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芋女と完璧貴公子

「マギー・ヒルス令嬢」


名を呼ばれ振り返る。

 えっと、この人誰?

 異常に顔が整っている上、眩しい笑顔を振りまく御仁。

 金髪の髪は光を反射してキラキラしている。瞳は綺麗な緑色だ。

 目がおかしくなりそうなくらい存在が輝いている。


「ど、どちら様でしょうか?」


 そう尋ねると、その人が答えるよりも先に周りが騒ぎ出した。


ーあの芋女、ディオン様のことを知らないのよ

ー芋だから?

ー信じられないわ


 ディオン様?ああ、なんか聞いたことがある。


「僕の名前はディオン・アーベル。僕の名前と顔に見覚えないかな?」


 ディオンと名乗った貴公子は、少しだけ寂しげに笑う。


ーぎゃー。あの女。ディオン様にあんな顔させて

ーなんでディオン様のことを知らないのよ!


 外野が煩い。

 絶対騒ぎの元になる人だ。この人。

 ディオン・アーベル。確か一個上の学年で伯爵令息。クラスの女子の間で話題になっていた人だよね。


「すみません。私はいろいろ疎いもので。アーベル様。用がないようでしたらこれで失礼しますね」


 関わり合いにならないほうがいい。

 そう判断して背を向けたのだけど、相手はしつこかった。


「よ、用はあるんだ。ほら、あなたは、勉強得意だろう?教えてもらおうと思って」

「……あなたにですか?」


 全然接点がなかった人に急にそんなことを言われても。

 教える時間もないし。 

 その前に関わりたくない。


 周りを囲む女子たちの視線が痛すぎる。なんか目から矢とか飛んできそうなほど怖い。


「うん。僕に教えて。図書館にあなたはいつもいるだろう?だから、」


 なんで、この人そんなこと知ってるの?

 ちょっと気持ち悪い。

 何を企んでるの? 

 え?でも、うちは貧乏男爵だから得るものなんてないし。芋女って言われるくらいに容姿もさえないから、そういう面でも駄目だと思うんだけど。


「図書館にいる時だけでいいから。頼むよ」

「はい。かしこまりました」


 断るよりは受けたほうが無難に話がまとまる。あと会話もこれで終了しそう。

 私の予想は当たり、アーベル様はまたねとその場からいなくなった。

 その後に取り残された私は悲惨だった。

 ええ、難癖付けられましたよ。女子さんたちに。

 

 図書館はもう行けないな。



「マギーさん!」

 

 あの日から図書館に行かず、普段使っていない教室で勉強していたのだけど、アーベル様に見つかった。

 ちょっと泣きそうにしているのはなんでだろう。

 女子が周りにいないのは助かる。

 また騒がれそうだ。


「何の御用でしょうか?アーベル様」


 っていうか、マギーさんって私のこと名前で呼んでるし。この人、顔がいいから女子はすべて自分のものとでも思っているのかしら?

 ここ数日で、ディオン・アーベルの噂を集めてみた。

 伯爵令息で、唯一の男子なので将来は伯爵位を継ぐ。文武両道で完璧貴公子。女性に対しても表向きは礼儀正しいという話だった。まあ、実際はわからないけど。

 そんな完璧貴公子が私に何の用なのかな?


「どうして僕から逃げているの?」

「に、逃げる?どういう意味でしょうか?」

「図書館には来ないし、いつもお昼を食べていた場所にも姿を見せないし、そんなに僕が嫌い?」

「え?あの」


 っていうか、普段私が昼食を食べていた場所とか知っていたんだ。なんとなく避けていたけど良かった。でもそれで僕が嫌いって。確かに避けているみたいに見えるかもしれないけど。


「あの、誤解が生じているみたいですね。私はあなたのことをほとんど何も知りません。だから嫌う以前の問題でして」

「……全然、わからないんだね。というか、まだ?」

「アーベル様。何を言っているのでしょうか?」

「マギーさん。僕を避けるのはやめてよ。付きまとったりしないから。ただ少しだけ話がしたいんだ」

「話……」

「そう、話。話だけだよ。誓って何もしない」

「当たり前です!」


 なんでそういうこと言うのか。この人は。

 噂ではいつも落ち着いている貴公子って話で、遠くから見かけた彼もそんな感じだったのに、今目の前にいる彼はとても子供っぽい。

 なんか面白い。


「いいですよ。話だけなら。どうして、私と話したいのかわかりませんが。ここなら、きっと誰も来ないから、放課後こちらにきてください。話がしたい時は。ただいつもいるとは限りませんけど」

「ありがとう!毎日顔を出すよ!」

「いえいえ、毎日なんてとんでもない。恐ろしいこと言わないでください」

「恐ろしい。やっぱりあなたは僕のことが、」

「アーベル様。だから嫌う以前の問題です。ただ、あの、あなたは知らないかもしれませんが、あなたは女子にものすごい人気なんです。人目があるところで、会うと色々言われるんですよ」

「そうなの?誰が何を言ったか、教えてもらえる?」

「……えっと、名前はわからないですね」


 と、突然、様子が豹変したんだけど。誹謗してきた女子の名前は知っているけど、なんか危なそうなので言わないほうがいいかもしれない。


「とりあえず、ここは使われていない教室ではありますが、人が来ないとは限りません。毎日来るのはやめてください」

「わかったよ。迷惑はかけたくないし。二日に一回にする」

「それも多いです」

「ええ?じゃあ、三日に一回?」

「はい」

「じゃあ、一週間に二回しか会えないとこと?」

「そうですね。計算上では」

「ああ、マギーさんは意地悪だ」

「はあ」


 意地悪とか言われても困る。

 私は問題なく学園生活を送り、よい成績を収めて、王宮で文官として働くことを目的としている。

だから、問題に巻き込まれなくない。

 

「……前よりはまあ、ましかな。じゃあ、今日は一回目。お話をしよう」


 今日からなんですか?

 いわゆる有名人のアーベル様と話すのは気が進まなかったけど、話をしてみると面白かった。私の知らないことをよく知っていて感心させられた。

 

「あ、こんな時間!」


 六時のチャイムが鳴るまで話し込んでいて、慌てて机に広げた本を鞄に詰める。


「送っていこうか?」

「いえ、結構です」


 馬車代を節約するため、私は歩いて学園に通っている。まあ、そんなことするのは私くらいなもの。あまり遅いと危険なので、いつもは六時前に学園を出ていた。


「それではアーベル様。お先に失礼します」

 

 爵位が上のものに対して、少し失礼かと思ったのだけど、先を急いだほうがいいので、私は鞄を肩から掛けると、アーベル様の返事も待たず教室を後にした。

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