4話『この荒廃した都市は、私たちには似合わない』
私たちは、光るライトと、防毒マスクと、わずかな希望を手に取って、
この荒廃した都市を歩き始めた。
「うわっ……あぶなっ……!」
「大丈夫? 遥華?」
振り返ると、遥華が足を取られて、よろめいていた。
崩れた建物の破片や瓦礫が、そこら中に散らばっている。
少しでも油断すれば、転んでしまいそうだ。
「本当にひどい状態だな……」
凪沙が、ぽつりと呟いた。
その声が、やけに響いて聞こえた。
もともとは人で賑わっていたであろうこの路地も、
今は瓦礫と砂だけの、冷たい空間になっている。
「そうだね〜、こんなひどい世界……」
私はふぅ、と息を吐いた。
「私たちだけで直せるのかなぁ?」
思わず、口に出た言葉だった。
期待してたわけじゃない。ただ、誰かに肯定してほしかったのかもしれない。
でも、しばらく誰も何も言わなかった。
答えなんて、きっと誰にもわからない。
それでも、立ち止まってしまったら、何も始まらないことだけはわかってた。
「……それでも、進むしかないよね」
遥華が、少しだけ強い声でそう言った。
その横顔は、いつもより大人びて見えた。
私はうん、と頷いた。
胸の奥はまだざらざらしているのに、それでもちょっとだけ、あたたかくなった気がした。
「こんな世界に、私たちが似合わないのは当然だよ」
前を歩いていた凪沙が、振り返らずに言った。
「だって——私たち、まだ生きてるんだから」
その言葉が、心に深く、静かに染み込んでいった。
「直すと言ってもどこから直せばいいのかな……」
「知識、技術そして努力」
凪沙がボソッと小声で言った。
知識、技術、努力?
なんのことかはわからないけど、凪沙にはあてがあるのかな?
「何事もまずは観察が大事」
「だからこの地球を歩き回ろう」
一歩前にいた凪沙が足を止めて振り返り、そう言った。
「観察?」
「観察、というより探索かな?」
探索……果てしない旅が始まるのかな?なんて心の中で考えてた。
正直探索は好きだし、旅も大好き。
私は……
――美しい世界をまた見たい。
パシャッ
「わあぁ!」ドサッ
謎の音と共に遥華が声を上げて尻餅をついた。
「遥華大丈夫?」
「なんの音」
最初は混乱した。
なんの音かもわからなかったけど、少し冷静になってからわかった。
いつの間にかカメラで写真を撮っていた。
「なんでカメラ?」
凪沙が聞いてきた。
私は実験の前にカメラを持っていたようだ。
「カメラ……私の?」
カメラをよく見るとシャッターボタンに名前が彫られていた。
『彩』
「これ私のだ……!」
このカメラが自分のと分かり、ふと思い出した。
私は写真を撮るのが好きで、当時は色々な写真を撮っていたんだ。
私はカメラのフォルダーを開いた。
「これだ……!」
そこには美しい山、海のように輝く空、雲が反射し映し出された海、そして私達の家族写真。
「あ……彩ちゃん……」
「ん……?どう……した?」
遥華が心配そうに私の顔を見つめている。凪沙も私の顔を覗いている……