだろ! せめて心の整理くらいさせてくれよ!」
こうして俺は、未来知識を持ったまま、昭和の学生運動に巻き込まれることになった。
――しかも、カリスマとして。
「……俺の人生、どうしてこうなった」