93.何も知らないでいるから
僕はアスティのお膝に座る。隣にヒスイ、その隣にルビアとサフィーが並んだ。ボリスやアベルも座ると、ぐるりと丸いテーブルがいっぱいになる。
運ばれたお料理を一緒に食べて、アスティと同じお茶を飲む。美味しいし嬉しい。僕に「あーん」で食べさせてくれるアスティへ、果物を差し出した。ぱくりと食べて、僕の指も舐めるから擽ったい。
「ふふっ、私のカイは本当に可愛い」
何度も繰り返すアスティが少し変だけど、僕は笑って首に手を回した。ぎゅっと抱き付く。
「僕もアスティが大好き。ずっと一緒にいようね」
「もちろん離さないわ」
やっぱり、アスティがいつもと違った。これは気づかない方がいいと思う。アスティが僕に話してくれるまで、何も知らないでいる。そう決めて、アスティの頬にキスをした。
次の日から、ルビアやサフィーがいる部屋でお勉強になった。お屋敷の中で、僕が一人でいてもいいのは自分のお部屋だけ。お庭やお勉強の移動はもちろん、いつも誰かがいてくれる。皆は大変じゃないのかな? そう尋ねたら、楽しいですと答えた。
アスティはお仕事が忙しくなった。アベルやボリスも、あちこちにお出かけして帰ってくる。ヒスイとお昼寝することが増えて、変な気持ちにもやもやした。
ヒスイといるのは楽しいし、嬉しい。全然嫌じゃないけど、アスティとの時間が減るのは嫌だった。お仕事のお部屋で、一緒にいたいのに。今は本当に忙しいだからダメみたい。口に出してお願いして、困らせるのはいけないこと。我慢して飲み込んだ。
アベルは疲れた顔で、いっぱいの紙を抱えている。ボリス師匠も訓練はお休みだって。ルビアとサフィーは交代じゃなくて、二人でお仕事する日も増えた。暇なのは僕だけかな。
ごろんと寝転がって、そう呟いたらヒスイが笑った。
「俺もカイ様と同じ予定ですよ」
あ、そっか。僕が暇なら、ヒスイも暇になるんだね。自分だけじゃないと思ったら、すっと楽になった。
おやつの時間にお部屋に来たアスティと、手を繋いでお庭を歩く。抱っこしたいと言われて、両手を伸ばして首に絡ませた。冷たい銀色の鱗が気持ちいい。
「アスティ、僕……ずっといてもいい?」
綺麗な紫色の瞳が大きく開いて、僕を映し出した。すぐににっこり笑って「一緒じゃないと困るわ」とキスをくれる。ヒスイが目を逸らしたの、どうしたんだろう。
「今は危ない時期だけど、アベル達と安全にするわ。そうしたら今まで通りよ」
うん。頷いてアスティの頬にキスを返した。大丈夫、少し怖いけど……アスティの言葉なら信じる。だから今日は一緒にお風呂に入って眠りたいな。そうお願いしたら、嬉しそうに叶えてくれた。
大好きだよ、アスティ。