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79.ハエどもを退治するとしよう――SIDE竜女王

 明るく振舞うのは、カイも異変を感じているからだ。気を使わせている自覚はあった。だから、早く決着させるのが、大人の役割だろう。そう話したら、アベルはくすくすと笑いだした。


「そう言うと思った。案は練ってある」


 ぽんと差し出された紙は、束になるほどの量がない。彼にしては珍しいと思った。普段から失敗した場合も含め、複数の案を用意する男だからだ。今回はすっきりしていた。というより、彼が策略を巡らす程の敵ではないのか。


 読み進めた内容は端的だが、隙がなかった。逃げ場を残さず、完全に殲滅するつもりらしい。イース神聖国の地形から割り出した攻撃地点は、絞り込まれていた。


「事前警告は行うのか?」


「一応義務だからね。従うかどうかは当事者次第だ」


 従兄弟としての気安い口調で、アベルは銀の髪をかき上げた。青みがかった髪色は叔母譲りで、顔立ちは義叔父にそっくりだ。幼い頃と同じ癖で、かき上げた髪を最後にきゅっと握る。あれで毛先が跳ねてしまい、昔はよく直してやったな。


 策略を巡らし、裏から手を回す。宰相として有能な彼だが、己の外見に頓着しない。毛先が跳ねていても、公式行事でもなければ放置した。今もそっぽを向いた髪を指先で弄っている。


「こっちへ来い」


 手招きして、やや癖のある髪を絡めるようにして隠した。跳ねが落ち着いて、ほっとした様子を見せる。片眼鏡を始めたのは宰相になってすぐだったか。目が悪くなったのかと心配して問い詰めれば、威厳が欲しかったと白状した。


 年の離れた弟のように、常に私の後ろを付いてきたアベル。彼が治世を支えてくれるから、我が侭を振りかざした私でも国主が務まるのだ。感謝していると伝えるのは、この座を次のドラゴンに明け渡す時と決めていた。だから今は別の言葉を贈ろう。


「アベル、頼りにするぞ」


「完璧に処分してみせますよ……我が女王陛下の御為に」


 親しい口ぶりが一転した理由は、扉の外に感じた人の気配だ。誰かが書類を運んできたか、はたまた訪ねてきたか。どちらにしろ、仕事モードに戻る必要があった。


「計画は承認とする、進めろ」


 さらさらと承認の意思と署名を行い、計画書をアベルに突っ返した。大切そうにくるりと巻いて赤いリボンで結ぶ。重要な書類は赤、申請の許可書類は青、それ以外の報告書などは白が使われる。赤いリボンが揺れる書類を、魔法がかかった書箱に片付けたアベルに見送られて部屋を出た。


 計画は完璧、準備も問題ない。他種族の協力は得られた。躊躇する理由はひとつもない。


 ――ドラゴンの宝珠に(たか)るハエどもを退治するとしよう。


 にやりと笑った私は、足早にカイの待つ部屋へ向かった。よほどショックだったのか、3日も寝込んだ可愛い番は痩せ細ってしまった。ようやく頬が丸みを帯びて愛らしくなったところだったのに、非常に残念だ。また給餌して丸く育てるのは楽しいだろうが、弱り切った姿は二度と見たくなかった。


 駆け付けた部屋で、兎獣人であるリリアから相談と称した情報を得る。なるほど……人族はよほど死を望んでいるらしい。カイとヒスイのおやつに付き合いながら、甘すぎるドーナツを飲み込んだ。

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