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「なぁ〜……ルシェンテスゥ。

 前に出てよぉ、ムダな戦闘。だるぅいからぁ」


「うんうん、怠いよな〜? 分かる。帰ってどうぞ」


「あ?」


 突然現れた少女の殺気が強まった。


 俺より少し年上。見た目は10才くらいか。

 寝癖のついた長い髪。ゆるく可愛いワンピースを着ている。よく見れば、服がしわくちゃだ。……パジャマだろ、それ。


「……イペス、坊ちゃまを頼みますぞ」

「はいです!」


 オズ爺が一歩俺の前へ出た。

 そして体を丸めて意気込むとーー


 キラララーン!!


 筋肉に耐えられず、オズ爺のスーツが弾き飛んだ。

 うわぁ、ムキムキの上半身がめっちゃ輝いてる!


「ほわ、ほわぎゃぁぁ!」


 イペスがすごい奇声上げてる。

 お前、こういう趣味だったのか……


「では、参るぞ」

「ッ!」


 オズ爺が地面を踏み締めた。

 次の瞬間、爆風と共に彼が少女の前に現れた。


「……不要な戦闘。きらい」

「ならば、武器を捨てて投降しなさい」

「それは……いや」


 オズ爺が少女にパンチを繰り返す。

 動きの風圧だけで、草木が靡いた。オズ爺、強すぎ!?

 ……まあ、俺の教育担当だしな。それも当然か。


 この世界の人間は、生まれつき魔法が使えない。

 そんで魔力が欲しけりゃ、魔石か魔獣のコアを体に埋め込むのだ。体質にもよるが、成功率は低い。


 ……死ぬ覚悟のない者に、魔法は使えない。残酷な世界だ。


 確か、オズ爺のは上級のコアのはず。死亡率8割くらいか。

 その引き換えに、最強の肉体を手に入れているのだ。


「あなたの目的を言いなさい。

何故、坊ちゃまの名前を知っている?」


「教えなぁ〜い。どうせ、すぐ死ぬ、からぁ」


 少女が気だるげにオズ爺の蹴りを躱していく。


 口は硬いようだが、残念。

 俺はゲームのパズルをすべて解いたから、彼女の狙いが分かる。


 目的はーー俺の唯一無二なコア。


 人類と共存できない魔物ーー通称『魔獣』。

 それとの防衛前線を担っているアラゴン家の嫡男は、代々激レアのコアを埋め込まれている。その中でも歴代最強の戦闘狂ーー俺の親父が命がけで手に入れた、そんな最強のコアが、彼女を惹きつけているのだ。


 ……ゲームの通り、俺を死に直結する呪いの塊め!


「! ……坊ちゃま!」

「俺も加勢する」

「…… 坊ちゃま!!」


 オズ爺が大袈裟な泣き顔を作った。


「なんとお優しい! このオズ爺、今日が命日でも良いぞ!」

「いや、勝手に死ぬな!?」


 オズ爺が下がる。

 入れ替わる様に、俺が攻撃を入れる。


 息ぴったりな連携で、相手に休む暇を与えない。

 逆に攻撃を喰らった分は、後方のイペスが治療魔法をかけてくれる。ナイスアシスト! 

 

 やがて、少女の余裕が無くなっていく。


「……んん〜! キリが、なぁいなぁ!」


 少女が動きを止めた。

 そして、何かの呪文を唱え始める。その瞬間、周囲から嫌な魔力を感じ取った。


「……⁉︎」


 気づけば、俺の前に少女が立っていた。目に追えなかった。オズ爺とイペスが俺を庇うように、少女に攻撃を仕掛ける。しかしーー


無気力(アケーディア)。……生きる気力、無くなっちゃえ」


 少女が魔法を発動させた。

 黒い霧が俺らを襲う。それに覆われた瞬間、頭の奥でスイッチが落ちた。


 ……戦おうって意志が、ふっと溶けて消える。

 怖いのに。死にたくないのに。

 身体も心も、「どうでもいい」って言ってるみたいだった。


「はぁっ!?」

「マスー……んん!」


 気づけば、息ができなくなっていた。

 魔力も封じられたのか、身体が鉛のように重たくなって、動かせない。


「っ……はッ」


 俺だけじゃない。

 イペスも、オズ爺も。2人して、地面で藻搔いている。


「やっと、静かになった」

「がッ!」


 少女が俺を蹴り倒した。

 そして短剣を抜き出すと、それを俺の胸に突き当てた。

 ……やべ、コアを抉り取る気だ!


 俺の心臓部に埋め込まれている、最悪なコア。

 運悪くも、その中には【魔神のカケラ】が封印されている。


 それはすなわち、魔神の力。7つをすべて融合できれば、最強になれる。

 極論、魔神になれるってことさ。


 ルシェンテスは、それで命を狙われ続ける運命なんだ。

 大事な従者を殺され、瀕死になりながらも勝ち抜き。その成り果てが、闇堕ちの魔神化。


 あまりにも残酷な結末だ。

 ……俺は、絶対にそうならない。なって堪るか!


「……んん? 動かないでぇ?」


 無茶なこと言う。

 俺はジタバタと抵抗するが、とにかく力が入らない。かすれた喉で必死に声を振り絞った。


「待て、待て! まず、話そ……?」

「やだ」


 ぷすり、と胸元を刺された。クソ、魔力さえ使えれば……!

 その時ーー


 ドクーーン!!


 俺のコアが大きく脈打った。

 呼応するように、少女の胸元が紫色に光る。

 中から一欠片の結晶が透けて見えた。あれが魔神のカケラ……?


 少女は驚いたように固まってから、ぎらりと目を光らせた。

 その口元には、狂気じみた笑みがある。


「あはは! オマエのカケラ、やっぱ、上級品!

 これなら、お父さんも、お母さんも、生き返れる……ッ」

「…………!」


 ーーバクン!!


 俺のコアがどんどん熱くなっていく。訴えてくる。

 コアが、力を使えと。

 でも、いやだ。使いたくない。絶対に……っ


「うっ、……ぐ」


 こういう時こそ根性だろ!!

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