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『ビンゴくんの同情的憐憫』

新生活にもようやく馴染み、夏休みを目前に控えた敏悟(びんご)くん。

胡乱(うろん)な料理部部長、黒衣の奇妙な近隣住民、そしてまさかの赤点、追試。

陽射しはいよいよ熱を増し、2017年の夏は盛りを迎えようとしていた。


登場人物

敏悟(びんご)

神戸(かんべ) 敏悟(びんご)」。

高校2年生。年上好き。世話焼き。

香澄(かすみ)

入矢(いりや) 香澄(かすみ)」。

高校2年生。ヒロインに似た何か。読書好き。

(らん)

尾上(おがみ) (らん)」。

近隣住民。片付けられない女。

■巽

串野(くしの) (たつみ)」。

高校2年生。何もしない(おとこ)

太一(たいち)

戸賀(とが) 太一(たいち)

小学5年生。家主の息子。味にはうるさい方。



―平成29年真夏の直前―

【モノローグ】(敏悟):血のように赤い夕暮れ。


蘭:アナタとワタシは、似ている、って聞いたから。

蘭:……仲良くしましょう、ね。


【モノローグ】(敏悟):その人の影は、何かを引き()って伸びているかのように、黒かった。


―タイトルコール。

蘭:『ビンゴくんの同情的(どうじょうてき)憐憫(れんびん)


―【間】


【モノローグ】(敏悟):俺の名前は「神戸敏悟(かんべびんご)」。

【モノローグ】(敏悟):両親を事故で亡くし、紆余曲折(うよきょくせつ)の果て、母の旧友である美人小説家(未亡人)の元に身を寄せ、戸惑いながらもウハウハドッキドキの同居生活を送る、どこにでも居る普通の高校生さっ。

【モノローグ】(敏悟):……等と、説明臭い戯言(たわごと)は置いといて。


敏悟:あーーーー……。

敏悟:……暑っつ……。


【モノローグ】(敏悟):「普通」だの「変」だのを、くっきり2つに区別するナンセンスを、高2ともなれば自覚しつつも。

【モノローグ】(敏悟):果たして実際、自分は、どうなんだろうか。

【モノローグ】(敏悟):名前と境遇は置いといて、他に……、

【モノローグ】(敏悟):人が特別誇り、或いは卑下する(たぐい)の変さはあるのか?

【モノローグ】(敏悟):時として無責任な他人が、「中身」とでも、呼ぶような。

【モノローグ】(敏悟):蝉が煩く鳴き、夏の盛りを間近に控えた夕暮れのホームにて。

【モノローグ】(敏悟):すっかり癖付いた詮無き思索に(ふけ)っていると、

【モノローグ】(敏悟):半ズボンを履いた、紅顔(こうがん)の悪魔が現れた。


太一:……あァ。嫌なモノ見ちゃった。

太一:人生に疲れ切った高校生の背中。


敏悟:……太一じゃん。おかえり。


【モノローグ】(敏悟):「戸賀太一(とがたいち)」。

【モノローグ】(敏悟):家主たる「戸賀(とが)梨子(なしこ)」さんの、息子。ちなみに養子であり、

【モノローグ】(敏悟):整った小作りの顔に、恐るべきこまっしゃくれた舌を生やした、鬼もそこ退()く小学5年生である。


太一:魂は肉体の3倍早く老いるって言うけど。ますます、年を取るのが怖くなるね。


敏悟:……天才子役みたいなコト言って。

敏悟:今から塾?


太一:そー。今日2発目。

太一:言ってたように夜は、


敏悟:お呼ばれするんだよな、六段(ろくだん)さんトコ。


太一:……うん。

太一:遂に包囲された気分だけど、さ。


敏悟:だいぶ、変わった子、だよな。太一も大概だけど。


太一:珍しく同意見だね。ただ僕なんか遠く及ばないよ、彼女の人生設計の早さには。


敏悟:耳年増、っていうかなんていうか……、


太一:夕食を頂いたら早急に退避しないと。何らかの既成事実を作られたら堪んない。


敏悟:わかって言ってんの? ソレ……。

敏悟:結婚、したいんだっけ、本気で。


太一:……彼女の言う「本気」が、どこまでの物かは知らないけど。

太一:少なくとも眼は真剣(マジ)ってヤツ。


敏悟:……お気を付けて。


太一:ビンゴこそ。

太一:人の心配してる暇があったら、精々追試を一回で済ませられるようにさ、


香澄:(遮り)あぁー。赤点ビンゴくんだぁ。


【モノローグ】(敏悟):家族モドキの寄る辺なき会話を、薄く、細い、三日月のような笑みが遮った。


香澄:(歩み寄りつつ)

香澄:油売っててイイのかなぁ。


敏悟:……図書室閉まったから。家着くまで、気分転換。


【モノローグ】(敏悟):「入矢香澄(いりやかすみ)」。隣のクラスの女子。

【モノローグ】(敏悟):ニヤついた、常に嘲るような気色(きしょく)を湛えつつ、赤点や補習等には縁遠い、如才(じょさい)なき同級生。

【モノローグ】(敏悟):そして、何より、


太一:「変な女子」、だ。

太一:ビンゴが言ってた。


香澄:(ニヤ、と笑み)

香澄:……へぇ?


敏悟:コラコラぁ、太一クン。

敏悟:何ヲ馬鹿ナ、ソンナノヒトコトダッテ俺ハ、


香澄:言ってるんだぁ、そーいう風に。ふぅん……。


太一:よくね。

太一:何かと絡んで来て、アレはきっと俺に気があるんだ、とか何とか、


敏悟:(思わず大声で突っ込み)

敏悟:純然たる嘘はヤメろよっ!!!


―人も疎らなホームで、それでも視線が集まり。


香澄:……ヤメてよ大声。見てるじゃん、人。


太一:常識まで前の家に忘れて来たの? 人としても赤点だね。


敏悟:(周囲を気にしつつ)

敏悟:あ、いや、


香澄:ウクク。無視して他人のフリしよっかぁ。

香澄:ね、「T君」。


太一:……エッセイの読者か、母さんの。

太一:名案だね。


敏悟:いや、あの、


香澄:(無視して)

香澄:ホントにエッセイのまんまの話し方なんだぁ。何だか不思議。


太一:母さんの本、どれが好き?


香澄:ええっとねぇ、


敏悟:おーい、


香澄:(無視して)

香澄:全作網羅は出来て無いんだけど、取り敢えずデビュー作は何回も読んだよ。


太一:「天の庭の球技」ね。僕も面白いと思う。


敏悟:ちょっと、


香澄:(無視して)

香澄:後の作品のエッセンスが詰まっててね。作者のデビューの、処女作にはさぁ、


太一:その作家の生涯の全てがあらかじめ、って言うよね。ただ母さんの場合は後もかなり、


香澄:挑戦的な作家だよねぇ、アプローチが毎回違うし、


敏悟:あのォー……、


太一:(無視して)

太一:視座っていうか、切り口を幾つも使い分けられるのが優れた作家の資質な訳だけど、そりゃぁ伊達に恩行(おんぎょう)大学文学部を、


香澄:出てないよねぇ。「筆の力とは知の力」、って、後書きにもよく、


太一:母さんの師匠の言葉だね。

太一:「土屋毬子(つちやまりこ)」さん、お正月に毎年来るよ。


香澄:ソレ本当ぉっ!?

香澄:えっ、凄い……っ、……、

香澄:何とか、同席、叶わないかな……、

香澄:ねっ、ビンゴくん、


―ばっ、と、敏悟に振り向き。


敏悟:……散々無視しといて。

敏悟:そーいう時にだけ……、


太一:ちなみにビンゴは、一冊でも読めたの? 母さんの作品。


敏悟:いやあの……、

敏悟:さっ、最新のあの、黄色い表紙のヤツはこないだ、


香澄:アレ、児童向けの絵本でしょぉ。内容は良かったけど。


敏悟:……絵も、良かったケド。


【モノローグ】(敏悟):結構胸に刺さったけどな……。

【モノローグ】(敏悟):おれにはひらがなぐらいが、ちょうどいいのかな。

【モノローグ】(敏悟):等と、意味もなく卑屈になっていると、

【モノローグ】(敏悟):転轍機が鈍く(きし)り、踏切の警報が、電車の到着を告げる。


太一:さて、来た。

太一:……お先に。お姉さん。


香澄:ばいばぁい。

香澄:妙な勘違いされない言動を心がけるねぇ。


敏悟:してないって。


太一:ビンゴも。ちょっとは真面目に生きなよ。


【モノローグ】(敏悟):……スゴい事を言われた。小学生に。

【モノローグ】(敏悟):鋭目のボディブローを残し、諧謔(かいぎゃく)児童は車窓へと去り。

【モノローグ】(敏悟):ホームには、俺と、変な女が残された。


香澄:綺麗な子だねぇ。

香澄:エッセイの、文章のイメージ通り。流石の筆致(ひっち)


敏悟:……本、好きなんだな。


香澄:程々に、ね。

香澄:……小さい頃から。


敏悟:へえ……、


香澄:物語を読んで。

香澄:ココじゃないドコカへ、心を逃していなければ……、

香澄:とっくの昔に、壊れてたと思うから。


敏悟:……、ふーん。


【モノローグ】(敏悟):細い月の笑みが、形をそのままに、冬の氷のように凍て付いた、気がした。


―【間】


【モノローグ】(敏悟):ニヤけた同級生は、お兄さんと共に暮らすマンションがあるという、「裃口(かみしもぐち)」の駅で降りて行き。

【モノローグ】(敏悟):俺は3駅、鈍行に揺られ。

【モノローグ】(敏悟):戸賀梨子邸より徒歩10分、ターコイズのタイルも(おもむき)(ぶか)し、「(はた)(つじ)」駅で降車した。

【モノローグ】(敏悟):紫の炭酸飲料片手に、俗に言う閑静な住宅街をトボトボと歩いていると。

【モノローグ】(敏悟):暮れかかる黄昏の闇に溶け、

【モノローグ】(敏悟):電柱の陰に、幽鬼の如き人影が。

【モノローグ】(敏悟):俺とて人の子。有り体に言うならば、


敏悟:(乱れた息を整えつつ)

敏悟:っ……、マジでクソほどビビりましたって……っ、はぁっ、はぁっ……っ、


蘭:……何がそんなに?

蘭:ただ、ビンゴくんまだかなあ、って、待ってたダケなのに、な。


敏悟:いやあの、もっと普通に……、


【モノローグ】(敏悟):「尾上蘭(おがみらん)」さん、28歳。

【モノローグ】(敏悟):年齢は先日聞いたんだけれども。

【モノローグ】(敏悟):梨子さんが言うところの「要注意近隣住民」、トップ3の一角。

【モノローグ】(敏悟):住宅地の外れ、広い角地の、何とも怪しげな洋館に一人で暮らす、魔女の如き女性。

【モノローグ】(敏悟):気分に依らず憂いを帯びた美貌や、季節を問わず纏う黒尽くめの衣服など、特筆すべき箇所は多々あるが。

【モノローグ】(敏悟):目下、俺に取ってのこの人は、


敏悟:「片付けられない女」発動ですか、また。


蘭:……正、解。

蘭:今日のワタシは片付けられない女。


敏悟:いつもでしょ。知ってる限り。


蘭:コーヒードリッパーが見つからない、の……。

蘭:フィルターは出てきたんだけど。


敏悟:……ちなみに、フィルターはドコから?


蘭:玄関。


敏悟:一体何をどうしたらソコへ……。

敏悟:あー、と、ドリッパーは確か、冷蔵庫の横の棚の、下の引き戸か、


蘭:口で言っても無駄だよ。2回ぐらい地殻変動が起こってるから。

蘭:敏悟くんは取り敢えず、うちへ来るしか無いと思う、な。


敏悟:(頭を抱え)

敏悟:……夕飯が……。


【モノローグ】(敏悟):普段なら、「ちょっとだけ遅くなります」、との旨を梨子さんにメールするところだが、今日はイイとして。

【モノローグ】(敏悟):いざや向かうは、黒い魔女の館。

【モノローグ】(敏悟):ていうか……、

【モノローグ】(敏悟):ゴミ屋敷。

【モノローグ】(敏悟):絶望的なまでに整頓の才能に恵まれぬ反面、潔癖の気もある為か、生ゴミ・生活ゴミの類だけはどうにか代謝されてはいるものの。

【モノローグ】(敏悟):古く(いかめ)しく、豪奢(ごうしゃ)な玄関を一歩入るとソコは、


敏悟:うおお……。

敏悟:前にも増してモノの迷宮……っ。


蘭:どう、ぞ。狭い家だけど。


敏悟:いや、広いんですよ、元はメチャクチャ。

敏悟:……何で玄関先の廊下にルームランナーが来てるんですか……。


蘭:私の部屋だとやっぱり手狭になったから……。

蘭:頑張って動かした、の。


【モノローグ】(敏悟):……で。そのルームランナーのあったスペースには、


敏悟:ええ……??


【モノローグ】(敏悟):以前片付けた際には、奥の間の書斎の更に奥、本棚の隣にあった筈の、アンティークのレコードプレイヤーが。


敏悟:……何でよ。

敏悟:夜中に足でも生えて一人でに移動したんですか……。


蘭:怖いこと言わないで。


敏悟:怖いのはコッチですって。


蘭:ドリッパー、見つけてくれてありがとう。

蘭:お詫びに珈琲を淹れてあげるから、レコードを一曲いかが?


敏悟:……聞きたかったんですか? 自分の部屋で。

敏悟:それでワザワザ?


蘭:お義父さんの趣味。

蘭:いいモノだよ、電子音声とはやっぱり違う……。

蘭:……珈琲は?


敏悟:……、

敏悟:頂いたら、帰りますから。


【モノローグ】(敏悟):結局、古い洋楽がうっそりと流れる中、蘭さんの徒然話(つれづればなし)に付き合って。

【モノローグ】(敏悟):珈琲は、2杯。

【モノローグ】(敏悟):……ちなみにドリッパーは風呂場の隣、勝手口の戸棚から出て来た。

【モノローグ】(敏悟):ポルターガイストでも取り憑いてるんじゃないか。

【モノローグ】(敏悟):しかし実際……、ちょっと洒落にならないんだな、コレが。


―【間】


香澄:……へぇーぇ。ビンゴくんってホントに未亡人が好きなんだねぇ。センサーでも付いてるの?


【モノローグ】(敏悟):翌日、放課後。家庭科室。


敏悟:……部活動中だぜ。関係ナイ話は慎めよ。


香澄:調理台の上で追試の勉強してるヒトがナニか言ってまぁす。


巽:構わねェさ、構わねェぜ。俺はナニしてくれても。

巽:ただ俺の平穏を、奪わないでさえくれたらよォ。


【モノローグ】(敏悟):家庭科室の隅に持ち込んだ折り畳みチェアで悠々、雑誌を読むこの男は「串野巽(くしのたつみ)」。

【モノローグ】(敏悟):俺の所属する、製菓料理部の部長を務める男。

【モノローグ】(敏悟):ちなみに、副部長は俺である。


敏悟:料理とお菓子作りだけはやらないのな、結局。


巽:やってくれても構わんぜ、神戸がやりてェなら。ニンニク系は勘弁だがな。


敏悟:……いいよ。おかしいだろ俺だけ作ってたら。


香澄:食べる役でなら助っ人、来てあげてもいいケドぉ。


巽:俺もヤブサカではねェぜ。


【モノローグ】(敏悟):「ねェぜ」じゃねェぜ。


敏悟:……調理器具揃ったらな。

敏悟:部長は何をやってんだよ。


巽:俺は何もしねェ。ただ其処(そこ)に、居るだけの男だ。


敏悟:ついてナイからな、カッコ。


香澄:どーしてナニもしないの? 串野くん。


巽:んン?


【モノローグ】(敏悟):足を組み換え、無駄にニヒルに身を起こす。

【モノローグ】(敏悟):ちなみに入矢と串野は、同じクラスである。


巽:……俺ァよォ。

巽:見ての通り中学じゃ、ちィとバカシ荒れちまっててよォ。


敏悟:浮いてたのは判るけど。


巽:そんトキ世話ンなった教師によォ、言われたんだよ。


香澄:何て?


巽:「自分の価値を上げたきゃ、まず自分から、価値のある行動を取らなきゃ」、とよォ。


敏悟:(もっと)もじゃん。普通だけど。


香澄:私は嫌いだな。ドヤ顔でそーいう事言う教師。


巽:俺もよ。言い(ざま)と、何よりその、同情するみてェな、カワイソーなモンを見るみてェなカオに、キレちまってよ。

巽:茶ァひっくり返して指導室飛び出してからコッチ。

巽:納得行くまで、あの女の言葉に逆らって生きてやると決めたんだ、俺ァ。


敏悟:そのココロは?


巽:価値のある、面白ェモンが向こうから転がり込んで来るまでよ……、

巽:俺ァ、自分からは何もしねェ。


【モノローグ】(敏悟):最大級のドヤ顔で言い放ちやがった。

【モノローグ】(敏悟):……同情、ね。する方だけはイイ気分、と。

【モノローグ】(敏悟):ま、幽霊部長の奇天烈な人生哲学は、ここらで置いといて。


香澄:でもそっかぁ。『コッペリア』の美人な店員さん。

香澄:お家、中はそんななんだぁ……。


敏悟:知ってんの??

敏悟:週一かちょっとだけ、働いてるとは聞いたけど……、


香澄:レトロブームに乗って、一昨年(おととし)ぐらいに出来たんだけど。結構人気あるんだよ。


巽:喫茶店だろ、「奥伝森(おうでんもり)」の駅前の。テレビか何かにも出たらしいなァ。


香澄:私も、たまぁに行くけど。何回か珈琲出して貰ったよ。

香澄:無口だけど、手付きが素敵。


敏悟:……確かに珈琲は美味かった。店の豆使ってるって言ってたし。


香澄:……ていうかでも、ホントにずっと1人で住んでるの?


巽:ンな広い屋敷にか?


敏悟:……んーー。

敏悟:これは……、近所じゃ全員知ってる事なんだけど、


香澄:ビンゴくんが天涯孤独の可哀想な子って話ぐらいには、デショ。


敏悟:……ま、系統としちゃ似てるかな。

敏悟:あの人……、早目に結婚して、その屋敷に嫁いで来たらしいんだけど、


香澄:うん、うん。それで、旦那さんを亡くして、


敏悟:……それからスグに、相次いで……、

敏悟:屋敷に住んでる親族全員、亡くなったんだって。


―【間】


【モノローグ】(敏悟):……等と、意味深に引きを作ってみたものの。

【モノローグ】(敏悟):呪怨だの、保険金だのの剣呑なアレでは無く。

【モノローグ】(敏悟):結婚の時点で、夫の両親は高齢、且つどちらも持病を患っており。

【モノローグ】(敏悟):そして夫は、生まれ付いての虚弱・病弱だった。

【モノローグ】(敏悟):それだけの話だ、と当の未亡人は、新品のシーツみたいに読めない表情で言うけれど。

【モノローグ】(敏悟):さて。





太一:……ふぅん。一途にも母さんに(みさお)を立ててるのかと思えば。

太一:隠れてそんな事をやってるの。


【モノローグ】(敏悟):帰宅し、太一との二人の食卓。梨子さんの執筆中にはよくある光景であるし。

【モノローグ】(敏悟):今は何せ、新作の為の取材旅行中につき、家主は不在なのである。

【モノローグ】(敏悟):今日のメニューは、ばら寿司。


太一:抜け目の無いイヤラシさだなぁ。

太一:流石は下半身魔神。間男(まおとこ)永世名人級。


敏悟:増やすの止めて、アダ名……。


太一:あ、紅ショウガいっぱい乗せて良いっ?


敏悟:良いけどお腹壊さない量で。

敏悟:ていうかさ、


太一:何?


敏悟:(妙に真摯に)梨子さんも尾上さんも、現状独身なんだから間男ではないだろ。


太一:目ェ剥いて言うこと? ソレ。下心認めてるじゃん。


敏悟:いや、いや……。


【モノローグ】(敏悟):一般論、いっぱんろんでヤンスよ、へっへへへ……。

【モノローグ】(敏悟):あとショウガ乗せすぎ。後で胃薬飲まそ……。


太一:それで今度の休みに、本格的な整理整頓って?


敏悟:ん、まあ……。

敏悟:前回から結構間が空いたから、必需品だけ発掘に。あと大まかな配置と、


太一:細かい物なら買えば良いのに、その都度。

太一:遺産もあれば、土地や不動産だって丸ごと、


敏悟:それやると無限に増えるからさ、モノが。


太一:掃除や整頓なんか、業者でも呼べば、


敏悟:何か……、知らない他人を入れるのがあんまり、っていう……、

敏悟:基本的に物を大事にしたい性分らしいし。

敏悟:本人も散らかしたい訳じゃ、


太一:随分親身になってるね。

太一:ご褒美は何なワケ?


敏悟:…………、

敏悟:美味しい、珈琲だよ。


太一:子供騙しも大概にしてよね。


【モノローグ】(敏悟):ですよねー。はい。


太一:何にせよ。ご近所付き合いの域を越えてるなぁ。

太一:我が家の諸々に支障のない範囲でね。


敏悟:わかってるよ。

敏悟:何より、俺には追試が、


太一:諦めたのかと思った。

太一:頑張ってよね、海、楽しみにしてるんだから。


敏悟:いや別に俺抜きで行ってもらって全然……。

敏悟:……太一の方は?


太一:なに?


敏悟:昨日のお呼ばれ。(つつが)無くイケたワケ。


太一:……、直截的なナニかは、特段。

太一:彼女がどんどん薄着になって行く事を除いては。


敏悟:小5にナニを求めてんだろーね。


太一:彼女も小5だけどね。

太一:…………、

太一:あのさ、


敏悟:ん? あ、ショウガはコレ以上、


太一:違うよ。

太一:尾上さん()の整頓、土曜日だっけ。


敏悟:そーだけど。


太一:……僕も同行してお手伝いするのは、都合が悪い?


敏悟:……問題、は無いだろうけど。

敏悟:どういう……、


太一:風の吹き回しかは、割愛するけど。

太一:…………彼女が家に来たがってる。


敏悟:え、

敏悟:……六段さん?


太一:目下、僕が「彼女」と言えばそうなるね。


敏悟:普通に断れば? 親も居ないし、って、


太一:何となくだけど。

太一:母さんの不在を彼女に知られたくない。


敏悟:珍しくビビってるじゃん。


太一:というより……。

太一:侮れない、と思ってるだけだよ。「六段葦乃(ろくだんあしの)」という女の本気(マジ)を。


【モノローグ】(敏悟):小さな悪魔がこうも(おのの)くとは……、末が恐ろし過ぎる女児である。

【モノローグ】(敏悟):まあ、何はさて。ご町内とはいえ、旅は道連れ。


敏悟:旨い珈琲、淹れて貰えるよ。


太一:……生憎だけど。

太一:僕は紅茶派なんでね。


―【間】


【モノローグ】(敏悟):翌日。部室にて入矢を師と仰ぎ、小馬鹿にされつつ数学を手解きを受けた後、切り良く解散。

【モノローグ】(敏悟):帰宅の途上、浮かび上がるは黒い女の影。

【モノローグ】(敏悟):……遠回り、すれば良かった。


蘭:おかえり。敏悟くん。


敏悟:何でいつも逆光を背負ってるんですか……。


蘭:さあ……? 帰り道の方角の問題だと思うけど、な。

蘭:疲れてる……? 敏悟くん。


敏悟:えーと、質問の意図が、


蘭:爪切り、

蘭:って……、


敏悟:あー、と……、

敏悟:前は確か、リビングの黒の棚に戻した気が……、


蘭:崩れちゃった。


敏悟:流石に新しく買います? 日用品系、


蘭:駄目、なの。

蘭:あれが、いい。


敏悟:……、


蘭:お義母(かあ)さんが、良いよ、って、奨めてくれたもの、だから。

蘭:まだ壊れてない、から……。


敏悟:……、


蘭:ごめん、ね。

蘭:やっぱり、大丈夫。


敏悟:ちょっと、寄ります。

敏悟:……珈琲は、今日は結構。


―【間】


【モノローグ】(敏悟):ガレージにあった。

【モノローグ】(敏悟):どこで爪を切ってるんだよ……。


蘭:ありがとう。明日、出勤の日だから……。


敏悟:いえ……。

敏悟:他に、必要なモノがあればついでに掘り出しますけど、


蘭:ううん。自分で探して出てくる事もあるから。


敏悟:じゃ……、本格的なのは土曜に。

敏悟:……あ、あの、


蘭:なに?


敏悟:増員を連れて来ても、良いですか。

敏悟:梨子さんの、息子さんなんですけど、


蘭:太一くん……?

蘭:勿論良い、よ。


敏悟:言いふらす子じゃ無いと思うんで、


蘭:ありがとう。

蘭:……とっくにご近所中、知ってると思うけど、ね。


敏悟:……、さあ。


【モノローグ】(敏悟):ホントに。噂ってヤツは。

【モノローグ】(敏悟):ドコをどう巡って、千里を走るんでしょうか、ね。

【モノローグ】(敏悟):重量級のレコードや、ぶっ倒れたコート掛け、その他をぼんやりと眺めながら、ふと、思いついた。


敏悟:……増員、もうちょい増えてもイイですか。


蘭:ああ……、実質男手1人だもん、ね。


敏悟:多分、その方が早いんで。

敏悟:来るとしても、近所の人間ではないので、


蘭:近くても、平気。

蘭:「恥ずかしい」、って、最近、どんどんわからなくなってきてるから……。

蘭:自分の身嗜みさえ大丈夫なら、良いかな、って。


敏悟:……、ソレすら、興味が無くなって来たら。

敏悟:ホントにヤバいって、聞きますね。


蘭:だから……、『コッペリア』で働き始めたの。

蘭:……ねえ、敏悟くん、


敏悟:はい?


蘭:どうしてこんなに、やさしくしてくれるの?


敏悟:……、……、


【モノローグ】(敏悟):そりゃあ。

【モノローグ】(敏悟):そりゃあ、もちろん。

【モノローグ】(敏悟):みんな大嫌いで、大好きな……、

【モノローグ】(敏悟):同情とか。憐れみ、とか。

【モノローグ】(敏悟):そういう、ヤツでヤンスよ。


―【間】


蘭:わあ……。いらっしゃい。


太一:おじゃましまぁす。


香澄:まぁす。ウクク。


【モノローグ】(敏悟):2日飛んで、土曜日。

【モノローグ】(敏悟):蝉は鳴き、太陽はいよいよシャカリキではあったけれど。

【モノローグ】(敏悟):不思議と風のある日だった。


蘭:皆さん、ありがとう。

蘭:家中……、エアコンだけ、付けといた。


敏悟:どうも。大所帯ですみません。


巽:神戸よォ。この俺もいくら無頼を気取ってたって、イザとなりゃァ何だかんだで男を見せると思ってんだろ? なァ?


香澄:違うの?


巽:(ニヒルかつクールに決め)

巽:俺は自分から来たとしても、何もしない男だぜ。


敏悟:最早何でだよ。意味がわからねェよ。


太一:僕こういう年上嫌いだなぁ。日本はコイツらの代で終わりだね。


香澄:ウクク……、面白ぉい。

香澄:私以外全員変。


【モノローグ】(敏悟):頼りになるのか、ならないのか微妙極まるメンツを引き連れて。

【モノローグ】(敏悟):まずはこれまた美味なアイス珈琲を頂いてから、早々と作業にかかる。

【モノローグ】(敏悟):太一が半分残した珈琲も俺が片付けたので、少々、水っ腹である。


太一:まずはさぁ、全体像の把握じゃないの。


香澄:最終的な形を決めてからかかりたいよね。

香澄:大まかな間取り図を作って、尾上さんに希望の配置を書き込んで貰ったら。


太一:紙とペンを持って各自散らばって、エリア毎に掌握していく、だね。


敏悟:ダンジョン攻略そのものじゃん……。しかも難易度キツ目の昔のゲームの。


【モノローグ】(敏悟):案外と適任だったらしい。少なくとも太一と入矢の2名は。

【モノローグ】(敏悟):一方。別に全然イイんだけども、「片付けられない女」と、「何もしない男」は。


巽:いやァ、お構いなく。俺ァ邪魔だけはしねェんで。


蘭:ワタシも、同じだから……。

蘭:しりとり、する?


巽:おォ? へへっ、受けて立ちますぜ。


【モノローグ】(敏悟):アッチはアッチで案外と嵌ってるようではあるけど……。

【モノローグ】(敏悟):まあ、イイや。


―【間】


太一:ビンゴーーーっ!

太一:ちょっとコレ、僕と香澄さんでは無理っ!


敏悟:あいよーーーっ、今行くーーっ。


【モノローグ】(敏悟):整理と、整頓。


香澄:まず大物を置いちゃってから細かいトコ、かな。

香澄:あっ、モノの上にモノを載せちゃ駄目っ。


【モノローグ】(敏悟):運搬と、配置。


敏悟:ようやく床をイケるな……。まずもって箒やら拭くヤツやら、


香澄:お風呂場のロッカーにあったよ。


太一:掃除用具は一旦こっちにまとめるのがイイんじゃない。あと、ゴミ袋。


敏悟:動いてると暑いな、やっぱ……、


【モノローグ】(敏悟):分類と、まとめ作業。


蘭:「燕尾服」。


巽:く、く……、「クリスマス」。


蘭:「隙間」。


巽:ま? ……、抹茶プリ、おっと危ねェ、「抹茶パフェ」っ。


蘭:「フェスティバル」。


巽:「(ご自由に)」っ。


蘭:「(ご自由に)」。


巽:うぐォっ、……「(ご自由に)」っ!


【モノローグ】(敏悟):しりとりと、

【モノローグ】(敏悟):ってオイっ!

【モノローグ】(敏悟):やってらんねェっ。我々も休憩、休憩っ。


香澄:はぁ。ちょっとソコのローソン行って来まぁーす。


太一:あっ、僕もっ。ソルティライチっ。


香澄:クフ。アイス買ってあげようかぁ。


太一:ビンゴに請求してね、ちゃんと。


【モノローグ】(敏悟):何やら太一は、入矢に懐いたようだけど。通ずるモノでもあったのかね。

【モノローグ】(敏悟):……俺も適度に涼み、休憩しつつ。

【モノローグ】(敏悟):生活周りの細かいモノの、分類などに取り掛かった。


巽:……よォく働くねェ、しかし。


蘭:こうして座って見てるのが申し訳なくなる、ね。


巽:人情、ってモンすねェ。


巽:ソコをグっ、と(こら)えて。「敢えて」何もしねェ、ってのが、今の俺の流儀なんすがね。


蘭:かっこいいと、思う。


巽:おっ、そーすか? へへっ……。


【モノローグ】(敏悟):何を粋に笑ってんだ。

【モノローグ】(敏悟):高校生を甘やかさないでください、この国の将来の為に……。

【モノローグ】(敏悟):作業の精神衛生上良くないので、暫く無視した。


巽:(整いつつある屋内を見渡しつつ)

巽:……しかし。さっきからアッチ行ったりコッチ運んだりしてるのを見てると、色んなモンがありますね、この家。


蘭:ホントに……、結婚のご挨拶で、初めて来た時はびっくりした。

蘭:さっきまでソコにあった、古いレコードの機械は……、義理のお父さん、夫の父の趣味。


巽:へェ……。


蘭:よく書斎で聞かせてくれて、ね。

蘭:今でもよく聞くような曲も、原曲は凄く古いものもあるんだよ、って。

蘭:それからガラスの壺、アソコにあった、でしょ? さっきまで。


巽:神戸がプルプルしながら運んでたヤツすね。


蘭:アレはお義母さんの。ガラスの調度品、壷とか、お皿とかが趣味で。

蘭:1つ1つ、光の閉じ込め方が違うから、置く場所も1つ1つ、考えるんだって。窓の近くが良いのか、敢えて、暗い所か。

巽:はァーっ。高尚っつーか、なんつーか……、


蘭:私も、最初は全然、知らないモノたちだったけれど。

蘭:でも、その人の「好き」が伝わってくれば、わかるもの。


巽:……そりゃ、そうっすね。

巽:ソコはわかる。


蘭:……聞いたかも、しれないけど。

蘭:この家、私の他はもう皆、亡くなってしまっていて……、


巽:ええ、ま、ちょっと小耳に……、


蘭:写真が、ね、あるの。

蘭:……、よいしょ、


巽:あ、イケるすか、


蘭:コレだけは、皆のモノに紛れちゃわないように、枕元に置いてあるんだけど、


巽:みんなの、もの。

巽:……、


蘭:(見せつつ)コレ……、


巽:お、どーも。

巽:……はァーっ。いかにも、って感じの……、


蘭:結婚してスグだから……、

蘭:6年、ううん7年前、かな。

蘭:こっち側の、眼鏡のまあるい人が、お義父さん。


巽:おー。貫禄あるっすね。


蘭:昔から、大橋巨泉、っていう人に似てるって言われる、って。ワタシは世代が違うけど、


巽:昔のタレントっすね。


蘭:調べたら、似てた。フフ。

蘭:でもお父さんの方が、福耳。


巽:ホントだ、耳たぶ。


蘭:こっちがお義母さん。この時はもう闘病中だから、かなり、痩せてるけど。

蘭:ダイエットの手間が省けた、って、いつも、冗談を言ってて、


巽:言われる方はちょい困るヤツっすね。

巽:でもま、根っから明るそうな、


蘭:うん……。とっても。

蘭:娘がもう1人欲しかったの、って。凄く、良くしてくれて。


巽:へェー……。

巽:てことは、この女の人は、


蘭:倫也(ともや)さん、あ、主人の……、妹さん。

蘭:結婚の少し前に、ちょっと、事情があって、この家に戻って来てて、


巽:離婚とかすか?

巽:あ、すんません、


蘭:ううん。そう、なの。

蘭:この子も冗談好きで、ちょっと皮肉屋な所もあるけど……、

蘭:あ、そう、今日来てくれてる、入矢さん? 彼女にちょっと、雰囲気が……、


巽:あーー。まあ、そっすね、ドコとなく。微妙にイジワルっぽいトコとか、


―唐突に声が差し込まれ。


香澄:誰が意地悪ぅ?


巽:(驚き)うおっ。

巽:……早ェな、帰るの。


香澄:すぐソコだもん。

香澄:……写真、見てたの?


蘭:フ、フ。

蘭:お手伝いもせず、ね。

蘭:この、女の人が、アナタに似てる、って。


香澄:(覗き込み)

香澄:……、私、こんなに綺麗じゃない、です。


太一:(横からひょこりと顔を出し)

太一:世間的には同じぐらいのレベルじゃないの。大概の男は ま、喜ぶ(たぐい)の。


巽:さっきからこまっしゃくれたガキだなァ、おい。


太一:アンタこそ。その昔の不良ドラマみたいな喋り方、ドコで習ったの?


巽:やるかァ、オうっ。

巽:しりとりで勝負すっかァ?


太一:僕、強いよ。ひと山いくらの小学生とは語彙力が違うから。


巽:世も末だぜ小学生がヒトヤマいくらで売られてたらよォ。


太一:孤児院なんて今もそんなモンだけど。


香澄:あっちでやってね、うるさいから。

香澄:(写真へと目を戻し)

香澄:この、隣に立ってる方が、その……、


蘭:うん。主人、ね。

蘭:フフ、今にも死にそうでしょう?

蘭:でもソレは出会った時からで、この時期は発作も少なかったし、とても……、


香澄:すぐに、亡くなられる、とは?


蘭:…………。ええ。


香澄:すみません。


蘭:ううん。でも周りの全員、油断をしてて。

蘭:本人だけは……、きっと薄っすら、悟っていたのかも、しれないけど、ね。


香澄:……死期を。


蘭:ええ……。

蘭:結婚式も、ハネムーンも。

蘭:きっと、命を削っていたのに、違いない、けど。

蘭:でも……、我慢して、見せないようにしてくれる気持ちが、嬉しかったから。


香澄:…………、


蘭:そういう風に考えたら……、

蘭:やっぱり、ワタシのせいで、死んじゃったのかも、ね。フフ。


香澄:…………。


【モノローグ】(敏悟):問題。音というものは、何の性質を持っている事で、空気や個体の間を伝って、離れた場所まで届くのでしょうか?

【モノローグ】(敏悟):答え。「波」。

【モノローグ】(敏悟):ハイ正解、神戸敏悟くん追試満点ーーーん。

【モノローグ】(敏悟):……ふぅ。

【モノローグ】(敏悟):……まあ、だから。

【モノローグ】(敏悟):聞く気など無くても、同じ空間に居れば、話し声は、聞こえて来るのであって。

【モノローグ】(敏悟):……コイツらの、コレも然り。


巽:「レトルトカレー」っ。


太一:「レ・ミゼラブル」。


巽:ンだそりゃァっ?


太一:有名なミュージカルだよ。ホラ、「る」。


巽:る……、る、「ルマンド」っ。


太一:ブルボンのお菓子じゃん。


太一:「(ご自由に)」。


巽:「(ご自由に)」っ。


【モノローグ】(敏悟):当たり前かもだけど太一、強いな……。

【モノローグ】(敏悟):……何だかすっかり、休憩明けに作業再開、という雰囲気でも無くなってしまった。

【モノローグ】(敏悟):日暮れにはまだ少しあるが、太陽も頂点を過ぎ、軽い風がいよいよ心地良さそうな時刻。

【モノローグ】(敏悟):……さて。


敏悟:(歩み出つつ、全員に)

敏悟:なんかさ……、取り敢えず配置はもう完了で、道具類も纏めてもらったからさ。

敏悟:今日はもう、解散で。


香澄:あ……、そう?


太一:後はゴミ出しと、細かいモノの分類?


敏悟:うん。収集は明後日だし、必需品の分類は俺が出来るから、


太一:あとはしっぽりやりたいから邪魔者は帰れって? 流石は下半身魔神、情欲ブルドーザービンゴ。


香澄:魔神なの? ブルドーザーなのぉ?


蘭:ま……。お姉さん困っちゃう、な。


巽:ある意味「男」だぜ、神戸……っ。


【モノローグ】(敏悟):四人で好き勝手言いやがって。

【モノローグ】(敏悟):もー突っ込む気力も無いわ。


敏悟:だいぶ動いて貰ったからさ……。

敏悟:1人を除いて。


巽:コレも信念 (ゆえ)よ。悪ィなっ。


太一:本気っぽいからタチが悪いよね。


敏悟:尾上さん、明日って、ご用事ありますか?


蘭:ううん……、無い、よ。

蘭:家でする事って、本当に、無いの。


敏悟:俺も追試の勉強あるんで、今日はもう帰ります。明日……、出来たら3時か、それぐらいに、


蘭:うん……、イイ、けど、2日間も、


敏悟:ここまで来たら、乗りかかった船なんで。


太一:僕は、馬鹿な友達と約束があるから。


巽:俺ァ親父のバカと予定がよ。


敏悟:勿論。ていうか今日はホントに、


蘭:ありがとう、皆さん……。


【モノローグ】(敏悟):元の広さをどうにか取り戻した廊下を抜け、一同玄関へ。

【モノローグ】(敏悟):まだ隅の辺りが雑然としてはいるが、残りは明日の俺、任せた。

【モノローグ】(敏悟):串野と太一は先に玄関を(くぐ)る。

【モノローグ】(敏悟):蘭さんに見送られつつ、靴を履いていると、


香澄:明日……、さ。私、来れるよ。


敏悟:ん?


香澄:誰かと違って追試も無いし、ねぇ。


敏悟:……、あー、そう?


香澄:お邪魔なら控えるけどぉ。ブルドーザー先生?


敏悟:ハハハ、イヤぁ、アリガタイナぁ。


蘭:いいの……? そんな。


香澄:面白そうなモノ、いっぱいあったから。整った状態で見たいし。

香澄:……あわよくば美味しい珈琲も、なんて。


蘭:フ、フ……。いくらでも。

蘭:じゃあ特別に……、美味しいタルトも出してあげる。職場でも焼いてる、の。


香澄:私……、『コッペリア』で、何度か珈琲、頂いてるんですよ。


蘭:……ま。


【モノローグ】(敏悟):ともあれそういう事になった。

【モノローグ】(敏悟):串野と入矢を駅まで送り、夕食の買い物を済ませんが為、商店街へと歩く。

【モノローグ】(敏悟):高校生と、小学生。歩幅を合わせつつ。


太一:今日なに?


敏悟:んー……。何食べたい?


太一:夏だからって冷製のモノが続いてるから、温かいのがイイな。


敏悟:パスタは?

敏悟:冷凍アサリあるから。夏野菜とアサリのパスタ。


太一:悪くないね。


【モノローグ】(敏悟):差し迫った事がある時ほど料理に凝り出すのは、俺の悪癖であるらしい。

【モノローグ】(敏悟):今であれば憎き追試。

【モノローグ】(敏悟):もしくは、明日の……、


敏悟:……どーだった? 尾上さん()


太一:どう、って?


敏悟:上がったのは初めてなんだっけ。


太一:近隣一帯、行った事のある人のが珍しいんじゃない。

太一:そうね……、気味の悪い家だった。


敏悟:どの辺。


太一:ビンゴはよく知ってるだろ。

太一:廊下や、あの人の生活空間は散らかってるのに、死んだ家族たちの暮らしてた部屋はそっくりそのまま。

太一:まるで、まだ生きてる家族のそれぞれの部屋から……、

太一:興味のある物だけを借りてきては、自分の周りに並べているような。


敏悟:…………、


太一:レコードを聞きたけりゃ、書斎に行けば良いのに、ワザワザ。

太一:奇妙な礼儀とでも言うか……。

太一:死人と暮らしてでも、いる気なのかな。


敏悟:辛口、だな。


太一:あんまり好きなタイプの大人じゃ無いんだ。母さんも露骨に避けてるし。


敏悟:梨子さんが? 何で……、


太一:知らないけど。

太一:同情、してるからじゃないの。


敏悟:……、それは、


太一:ビンゴと僕が、孤児(みなしご)仲間であるように。

太一:母さんとあの人は、寡婦(かふ)仲間だから。


敏悟:「寡婦」……、ね。小5の口から。


太一:「後家(ごけ)」か「未亡人」の方がグっと来る? 年上大好き寄生昆虫としては。


敏悟:あんまりクリティカルなアダ名はヤメろよ。立ち直れなくなるから。


太一:……、同情ってのは諸刃の(つるぎ)だからね。

太一:思いをかければ、その分だけ自分も、


敏悟:生傷を晒す、って?


太一:気を付けなよ、ビンゴも。

太一:僕らは同情されこそすれ。

太一:する方に回ったって、良い事1つも無いんだから。


敏悟:…………。

敏悟:流石は、梨子さんの事、よく見てるよな。


太一:なりたくてなった息子だからね。

太一:それで言うならさァ、


敏悟:ん?


太一:ビンゴは誰の、何なワケ?


敏悟:……、……、


【モノローグ】(敏悟):さあね。

【モノローグ】(敏悟):……何でもない、空っぽの人、じゃないの。

【モノローグ】(敏悟):パスタのように中空の気持ちに引き換え、アサリの出汁は上手く野菜に絡み。

【モノローグ】(敏悟):珍しく。上出来であった。


―【間】


香澄:ごちそうさま。

香澄:タルト……、本当にとっても、美味しかったです。


蘭:フ、フ。こちらこそ……。


【モノローグ】(敏悟):翌日、日没直後。

【モノローグ】(敏悟):その日の作業は緩やかかつ、スムーズに進み。

【モノローグ】(敏悟):タルトは非常に、美味であった。


蘭:ごめん、ね……。学生さんの、大事なお休みを、


敏悟:どの道もうじき、夏休みなんで。


香澄:余裕ぅ。もう受かったつもりなワケ? 追試。


敏悟:……イケるだろ。オカゲサマで。


香澄:クフ。


蘭:フフ。本当に、香澄ちゃん、……美紀子(みきこ)ちゃんに、よく似てる。

蘭:笑う時、ちょっとだけ眉が寄る所も。


香澄:…………。

香澄:壷とか、旦那さんの絵画とか……。

香澄:色々と、見せて頂いて。ありがとうございます。


蘭:うん。ワタシ以外の人に、鑑賞してもらうのは本当に久しぶりだから……。

蘭:皆も、喜ぶんじゃないかな。


敏悟:……、


香澄:珈琲や、お菓子作りも、


蘭:うん。元々は美紀子ちゃんの趣味。

蘭:ほんの短い間だったけど、よく一緒に、何かを作って、珈琲を飲んだの。


香澄:…………。

香澄:義妹(いもうと)さんは、その、最後は……、


蘭:自殺。


香澄:……っ、


【モノローグ】(敏悟):俺は、知っていた。

【モノローグ】(敏悟):ソレがこの家に、人が寄り付かない理由でもある。


蘭:嫁ぎ先で何があったかは、最後まで、聞く機会が無かったけれど。

蘭:傷付いて帰って来て……、すぐにお兄さん、倫也(ともや)さんが亡くなって。

蘭:糸が切れたようにお母さん、後を追うように、お父さんを亡くして。

蘭:心が空っぽのまま……、生きる意味を、見つけられ無かったんだと思う、な。


香澄:…………、


蘭:嫌な話でごめん、ね。


香澄:いえ。


蘭:1月ほど……、二人で暮らした、けど。

蘭:最後に、シナモンパイを二人で作って、食べている時に。

蘭:「自分はもう、駄目かもしれない、けど、

蘭:……義姉(ねえ)さんは、死ぬ理由が出来るまでは、生きたら良いんじゃない」、って。

蘭:そんな時まで皮肉が効いてて、思わず笑っちゃった、の。フ、フ。


香澄:…………。


蘭:でもね、お菓子への拘りだけは萎えていなくて。

蘭:その時も1回焼き直したし、コレには珈琲じゃなくて紅茶だったね、って2人で。フ、フフフ……。


【モノローグ】(敏悟):昨日の事を語るように笑うその顔は。

【モノローグ】(敏悟):どうしてか夕陽の下で見たいつの時よりも、美しかった。


香澄:……、その、後、


蘭:1週間も経たず。部屋で、血を流して。

蘭:ワタシが、もっと見ていられたら、何か……、

蘭:…………、

蘭:ううん。きっと、変わらなかったと、思う。


香澄:……そして、誰もいなくなった。


蘭:アガサ・クリスティ、ね。

蘭:フフ、周りでは本当に、そんな風に噂、されてるみたいだけど。

蘭:土地も遺産も、ほとんど余さず受け継いだんだから、当然だけど、ね。


敏悟:……下衆な噂好きはドコにでも、


蘭:いい、の。

蘭:私は、私の無実と、皆の、濁りの無い死を、知っているから。


敏悟:…………、


蘭:敏悟くんは、悲しい?


―沈黙。


敏悟:……、……。

敏悟:ウチの場合は事故だし。

敏悟:噂も。皆飽きたら、それまで、ですから。


蘭:うん。

蘭:私は……、この家で生きていた人たちに、最後まで何も、してあげられなかったけれど。


敏悟:そんな、ことは、


蘭:わからない、ね。もう聞く事は、出来ないから。


敏悟:……、……。


蘭:死んだ人の声を聞く事は、出来ない。

蘭:少なくとも、ワタシは信じて、いない。


敏悟:そりゃ……、

敏悟:そう、ですよね。

敏悟:……、


蘭:でも、ワタシは。

蘭:皆が好きだったものや、話してくれた事。

蘭:彼が、なんにも無いワタシを、命を賭けて愛してくれた事を……、覚えているから。


香澄:おぼえ、て。


蘭:彼の絵を見る度に。

蘭:古いレコードに針を落とす度に。

蘭:ガラスの器に光を入れる度に。

蘭:珈琲を、飲む度に。

蘭:思い出は寂しいけれど、私を、温めてくれる。


敏悟:…………。


蘭:私、本当にとっても、愛していたの。

蘭:この家で確かに生きていた、この人たちを。


【モノローグ】(敏悟):在りし日の、家族の肖像を眺め。

【モノローグ】(敏悟):闇に溶かすように、言う。

【モノローグ】(敏悟):……飲み干した珈琲は、微かに苦すぎた気がした。

【モノローグ】(敏悟):俺のような、コドモには。


香澄:……このお屋敷は、尾上さんの……、


香澄:(ひつぎ)という訳では、無いんですね。


蘭:蘭でいいわ。

蘭:フ、フ……。そう、ね。

蘭:もしかして、心配だった?


香澄:いえ……。

香澄:興味があっただけ、です。


蘭:ワタシにはまだ、死ぬ理由が無いから、ね。


【モノローグ】(敏悟):……では。

【モノローグ】(敏悟):では、そうである、ならば。


敏悟:記憶、は。

敏悟:……、思い出や、話してもらった事は、蘭さんの中に、あったとして……、


蘭:うん。


敏悟:じゃあ……、その、……蘭さん、自身が、話したい事、とか。

敏悟:もっと……、聞いてほしかった事、とかは……、


蘭:ああ……、

蘭:それなら、


【モノローグ】(敏悟):自分でも。

【モノローグ】(敏悟):何を思ってこんな質問を、したものだか。

【モノローグ】(敏悟):だが黒い寡婦(かふ)は、(きぬ)のように笑った。


蘭:生きてる人に、聞いてもらうの。

蘭:……珈琲のおかわりはいかが?


―【間】


【モノローグ】(敏悟):夜の、帰路。何処かから、虫の声。


香澄:流石に涼しいね。

敏悟:……な。マシ、だよな。


―何とはなしの、沈黙。


香澄:また散らかるのかな、お家。


敏悟:ま……、2週間は持つんじゃないか。


香澄:珈琲目当てに、また片付けに行こうかなぁ。


敏悟:……いいんじゃないの。


香澄:…………変なヒト。すっごく。


敏悟:近所でも評判の、ね。


香澄:でも凄く、綺麗な人。


敏悟:…………。

敏悟:そう、だな。


香澄:思い出は、温めてくれるらしいよ?


敏悟:……、……。


香澄:私は生きてようが、死んでようが。

香澄:家族にいい思い出なんて、無いけど。

香澄:勿論お兄ちゃん以外は、ね。


敏悟:…………。


香澄:ビンゴくんはどう?


敏悟:……、忘れた。


香澄:なんかさ。

香澄:気にしない方がイイよ。あの人とビンゴくんは、タイプが違うと思うから。


敏悟:……ソレ言う為にワザワザ今日?


香澄:どうかなぁ。

香澄:……でもさ。

香澄:シンパシーって、ツマンナイよね。


【モノローグ】(敏悟):好き勝手、言いやがって。

【モノローグ】(敏悟):思い出や、自分の中身の量なんて。

【モノローグ】(敏悟):自分では、わからない。


―【間】


【モノローグ】(敏悟):1日空け、放課後。

【モノローグ】(敏悟):いよいよ追試は目前。家庭科室は俺の最後の砦と化していた。

【モノローグ】(敏悟):部屋の隅には、相変わらず、何もしない男。


巽:ほォーん。思い出、ねェ……。


敏悟:要は……、別に無理して忘れなくても、みたいなさ、


巽:一般化しなくてイイんじゃねェの。あの美人さんの感性だろ。


敏悟:……そうだけど。


巽:俺もお袋死んでっから、判る気ィするがよ。

巽:……金持ちんトコ嫁いで、死んじまったとはいえハイソな趣味に付き合って。

巽:上等な人生じゃねェの。


敏悟:……言い(ぐさ)


巽:悪い意味で言ってンじゃねェ。

巽:あの姉ちゃんの眼は、生きてる人間の眼だった。寧ろ……、

巽:俺の、この信念を、証明するみてェじゃねェか、なァ?


敏悟:……、は……?


【モノローグ】(敏悟):今回は本当に、意味がわからん。


巽:自分が変わらなくても。

巽:別に何にも、スゲェ事やってのけてなくてもよ。

巽:腐らず生きてりゃそんだけで、面白ェ話も、価値のあるナンかしらも。

巽:転がり込んで来る時ゃ、来るんだ、ってよ。


敏悟:…………。

敏悟:ひでェコジツケを、


巽:だからよ、神戸。


【モノローグ】(敏悟):クールに、ニヒルに。いつもの如く。


巽:俺も、お前も。

巽:スッカラカンなんかじゃァ、ねェんだぜ。


敏悟:…………。

敏悟:何だよ、ソレ。


【モノローグ】(敏悟):言い(ざま)だけはカッコいいんだから。

【モノローグ】(敏悟):しかしそこに、同情の苦味は、不思議と無かった。


―【間】


【モノローグ】(敏悟):家までの帰路。

【モノローグ】(敏悟):空はいよいよ赤染まり、全ての影を濃く、長くする。

【モノローグ】(敏悟):黄昏に(たたず)む小さな影は、鬼か、悪魔か。

【モノローグ】(敏悟):見慣れた、俺が洗濯している半ズボン。

【モノローグ】(敏悟):紅顔(こうがん)の小悪魔。もしくは。

【モノローグ】(敏悟):俺の、何でもない、人。


太一:……ビンゴ。おかえり。


敏悟:お……。今日って、


太一:塾は休みだよ。いつもそうじゃん。


敏悟:……だっけ。


太一:しっかりしてよ。明日には母さんも帰って来るんだから。ボケた顔、見せないでよね。


敏悟:ん……。気ィ付ける。


太一:それよりさ。


敏悟:ん?


太一:こないだのアサリのパスタ。

太一:また作ってよ。


敏悟:あー、アレ……、


太一:美味しかったから。


敏悟:…………、


太一:ナニ? そのアホ面。


敏悟:いや……。

敏悟:美味しい、って、初めて言ったな、って。


太一:そう? 僕、味に嘘はつかないんだけど。


敏悟:…………。

敏悟:梨子さんが帰って来たら、な。


太一:えー。今日がイイっ。


敏悟:今日はばら寿司。


太一:またぁ? 赤ダシつけてよねっ、


【モノローグ】(敏悟):大小の濃い影が、夕暮れにもつれて跡を引く。

【モノローグ】(敏悟):同情しようが、されようが。

【モノローグ】(敏悟):影は、生きる者の足元にしか差さない。


―暗転。


―【間】


―一同、横並び。


巽:ああー、と、カーテンコール!

巽:今回はしりとりのコーナー、だとよォ。

巽:最初は『どうじょう』の「う」だ。


太一:「う」ね。「(ご自由に)」。


香澄:うーん、「(ご自由に)」。


蘭:フ、フ。「(末尾は「れ」で。)」


敏悟:「れ」っ!?

敏悟:おー、あー、っと、

敏悟:れ、「憐憫(れんびん)」っ!

敏悟:……あ、


太一:ブブーーーーっ。


巽:アウトだっ!


太一:ビンゴに激ニガ珈琲っ!


敏悟:聞いてないし、罰ゲームっ!


―【終】

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