表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/16

知っている天井

 目を覚ますと知っている天井だった。


「戻ってきたんだ」


 体を起こしてみても、痛みなど何もない。


「ああ、よかった。だけど、心配しただろうなあ」


 最後に聞いたディオン様の叫び声は胸を締め付ける。


「マギー!」


 扉が突然開かれ、お母さんが現れた。

 お母さんは駆け寄ってくるとぎゅっと私を抱きしめる。


「よかった。目を覚ましてくれて」

「心配かけたみたいで、ごめんね」

「何を謝るの?謝る事なんてないのよ。悪いのはあなたを突き飛ばした令嬢でしょう?」

「うん。そうだね」


 あの女子生徒、それにレーヌさん。

 殺したいって思われるくらい恨まれていたんだな。

 私は悪くない。けど……


「マギー。本当あなたが無事でよかったわ」


 こうして抱きしめられると安心する。

 考えても仕方ない。

 それよりも……落ちた日から何日くらい経っているんだろう。どんな風に私は家に連れてこられたんだろう?

 私が疑問に思っていることは、母が私を抱きしめながら説明してくれた。


「突然アーベル様があなたを抱えて、現れた時はびっくりしたわ」

「アーベル様!?」


 ディオン様!?

 私を抱えるなんて、大きくなったんだねー

 いや、違う。 

 小さいディオン様と一緒にしちゃだめ。あの人は私と一緒に過ごした可愛らしい少年とは別人なんだから。

 私は呪文のようにそう心の中で復唱する。

 その間も母は話を続けた。


「アーベル様に事情を聞けば、女子生徒があなたを踊り場から突き飛ばした言うじゃない。あなたはあなたで何故か制服じゃなくて、見覚えのない古い型のドレスを着ていたし。アーベル様はひたすらご自分を責めるし、本当訳がわからなかったわ」

「アーベル様がご自分を責める!?そんな必要ないのに!」

「私もそう思ったので、何度もあなたのせいではないとお伝えしたわ。それでも納得してくれなくて、しかも貴方の側から離れようとしないし、困ったわ」


 母はその時を思い出したのか私から身体を離して困ったように笑う。


「何かあったの?」

「な、何にもない。何にも!」

「怪しいわね」

「本当に何でもないから」


 過去に飛ばされていたなんて信じてくれる訳がない。でもあれは本当の事だったんだ。だからアーベル様は……。

 頭に浮かぶのは小さいディオン様。

 私が突然消えてさぞかし驚いただろう。

 学園で私を見た時、どう思っただろう。


「マギー。アーベル様に連絡しましょうね。あなたが目覚めたと知ったら喜ぶわ。きっと物凄い心配されているはずだから」

「私が運ばれてから、どれくらい時間が経ってるの?」

「一日よ。昨日のお昼からずっと眠り続けていて、お医者様は疲労の為だろうっておっしゃっていたけど。お医者様もアーベル様が手配して下さったのよ」

「お母さん、連絡するのはもう少し待ってくれる?」

「どうして?」

「お願い!」

「わかったわ。でも明日には連絡するわよ。とても心配されていたのだから!」

「わかってる。ありがとう」


 彼が心配しているのはわかる。

 そして彼は知っただろう。

 私が過去から戻って来たって。

 だって私は古い型のドレスを着ていたと母は言ってたし、私を最初に見つけたのはアーベル様だろう。彼は私のドレスを見て、思い出したはず。多分。

 九年前、ディオン様が八歳の時に突然消えた私。彼は私を覚えていた。

 そう思うとなんとも表現できない感情がこころを渦巻く。


「まあ、休みなさい。今は。何か食べる物を持ってくるわね。お腹空いてるでしょう?」


 お母さんはポンポンと背中を軽く叩くと部屋を出て行った。


 どうしよう。

 突然私が消えてから、ディオン様がどう過ごしたのかと気になるけど、聞き辛い。

 どうやって接していいか、まったくわからない。

 だって、成長してディオン様、いや、アーベル様は私より一つ上だし、なんていうか完璧貴公子。

 立派な伯爵令息で、私とは違う世界の人にしか思えない。

 小さいディオン様も伯爵令息って感じだったけど、小さかったし。

 ああ。どうしたら。


「入るわよ」


 うちには一応メイドさんもいるんだけど、お母さんがミルク粥の入った器を持ってきてくれた。


「食べさせてあげるわ」

「自分でできるから」


 ー自分でできるよ。


 小さいディオン様の言葉を思い出す。


「どうしたの?」

「なんでもない。ありがとう。食べ終わったら呼ぶから」

「ああ、わかったわ」


 お母さんはちょっと考えたみたいだけど、頷くと部屋を出て行ってくれた。


 一人で考えたい。

 お母さんに、過去で幼い頃のアーベル様に会った事があるなんて言えるわけないし。


「あつっ」


 何も考えず、粥をスプーンで口に入れたら、舌を火傷してしまった。

 ひりひりする。

 あー、間抜け。

 本当どうしよう。


 息を吹きかけながら、ミルク粥を口にする。

 優しい甘さが口の中に広がる。

 するとなぜか、小さいディオン様の笑顔を思い出す。

 そして最後のあの声。


「やっぱり、会ったほうがいいよね」


 会いたくない。

 怖い。

 そんな気持ちが湧き起こってくる。

 だけど小さいディオン様のことを思うとそんな気持ちはなくなっていった。


 会おう。

 成長したディオン様、アーベル様に。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ