旅の途中
相変わらず今日も曇っている。
彼女は1人、駅のホームにいた。
「「東鉱山方面の電車がまもなく到着いたします。危ないですから、、、」」
彼女の乗る電車が来た。
『プシュー…』
人の少ない電車に乗り込む。
どこに座ろうか迷ってしまうほどガラガラだった。
迷ったすえに奥の窓際の席に座り外の景色を眺めた。
『プシュー…ガタッゴト…』
徐々に移動する景色を眺める事が何より好き。
心の落ち着く、優雅な時間だった。
だけど今回は一駅で終わり。
懐かしい風景が次々と通り過ぎて行く。
どんどん電車のスピードが落ちていき、風景の流れも遅くなった。
「「、、、です。ホーム側の扉が開きます。ご注意下さい。」」
『プシュー…』
もう着いてしまった。
ゆっくり出口を目指し、電車を降りた。
『プシュー…』
「「ありがとうございました」」
改札口を抜け、駅を出た。
そこから彼女は歩いて、ある公園へ向かった。
通る道はみな、思い出の場所。
前住んでいたビルや、友達の家。
そして、誰も来ない小さな公園。
昔の彼氏から孤独の似合う女だと言われた時に1人で来た場所だ。
全く、孤独だった。
1人で泣きながら木にすがりついたのを今でも覚えてる。
思い出の場所で立ち止まる事はない。
この道も思い出だから止まれば先に進めない。
何度も往復した道。
今日も彼女は往復する。
そしてたどり着いた公園の
裏に周って彼女はあるお墓を撫でた。
「会いに来たよ。」
彼女はその墓に線香をたて火を灯し、手をあわせた。
「今日も思い出の場所通って来たの。あなたがどんなに私にひどい事言っても、泣かなかったんだからね…。」
彼女の嘘は墓地に響いた。
そう、この墓は彼女の、彼氏の墓だった。
「まだ、あなたが好き。だけど旅の途中も好きなの。あなたとの思い出をいつも目で追いかけてるわ。それじゃあ、また来るね。」
彼女はにこやかに笑って、その墓をまた撫でて公園を出た。
また、思い出の道を通る。
これからも、何度も往復するこの道を。
先立っていった彼の事を忘れないように…。