2話『消えていく足跡』
カタ...カタ...
足音が聞こえ振り返る。
そこにはいなかった。
凪沙は元いた場所へ戻って行ったのだろう。
「凪沙は、どこ?」
少し焦ってしまった。
この気持ちはどこから来たものなのかはわからない。
そんなことを考えていると。
「彩、こっち」
階段の下から声が聞こえてきた。
少し安堵し凪沙の元へ向かう。
「彩、見て」
凪沙は私を見るや否や何かを手に取り小走りで向かってきた。
「何これ?」
凪沙が持ってきたのは紙。
そこにはこう書かれていた。
《不老不死化の薬剤投与実験
10体の被検者を用意した。
これより不老不死化の薬剤を投与し結果を見る。
⦅被検体1⦆薬を投与するや否や
拒絶反応を起こし生命活動を停止した。
⦅被検体2⦆被検体1と違い、投与に成功するも数日後に生命活動を停止。
⦅被検体3⦆成功だ。被検体1や2と違い数週間経ったが生命活動を確認。
⦅被検体4〜6⦆こっちも成功した様だ。被検体3と同じく数週間経ったが生命活動を確認した。
⦅被検体7〜10⦆被検体3〜6は成功したがこいつらは失敗だ。だがこいつらは子供と年配だ。耐えられないのも無理はない。
以上のことを踏まえ、最適の年齢は18〜21ということがわかった。
これで我々も戦勝国となるだろう》
「なに...これ」
私は震える手で紙を握りしめた。
この非人道的な実験の内容もそうだが、この資料に書かれている被検体に私たちも含まれていたということに。
「そ...それって...」
「私たち...」
みんなが怖がっている。
私だって怖い。
ずっと死ねない。
いなくなった家族と会えないのは苦しい。
...でも。
「ううん、大丈夫だよ!」
「私たちが不老不死ならさ、これからもずっと一緒にいれるよ!」
ーーたとえ世界が終わっても、私たちは生き続ける。それが怖くないと言えば嘘になるけど...
私も何を言ってるかわからなかった。
でも私が1人残って他のみんながいなくなるより、みんなずっと一緒にいれる方が数百倍マシと思った。
「彩ちゃん...」
「彩...」
遥華と凪沙の顔が安堵の顔へと変わった。
複雑な気持ちだ。
これからみんなとずっと居れるんだ。という気持ちとずっと生きていなきゃ。という気持ちで化学反応が起きてるみたい。
「私たち、死なないからさ」
「もう一回、この世界を見てみない?」
少し考えて出てきた答えだ。
この世界の状態はわからない。
けれどももし元の世界が見れたら
どれだけ幸せなのだろうか。
そう考えるだけで少しワクワクしてきた。
「うん、わかった」
「みんなでこの世界を探索しよう」
凪沙が言った。
私はこうやって探索して秘密にたどり着く。こういうのが大好きなんだ。
「は...はい!」
遥華もやる気満々の様だ!
私もやる気が出てきた!
とても楽しみだ!
「よし!これから長い旅になるだろうけど、挫けずにまた皆で綺麗な世界を見よう!」
そう言って、私は大きく息を吸った。
この先、何が待っているのかはわからない。
でも、今はそれでもいい。
こうして、私たちの――
長く、果てしない旅が始まった。