【第一話】神に誓って『過ち』などはございません!
ここはドリグリン王国の王城で最も警備が厳しい場所の一つ、一部の人間しか立ち入ることを許されない所に私の寝室はある。
前日に国の王位の継承と同時に婚姻の儀が行われた。
本来であれば儀式を執り行ったその日に王と王妃としての初夜を迎えるのがこの国の習わしだ。
新王は12歳の時から共に王宮で過ごしてきたラディール・ラヴェルディ。
そして新王妃は私、ニルヴァーナ・ラヴェルディだ。
儀式が終わり、宴へと移行する。
しかしその最中、突如視界がぐにゃりと曲がるような酷いめまい、そしてまるで胃を反転させられているかのような強い吐き気により気を失い倒れてしまった。
誰もが「毒を盛られたのではないか!?」「医者、いや、神官か?!とにかく呼ぶんだ!」など血相を変えた声が飛び交う中、ラディールが力なく倒れた身体を抱きかかえて名前を必死で呼びかけているのを耳にしながら意識は落ちていった。
目覚めた時、視界に入ったのは私のベッドのそばにいる、侍医とラディール・・・まではわかるのだが、王国で最高位を持つ大神官様までもが神妙な面持ちで佇んでいた。
ラディールが深刻な顔をしながら、少し、私から目を背けて話し始める。
「ニルヴァーナ、その・・・まず君は毒を盛られていた、とか・・・そういうものではないんだ。」
身体をゆっくりと起こしながら、その態度や表情、言葉の意味がわからず、訊き返す。
「・・・では、あの時一体何が・・・。」
ここまで話しかけて、遮るように侍医が口を開く。
「王妃様、僭越ながら申し上げます。・・・王妃様は、御懐妊されていらっしゃるのです。」
驚きのあまり、声も出ない私にラディールが話を続ける。
「・・・君は、僕との婚姻が決まった4年前から妃教育を受けるためにずっと王城で暮らしていた。そして僕たちはその間ずっと愛を育んできた。君と関わりを持つことが許される者も当然限られている。だから、決して『過ち』がなかったと信じている。そのために、大神官様をお呼びだてしたんだ。」
ここまで来て、なんとなくだが理解ができた。
要は、一部の人間以外にはおそらく伏せられているであろうことだが、あらぬことを強く疑われているのだ。
だが、なぜ、私は誓って過ちを犯していないのに身ごもっているのか。
ラディールも私も、この国で成人とされる16歳になってまだ日も浅い。
ましてや、初夜すら・・・遂げていない。
この疑念を晴らすために大神官様がいるということなのだろう。
「・・・この事実をどう受け止めたらよいのか、正直私もわかりません。ですが、神に誓って『過ち』などはございません!」
そう、私が言えるのはこれだけ・・・どうしたらいいのかわからないまま、これだけしか、言えなかった。