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小説のかけら  作者: 有未
3/7

小説のかけら 3 【君を探して】

 手作りのスコーンにクッキー、淹れたての紅茶。隣には君。太陽はまだ高い位置で輝き、私たちは束の間のティータイムを楽しんだ。咲く会話。これから始まる戦いという名の日常を、ほんの少しだけ、今は忘れて。




 僕たちは、いつも毎日、彷徨う迷子。星を見て道を決めた。太陽の輝く日は方角が分かった。それでも、迷って彷徨い眠れない毎日を過ごした。夢の中、「君」が微笑むから僕たちは諦めずにいられた。砂漠の中の薔薇を探して、僕たちは進む。




 時計の針が日付の変更を刻む頃、扉の開く音がした。なくしたなにかを見付けたような、そんな気持ちで私は恋人を迎える。私たちは、たったふたりで完結していた。世界など、どこにもなかった。離れていれば会いたいが募った。開け放した窓から確実に夏の気配を感じ、蝉の声を聞く。私たちは、そっと窓を閉めた。




 さあ祝福の鐘が鳴る。君と夢みた未来に向けて時間が走り出す。さようなら悲しかった過去。振り向かないさ。大切にしたいひとは今、隣にいるから。




 至福の折に。たった一つの夢を求めて求めて、求め続けた日々でした。沢山の人々の言葉と支えがあり、自分がいて、ここに立っています。諦めなくて良かったと心の底から思います。春、桜咲く。




 君の名前を聴いた時、何処かで聴いたような気がした音色だったんだ。そのメロディーは、とても良く君に似合っていて、私は愛しさを覚えてしまったくらいに。

 ――遠い、いつかに。君の名字になる私がいるなんて。その時は思いもしないで。




 何度、悲しみに打たれても、そのたびごとに美しく花開き、咲き誇る彼女の姿と心を僕は知っている。見守ることしか出来ない、力なき自分だけれど、傍にいてくれることが嬉しいと彼女は綺麗に笑う。僕たちは、まだ未熟な人間だけれど。これからも二人で明るい朝と心休まる夜を繰り返して行きたいと願う。




 ――春の到来を告げるかのように強い風が吹き、少し早めに用意した私の春向きのスカートを当たり前のように強く揺らした。私は、それを抑えながら風の吹き抜けて行く方向を、なにとはなしに見つめた。枯れた葉が少し飛んで行った。ちょっと落ち込んだことがあったけど、春色に染まれ、と新しく買った桃色のスカート。今日から私は新しい。風の勢いと共に、新しい季節を過ごすと決めた、昼下がり。




 だいじょうぶだよ、私は、ちゃんと君を好きで、ちゃんと苦しいよ。そう言いたいのに、そう思った通りに伝えればいいのに、私は自分自身さえ失う感覚の中で言葉も見失ってしまった。夕暮れ時、神様もいなくなる時間帯で、君は一人、先に歩き出す。私は、その手を取りたくても取れない、寄る辺のない迷子の気持ちで君の影法師を見ながら歩いた。




 ――終わりまで、一緒にいようと誓ったのに。最後の最後で君は僕の手を離し、ばいばい、と笑った。たったひとりになる恐怖があるはずなのに、世界の真ん中に走って行く、君。両翼は血にまみれていた。もう君の姿が見えなくなる。僕は歩くことも出来ない姿のまま、最後まで君を目に映し続けた。




 記憶を封印されて服従を強いられても、私は博士を憎むことは終ぞ出来なかった。母の名を忘れ、自分の元の名前を忘れても、私には博士がいてくれて、博士がくれた名前がある。それだけで良かったのだ。博士がしていることは、きっと世界から見たら脅威で残酷なことなのだろう。それでも私は最後まで博士に付いて行くと決めた。いつか命が尽きるまで。




 寂しさに耐えかねて咲いた雪の花があった。道行く人の目に届くよう、太陽を目指して精一杯に咲いた、一輪の花。しかしながら寂れた細道に人通りはなく、一輪の花に視線を注ぐ人は、たった一人も通らなかった。落ち込む、雪の花。けれど、花開いた喜びは雪の花にとって強く、また、雪の花自身を強くした。生きて行こう、この命、枯れるまで。花は今日も太陽を目指して、咲く。




 降り始めの雨のようにあなたがぽつりと言った。それは私に向けたものであるはずなのに独り言のようだった。ぽつぽつと降る言葉は傘を持てない私に等量さを以て降り続けた。もうこれで終わりなのだと私は思った。だけど、あなたが雨上がりのように私に言った。これからも同じ時間にいよう、と。




 君のシグナライズを辿って来たら、こんなにも遠い遠い世界の果てにまでやって来てしまった。肝心の君の姿を探し求めても、見付からない。君から発せられているであろう、シグナルランプの光が、ちかちかと点滅している。その場所に君がいないことを知っても僕はまだ君を諦められない。

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