【第二話】処刑されるくらいなら『ユニコーン』に殺されたいのです
この国では、成人王族の王位継承と婚姻については、前王の崩御など、特殊な例を除いては『花祭り』と呼ばれる、いわば春の季節にのみ行われる。
今回も例外ではなく、この季節に行われたのだ。
婚姻前最後の冬にはすでに妃教育を終えており、ニルヴァーナは冬解けを待ち遠しく思っていた。
全ては愛するラディールのため、厳しい妃教育に耐えてきたのだから。
それなのに、なぜ、このようなことが起きてしまったのだろう。
ラディールは、私を本当に信じてくれているだろうか。
色々と不安な気持ちが心を巡り、押しつぶされそうだった。
その時。ずっと沈黙を貫いてきた大神官様がようやく口を開いた。
「国王陛下、王妃様。この御懐妊が『過ち』ではないということを、確認する方法がございます。」
ラディールと私は目を丸くしながら同時に大神官様へと声を上げる。
「「それは、いかような方法でございますか!」」
二人揃って同じ顔、同じ言葉、同じ声量で食いついてしまったため、さすがの大神官様も少し引き気味に、
「お、お二人とも、どうか落ち着いてくださいませ・・・。」
私はその言葉に、はっ!と我に返り、
「大変失礼いたしました・・・・。して、一体どのような方法なのでしょうか・・・。」
大神官様は、オホン、と一度咳払いをしてから、こう言った。
「大神官という地位が、なぜ高いのかはご存じでいらっしゃいますね?」
ラディールは静かに耳を傾け、私は自分の知る中での大神官様のいわば『特権』を話し始める。
「ええ・・・聖獣や精霊を、使役できる唯一無二の存在であると聞き及んでおります。」
その答えに大神官様は軽く拍手をしながら続ける。
「その通りにございます。つきましては、その聖獣の中でも、『処女以外を殺す』といわれている『ユニコーン』で真偽をはっきりさせるのがよろしいかと。」
ラディールが少し慌てたように口を開く。
「しかし、万が一『処女ではない』と『ユニコーン』が認めてしまったら・・・ニルヴァーナは殺されてしまうのだぞ?!」
大神官様は、ふぅ、と一息ついて、ラディールの方を見て話し始める。
「・・・国王陛下。王妃様が仮にそれで亡くなられたとしても・・・それ以外の方法で証明ができないのであれば、陛下を裏切った大罪人として処刑されるでしょう。もし、堕胎をなされたとしても、次にお子を望めるかは定かではありません。どうか、ご決断くださいませ。」
突きつけられた事実に、歯がゆそうな顔をしてラディールが拳を強く握りしめていた。
私は、これまでのやり取りの中で、ふと気になっていたことを侍医に問うことにした。
「・・・私の・・・この身体に宿った命は・・・いつごろから、宿っていたと推定されていますか?」
侍医が答える。
「推定、三月ほどかと。」
・・・つまり、花祭りの始まる前。冬解けが始まった頃なのだろう。
「そうですか・・・。」
全く身に覚えがない。誓って、覚えがないのだ。
大神官様にあらたまり、心に決めた言葉を口にする。
「大神官様。私は何度でも、誓って『過ち』は犯しておりません。ですから、『ユニコーン』にその真偽を、委ねたいと思います。」
私は覚悟を決めた強い眼差しで、大神官様の顔を見据えるのだった。
大神官様も私のこの強い決意を受け止めているようだった。
「王妃様、『万が一』の時は・・・『王妃様は婚姻の儀の最中に毒を盛られてお亡くなりになった』として、国葬とさせていただこうと思います。王妃様の名誉を守るためにも、よろしいですね、陛下。」
ラディールは、自分の無力さを感じている様子がうかがえた。
何も言わず、ひとつ、頷くだけだった。
ニルヴァーナは、少し目を伏せながら再び話し出す。
「私は・・・あらぬことで名誉を傷つけられ、処刑となれば、父上、そして母上も罰せられるでしょう。国内でも名のある公爵家のその地位も剥奪されるでしょう。処刑されるくらいなら・・・『ユニコーン』に殺されたいのです。」