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芋女、貴公子に助けられる

 ああ、少し遅れた。

 だけど、まだ明るいから大丈夫だよね。


 マージョリー学園から家までは徒歩で三十分ほどの距離。

 普段はもう少し人通りが多いんだけど、薄暗くなってきているから往来する人の数が減っている。

 急がなきゃ。

 走るまではいかないけど、足早に歩いていると突然前を横切る人がいて、ぶつかる。


「いたっつ」

「いってなあ」


 ぶつかって、勢いよく転んだのは私のほうだけど、ぶつかった人のほうが痛そうに腕をさすっていた。


「だ、大丈夫ですか?」


 立ち上がって反射的にそう言ってしまって、私は間違いに気が付く。

 ああ、まずい。


 いつの間にか人数が増えていた。

 

「お嬢さん、痛かったなあ。この落とし前どうつけてくれる?」

「いえ、あの。ぶつかってきたのはそちらですよね?」

「ああ?」


 やばい。っていうか、初めから狙っていた。

 なんで、今までこんなことなかったのに。


「さあ、俺たちについてきな。ぶつかられて俺の腕が痛むんだ。慰めてくれよ」

「ほら、あんた」


 別の男が私の肩を触り、ぞわりと寒気がした。


「マギーさんを離せ!」


 馬の嘶き。

 そして声。

 アーベル様?!


 馬に乗って現れたのはディオン・アーベルだった。


「な、なんだあ?!」

「うお、走ってくるぞ!」


 男たちは私から手を離すと一目散に逃げて行った。

 アーベル様は男たちを追いかけるのかなと思ったけど、途中で止まって引き返してきた。


「よかった!無事で」


 馬から降りたアーベル様は馬を引きながら歩いてきた。

 馬、でかい。


「あ、怖がらせてしまった?でも、この時間だし、心配になって追いかけてきてよかった」

「あ、ありがとうございます」


 馬に驚いている場合じゃない。

 私はお礼を言う。


「馬に乗れる?乗れなかったら歩いて行こう。家まで送っていく」

「え、あの」

「また絡まられたら、どう対応するの?」

「よ、よろしくお願いします」


 強く出られない。

 もうないと思うけど、可能性は捨てきれない。

 家まで送ってもらってら、玄関で待っていた両親が驚いた。

 助けてもらったと説明したら、なんだかアーベル様をお茶に誘うし。

 断ってと願ったけど、アーベル様は馬を家の庭につなぐとニコニコと笑顔で我が家に招かれた。

 うん。助けてもらったのだから、当然よね!

 だけど、生活ギリギリの男爵家に伯爵令息にお礼するものなんてない。

 だけど、両親は精いっぱいのもてなしをしていた。

 家で一番の高級紅茶に、えっと私が作ったクッキー。味は保証できる!

 

「美味しい」

「それは娘が作ったものなんです」


 お母さんがなぜは力説し始めた。

 それから、お父さんまで加わって私の自慢大会が〜〜

 やめて〜〜


 恥ずかしくて顔から火を噴きそうになっているのを、アーベル様は楽しそうに見ていた。


「明日から、馬車を迎えに寄越すから」

「はい?」

「歩いて学校に通うなんて、危ない」

「いえ、全然大丈夫ですから」


 っていうか、普通にみんな歩いてますよね??

 あ、貴族令嬢は一人で歩いてないかもしれないけど。

 制服着ちゃうから目立つんだろうな。

 ほーんと。


「マギーさん。また明日会おうね」

「え、はい!」


 そんなことを考えているうちに、アーベル様は馬で颯爽と帰ってしまった。


「お母さん!お父さん!明日迎えにくるって!」


 我に返って、はしたないこと思いながら、そう言いながら家にかけこんでしまった。

 礼儀がなってなくてすみませんね。

 まあ、周りも貴族といっても子爵家とか、あとはちょっと裕福な商人の家しかありませんから。大丈夫なはず。


「楽しみねぇ。ディオン様ってハンサムで優しそうで、しかも伯爵令息。なんていい物件なのかしら」

「でかした!我が娘よ」

「二人とも何言っているのよ!」


 同じ貴族だけど、伯爵と男爵じゃ、身分差が!

 いやいやいや。

 私は必死に否定したのに、二人は聞いてくれなかった。



 そうして翌日、アーベル様が爽やかに、キラキラしながら迎えにきてくださった。

 家紋つきの馬車で。

 目立つよ。本当。


「おはようございます。マギーさん」

「はい。おはようございます。アーベル様」


 朝から目がなんかチカチカするくらい眩しい笑顔。

 美形すぎるって問題なんですね。


「おお、君がマギー嬢か。おはよう」


 車内では、黒髪の青年がちょっと黒い笑顔で迎えてくれた。


「おはようございます」


 誰だ、この人。

 制服着ているから、学生だとわかるんだけど。

 えっと、まって、この人ってアーベル様といつも一緒にいる人だよね。

 名前は〜〜


「マギーさん。ごめんね。ほら車内で二人っきりはまずいと思って、もう一人乗せることにしたんだ。こいつは、エディ・ジソエル。僕の友達だ」

「初めまして。マギー・ヒルスです」


 ああ、エディ。エディ様って黄色い声でよばれていたっけ。


「よろしくな。俺はエディ・ジソエル。ディオンとは奴が王都に戻ってきてから友達になった。かれこれ、六年かな」

「六年。それは長いですね。よろしくお願いします」


 不躾な視線を浴びせてくるし、笑みが怪しすぎるので、全然よろしくしたくないんだけど、とりあえず挨拶はしておく。

 というか、これを毎日続けるつもりなのかな。

 やめてほしい。

 本当。


「ディオンは本当にいい奴なんだ。マギー嬢。だから、あまりこいつに迷惑をかけないでくれよな」

「それはもちろんです」


 言われなくても、なんていうか、今ムカってしたんだけど。

 

「迎えだって必要ないんですよ。本当。歩いていける距離ですし」

「だけど、危ないだろう。昨日みたいなことがあったらどうするの?」

「昨日は油断してました。今度ああいう人に絡まれたら、全速力で逃げ切ります」

「に、逃げ切る。全速力!令嬢のセリフじゃないな」

「……」


 まずかったかしら。

 まあ、猫かぶっても仕方ないし。


「私はご迷惑をかけたくないのですよ。だから、ジソエル様からもアーベル様に言ってください。迎えは必要ないと」

「だってよ。ディオン」

「必要だ。絶対に」

「マギー嬢。ディオンは頑固な奴だから諦めな。まあ、普通の令嬢じゃないみたいだし、迷惑をかけるつもりはないんだろ?」

「当たり前です!迎えは本当にやめてください。それぐらいなら、お父さんに送ってもらいますから」

「お父さん!?」


 アーベル様は目を丸くして、ジソエル様は笑い出す。


「お父さんときたか。執事とかじゃないんだな」

「執事に負担をかけるわけにはいかないですから。その点、父は暇そうですし」


 そう、父は何をしているのか、家で暇そうなのだ。

 本当、何をしてるんだろう。

 お母さんは何か忙しそうにしているのに。


「じゃあ、それでいいな。ディオン。諦めろ」

「わかりました。迎えは諦めます。でも家に送ることはさせてください」

「お断ります。それも父に頼めばいいことですから」

「ははは。面白い。ディオン。諦めろ。送迎なんてお前がしたら、色々問題も起きるだろうが」

「……仕方ないです。諦めます。でもお父上が都合が悪い時は言ってください」

「はい」


 言う訳ない。

 私の心の声は漏れていたのか、ジソエル様は笑っていた。



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