【第四話】もし私がその”聖女”だったとして、守護神様は現れてくれるのかしら・・・?
前王妃は書物のページを捲った。
しん、とした静けさの中、詩にも聞こえるような、何とも言えぬ懐かしさを感じながらニルヴァーナは耳を傾けるのであった。
「───草木が茂り、花々が咲き誇り、あらゆるものが実る、その豊かな、とある土地に、まだ人々は立ち入ることを赦されてはいませんでした。豊穣神が禁じていたからです。美しいその土地からの恵みを、ただただ人々はもたらされんことを祈りながら、暮らしていました。───そしてその日はやってきました。それまでその土地を守り続けてきた豊穣神が役目を終える時がきたのです。そして、ひときわ熱心に祈りを捧げてきたある少女が、突然身ごもったのです。人々はその少女のことをよく知っており、穢れも知らぬ少女だと思っていたので大層恐れ慄きましたが、人々の前に役目を終える前の豊穣神が姿を見せました。『───人の子らよ、落ち着きなさい。その少女はこの地に選ばれし”聖女”である。この土地はお前たち人の子らに与えよう。そして繁栄と祝福はこの”聖女”と産まれいづる子がもたらすことになる。この土地に”聖女”とその子を守るために国を築きなさい。そしてその国の長は争うことなく決めるが良い。さすれば平和の続く豊かな国として続いていくであろう。そして、国の守護神の代替わりの時、再び”聖女”が現れることになろう。』───こうして、建国されたのがドリグリン王国であり、一番最初に国を治めることになったのは、”聖女”と呼ばれたまさにその少女でした。」
前王妃は書物を閉じ、軽くその表紙を撫でながら言う。
「もちろん政に関してはたくさんの人々の力なくしてはここまで発展することはできなかったでしょうね。でも、間違いなく『繁栄と祝福』がもたらされたからこそ、この国は今日まで戦に怯えることなく、外交や交易もうまくゆき、民衆が平和であることがその証明なのでしょう。」
ラディールが、ふむ・・・と少し考え込んだ顔をして、口を開いた。
「国の守護神様というのは、今はどういう神なのだろうか・・・。代替わりだとしても、まだ今の守護神様のことを見たこともなければ、記録もなく、大神官様ですら何もおっしゃらなかった。そして、次の守護神様も・・・僕たちはまだ、何も知らない。」
その言葉にニルヴァーナも頷く。
「もし私がその”聖女”だったとして、守護神様は現れてくれるのかしら・・・?」