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95.誇らしく、嬉しい誤算――SIDE宰相

 女王アストリッドの番、世界を滅ぼした魔王の子であったとしても受け入れる。同族の結束はこんな場面でも有効だった。


 かつて世界を滅ぼしかけた魔王は、竜女王によって成敗された。その事件は、竜族のほとんどが身近に体験した出来事だ。そんな彼らに、魔王の復活疑惑は大きな問題ではなかった。


「もし番であるカイが暴走すれば、この私が身をもって止めよう。故にあの子自身の資質以外への非難を禁ずる」


 アストリッドの毅然とした態度に、竜族は素直に従った。元から強い個体に従う習性も一因だが、いざとなればアストリッド自身が片付けると明言したことが大きい。


 世界の災厄と呼ばれた前魔王を、激闘の末に倒した竜女王への信頼は揺るぎない。魔族最強であっても、竜族最強に敵わない。その現実を目の当たりにしたドラゴンにとって、魔王すら脅威ではなかった。


「番様への攻撃は、女王陛下への攻撃と見做されます」


 宰相として状況を締めくくる言葉を放ち、ぐるりと見回した。異論はないようだ。安心して肩の力を抜く。


「他種族からの干渉があれば、どうしますか?」


「我々が排除する」


 集められた竜族は、各家の当主ばかり。その一人が発した質問に、ボリスは端的に返した。貴族のような特権階級が存在しないドラゴンは、仕事や階級で地位が決まる。生まれながらの特権がない代わりに、実力で掴んだ地位の価値は高い。


 将軍職に就き、女王に次ぐ武力を誇るボリスの発言権は大きかった。彼も番の保護を表明したため、竜族は落ち着きを取り戻す。守ると決めてしまえば、同族の子と同じだった。


 人族と魔族の子であろうと、竜の番は竜族として受け入れる。昔から行われてきた当たり前の習慣を、彼らはそのまま踏襲した。もし暴走し、狂えば……竜女王自ら対応するのだ。何も不安はなかった。


「承知いたしました」


「獣人なら親族がいるから説得に協力できます」


「親友が魔族と結婚してたっけ。連絡してみるか」


 ざわざわと声が上がる。知り合いや親族を通じて、少しでも女王の番へ向けられた悪感情を拭おうと動き始めた。


「動く者は歓迎する。事前に申告して動くように」


 宰相である以上、事態を把握しておきたい。そう告げれば、素直に彼らは頷いた。文官達が聴取に動き、ほっとした表情のアストリッドが広間の壇上から降りる。


「すまないが頼む」


 最強の竜女王が頭を下げた。常に憧れの的だった我が従姉妹が、番のために放った一言。それは思わぬ効果をもたらした。


「女王陛下の番様なら、竜族の宝も同然」


「守るのは当たり前です」


「頭を上げてください。力の限り協力します」


 竜族の結束はさらに強くなった。この光景を私は忘れないだろう。宰相の役割ではなく、ただ一人の竜族として。誇らしく、何より嬉しかった。

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