表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/16

お隣の領地の伯爵子女

 

 ディオン様が見せたいものというのは、ご自分で植えたチューリップの花だった。

 球根からではなく、あらかじめ成長したものを植え直していて、白と赤色の花が咲いていた。


「可愛いですね」

「うん。お母様と妹のベラに見せるつもりなんだ」


 ディオン様は少し寂しげに笑われる。

 子どもらしくない。

 まあ、記憶がないので、そう思う自分もちょっとおかしいかもしれないけど。


「もっと植えて、たくさん見せてあげましょう」

「うん。そうする!」


 ディオン様が今度こそ自然に笑って、私は嬉しくなった。


 午後になって訪問客があった。


「断ってもらったらだめかな?」

「そうしたのですが」

「ディオン!遊びにきたよ〜」


 ディオン様とレーヌさんがそんな会話をしていたら、声が飛び込んできて扉が開く。 

 なんていうか無作法だな。

 現れたのは銀髪に空色の瞳の可愛らしい女の子だった。

 背後にはもう一人いて、申し訳なさそうにしている。これもまた美少年だった。女の子によく似ている。年頃はディオン様と同じくらいかな。


「ごめんね。ディオン。止めたんだけど」

「ベルナルド。なんで謝るの?会いたいのはよくないの?」

「礼儀が必要なんだ。ソフィア」


 美少年がベルナルドで、美少女が多分妹かな。ソフィアか。


「ようこそ。我が屋敷へ。どうぞ」


 ディオン様はいつもの柔らかな表情ではなく、硬い表情で二人に言った。言葉使いも別人みたいだった。

 無理してるのかな?


「ベルナルド様、ソフィア様。どうぞ、お座りください。お茶をご用意しますね」


 レーヌさんに目で指示される。

 今はお仕着せ着てるし、そうだよね。使用人として動かないと。動こうとしたのだが、何かに引っ張られた。それはディオン様で、私はレーヌさんに視線で確認する。

 さすが、ディオン様のお守り、いや、お世話係。

 それだけで事情を察したようで、レーヌ様が代わりにお茶の準備をしてくれるようで、部屋を出て行った。

 まあ、私のほうが不慣れだしね。

 ちょっと申し訳ないと思いつつ、私は移動する。

 ディオン様より少し後ろに下がった位置だ。服を掴まれたの一瞬だったので、お客様には気づかれていないようだった。


「新しいメイド?」

「ち、そうだよ」


 お仕着せを着てるし、事情が事情なので、メイドとしたほうが無難だよね。

 ディオン様の判断に私は心の中で頷く。


「若いね。マリオンと同じくらい?」


 ベルナルド様がそう言うと、ディオン様は少し顔を曇らせた。


「多分ね」

「ディオン。今日は突然悪かったね。妹がどうしてもこれを渡したいっていうから」


 ベルナルド様はそれだけでディオン様の憂いがわかったようで、話を変える。


「ディオン。この絵。私が描いたの。見て!」


 折り畳まれた紙を開くと、そこには二人の人間らしい影があった。

 うん。人?


「こっちが私で、あっちがディオン。以前お花畑に行ったことあるでしょう?その時の絵なの」


 そう言われればそう見えるかも。

 まだ小さいし、こんなものだよね。子供の絵って。


「お待たせしました」


 レーヌさんが扉を叩いた後、台車を押して入ってきた。

 美味しそうなお菓子が並べられていて、ごくんと唾を飲み込んでしまった。

 だめだめ、お昼ちゃんと食べたし。

 今は使用人なんだから。

 レーヌさんと一緒に台車からポットやカップを取り出し、テーブルに並べていく。

 ディオン様は私が少し離れることを今度は止めなかったものの、顔は引き攣っている。

 二人のことが苦手なのかな?

 特にソフィア様?

 横目で見ると、ソフィア様はひっきりなしにディオン様に話しかけていて、困っている彼にベルナルド様が助け船を出している感じだった。

 妹さん、強いな。

 お茶会は一方的なソフィア様のお喋りで進み、いつ終わるのかとヒヤヒヤしたが、ベルナルド様が両親が心配するといい、無理やり連れて帰った。

 多分、滞在時間は二時間くらいだった気がする。

 その後、ディオン様はぐったりしている感じだった。

 お菓子にも手をつけてなかったし。

 うーん。訪問止めたほうがいいかもね。

 だって、ディオン様の体は本調子じゃないんだし。


 ソフィア様とベルナルド様は、隣の領地の伯爵令嬢と令息だった。

 隣といってもお互いの屋敷が見える範囲ではない。けれども、ディオン様が中庭に出ているとやってくるそうだ。


「昨日も、今日も出てましたし。本当どこから情報を入手するんでしょうか?」

「屋敷内で告げ口をするような者はいないんだけどね」


 ソファに体を預けていたディオン様が体を起こすと、うんざりした様子でそう言う。

 でも、屋敷内の誰かが情報をあちらに伝えているのは本当だよね。

 そう思ったけど私は口を噤んだ。


「今日はもう勉強するどころではありませんね。ディオン様、ゆっくり休まれてください」

「本当?いいの?」

「はい。わーい!お姉ちゃん、遊ぼう!」

「遊ぶ前に、少しお菓子いただいてもいいですか?」

「え?」


 驚いた声を上げたのはディオン様ではない。レーヌさんだ。


「ディオン様。このクッキー。とても美味しそうです。一緒に食べましょう」

「うん。食べよう」


 ディオン様はまったくお菓子類に手をつけてなかった。

 夕食までまだ間があるし、少しくらい間食してほしいと思い、口にしたのだが、ディオン様が乗ってきた。レーヌさんも思惑に気がついてくれて、新しいお茶を持ってきてくれると言ってくれた。

 私はだめだめ使用人だ。

 でも、とりあえず今はディオン様を元気にしたかった。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ