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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

食虫

作者: じゃ権三郎

 「ねえーお母さん、またおやつ虫なのー。この虫あんまり好きじゃないんだよね。」

連日のおやつが虫だったことに対して娘が文句を口にする。

「そうはいったって政府の偉い人たちが積極的に食虫を取り入れるように言ってるんだから私たち国民はその意向に沿うのが人として普通のあるべき姿なのよ。」

母親がたしなめるが娘はけげんな表情を見せる。

「普通って、前時代的。お国のためにって、そのお国が私たちのために何をしてるっていうのよ。どうせ食虫にしたって仲良しの企業さんにお金配りたいだけじゃない。この虫ってば味が美味しくないだけじゃなくって食べづらいし見た目は気持ち悪いし、生産者の血抜きもずさんだからたまに血が噴き出して嫌なのよね。」

そういうと彼女は特に意味もなく手元の枝を折って遊ぶようにして、虫の腕を胴体からちぎって見せた。

「もーテーブルを汚さないでよー。」

母親が苦笑いする。


 

 ある日、平和に暮らしている人々のもとに恐ろしいニュースが届く。なんと町の人々が大勢、それも一晩のうちに行方不明になったらしい。なんと失踪者は町の人口の7割にも及ぶとのことで、その町の付近では厳格な捜査網が敷かれていたのであった。

 「なぁ、いまなら万引きとかし放題じゃね?」

残った人を確かめるために人々が集められた体育館で、近所でも悪ガキで有名なカイトが親友のユウタに問いかける。

「えぇ、お前さすがにだろそれは……」

言い終わる前にカイトはからのリュックを背負う。ユウタは人の少ないであろうという方向へと歩き始めるカイトをしぶしぶ追いかける。今までもこうして彼についてい行った。いつも始まりは気が引けるのだが、カイトのすることにはいつも心を踊らされるのであった。幸い今回の件で二人とも町の中でも被害のない地域に住んでいたことから、ユウタにしても少し危機意識が薄かったのだろう。

 大人たちの目につかないように無人となっている小売店を探して二人は歩き回った。

「腹減ったな。おやつでも食うか。」

そういうとカイトはどこからか取り出してきた虫をかじり始める。

「また虫食ってんの?そんなに食料に困っているわけでもないだろ?」

「いいじゃんよ、くってみると意外といけるんだって。妹だってなんだかんだたべてるぜ。お前も今日こそ食ってみろよ。」

「また今度にしとくよ……」

幾度となく繰り返してきたこの会話も今日のこの町の景色では不安感を紛らわすには心許なかった。

 「それにしてもさー、どこ行ったんだろうな」

カイトは先ほどまで食べていた虫の脚を咥えて上下に振りながら、ユウタがあえて考えないようにしていたことを言い出した。

「さあ?空にでも連れ去られたんじゃないの?」

「空ねぇ……」

そういうとカイトは上を向いて咥えていた脚を吹き出した。

「な、なあ、あの店とか人いないんじゃねぇか?」

ユウタがそういうとカイトの意識は上空から戻り、ユウタをにらみつけたかと思えば口元を緩ませた。

「なんだお前もノリノリなんじゃねぇか。とんだ悪ガキだな。」

「いいだろ、もう。どうせやるんだから。」

そういうと二人は店内でめぼしい商品を物色する。

「虫入りクッキーに虫入りパン、虫入りラーメンに虫の素揚げまであるぜ。政府のごり押しもひどいもんだよなあ。まぁうまいからもらっていくけど。」

「なんで店の物取りたい放題になってまで虫食うんだよバカかよ。」

店内に数多く並べられた虫食品に対する二人の関心は対照的であった。

 しばらくして大量の虫食品が詰まったリュックを背負ったカイトが店を出ると、目の前には見回りをしていた男の姿があった。

「おいクソガキども、こんな時に何やってるんだ?」

男は静かにそういうとカイトに近づき、急に凄んで胸ぐらをつかむ。大人が子供に対して吠えようとした瞬間、空から巨大な虫の脚のようなものが下りてくる。先ほどカイトが空へ吹き出した脚が巨大化して落ちてきたかのような、脚の最後の関節より先にはたくさんの毛が生えており次の瞬間三人を上空へと連れ去った。


 水槽からカイトたちを取り出したトンボのような複眼の下にクワガタのような顎を持つその巨大な虫は、カイトたちを脚の先で絞殺した後、血抜きもそこそこに袋に詰めて箱に入れる。こうして出荷された彼ら人間は今日も食卓に並ぶのであった。


 「ねえーお母さん、またおやつ虫なのー。この虫あんまり好きじゃないんだよね。」

だんだん長くなるんですよね。

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