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小説のかけら  作者: 有未
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小説のかけら 4 【たとえば傘のない日に雨に遭うように】

 たとえば傘のない日に雨に遭うように、偶然のように私の記憶は思い出に出会う。傘を持たない私はかつての記憶を色鮮やかに脳裏に蘇らせてしまい、立ち尽くす。それが、ほんのついさっきのことのように思い返す。懐かしさと苦みを以て私を苛む。点となった思い出はいつまでも私の中にあるのだ。




 網戸に雨が当たっている。網目に雨粒が引っ掛かって行く。そして消えて行く。そしてまた別の雨粒が引っ掛かって行く。その様を、アポトーシスやネクローシスのようだと思う。ああ、そんな私の明日はどんな色になるだろうと、灰色の空を見上げて思った。




 一本足の外灯が立っている。昨日も今日も明日も立っている。網戸越しに見えるそれは何処か孤独に見えた。夕暮れ時、外灯に光が灯る。その後ろを急ぎ早に列車が走り去って行く。昨日も今日も明日も私はその様を見つめている。時の流れの早さのように列車が走り、通過点のセーブポイントのように外灯が光る。私の吐き出す煙草の煙が、今日の終わりを祈るように星の光る空へと昇った。




 何処までも行けたら良いと思っていたのに「ここで終わりです」と書いてあった。首を傾げそうになる。まだ、僕は先に行きたかった。何処までも何処までも。それなのに「ここで終わりです」と書いてある。どうしてだろう。分からない。




 星が光っていた。月は見えなかった。音質の良いイヤホンから「LOVE」が流れ続けていた。片耳だけのイヤホンにしてみると、自分の半分だけが外界に触れているような気分になった。流れ続ける「LOVE」と、外の世界の空気が綯い交ぜになって私の中に巣くった。不意に吐き出した息が思ったよりも白く、ああ、冬だと単純に私に思わせる。星の光が遠くにあるのに強く強く私に届いているような気がして、私は白い息と共にそれを見る。今日で一年が終わる。明日も星は光るだろう。私は明日も生きて行くのだ。




 もっと何処までも行けると思っていた。いつからだろう、もう何処にも行けないのかもしれないと思い始めたのは。好きな歌、好きな紅茶、好きな洋服。色々な宝物を集めても空虚だった。どれもこれも、大好きなのに。本当に求めているものはこれじゃないんだと、私の中で私自身が言っていた。生まれて行く言葉が心の中で浮かんで消えて浮かんで消えてを繰り返す。終わりのない旅を表すように、私の中で思いが浮かんで消えて浮かんで消えてを繰り返す。いつか、答えは出るだろうか。

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