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75.ドラゴンの誇りに懸けて――SIDE宰相

 幼子への一方的な災厄認定を、人族は歓迎した。その裏にある思惑を知るがゆえに悩ましい問題だ。女王陛下となった従姉妹のアストリッドは、歴代竜王の中で最強を誇る。圧倒的な力は、その恩恵を被る者にとって恩寵だ。だが敵対する国家にいる者から見れば、悪の象徴だった。


 人族は獣人達を虐げてきた。魔族に勝てぬと見るや、毛皮や鱗を持つ種族を奴隷にするため動き出す。自分達と違う姿を持つ、ただそれだけのことで隷属の対象とした。


 獣人は種族ごとに小さな集落を作って暮らす。大きな国家に属さないため、あちこちで獣人狩りが起きた。

集落を襲って老若男女問わず捕まえ、労働力に使用する。人が嫌う職種や危険な職場に男を向かわせ、女は下働きや性的な奉仕を迫られた。幼子も利用され、役に立たない年寄りは虐殺される。


 これらの野蛮な行為を肯定したのが、イース神聖国だ。人族の国家が信仰するイース神は、亜人は人に(あら)ずとした。その対象は、幅広い。人族以外は奴隷や蛮族と位置付けられ、獣人、魔族、竜族は亜人に分類された。


 人と同じ言葉を操り、高度な文化を育んでいても蔑む。故に各種族はイース神聖国に対し、悪印象しか持たない。その中で行われた、竜女王の番に対する認定は各国で驚きをもって受け止められた。


 人族は言うに及ばず、魔族や獣人も番に興味を示す。宗教国家として一線を画すイース神聖国が、何を思って番に興味を示したのか。そこに政治的な意図がないと考える国家元首はいないだろう。


「はぁ、厄介だ」


 呟いてぐしゃりと前髪をかき上げる。厄介だが、投げ出す気はない。ずっと独り身だった従姉妹が待ち望んだ番、それも純粋で悪意のない愛らしい御子だ。こうなれば、亜人と蔑まれる魔族や獣人を取り込むのが先決だった。


 彼らが人族に協力する可能性は低い。同族を虐げられ、奴隷として扱う種族に手を貸す者はいないと思われた。国家間の取引状況を勘案しても、我が国が有利だ。


 半分は魔族の血を引く番に対し、魔族はどのような反応を示すか。そこが一番の懸念だった。よりによって、混じった相手……番の母親が人族なのが悪印象だ。魔族の血を引くことは否定しないが、人族の血を引く番を守らない可能性があった。


 獣人達は竜女王に同情するだろう。自らも番というシステムを持つ彼らは、その重要性と愛おしさを知っている。己自身より大切な番を差し出すドラゴンはいないと納得し、獣人を奴隷扱いする人族に対し怒りを示すはずだ。


 獣人は数が力である。単独での能力は人族をやや上回る程度だが、圧倒的強者であるドラゴンより種族の数も種類も多かった。個体能力で言えば、ドラゴンに次ぐ魔族も仲間に引き入れたいが……どのような手段を用いるべきか。


 宰相としてこんなに頭を悩ます問題は初めてだった。だが、絶対に番は渡さない。もしこの一線を越えたなら、ドラゴンの誇りを捨てることになる。一度乱した髪を手櫛で整え、様々な事態に対処する手段を書き出した。


「あとで褒美を要求しなくちゃ合わないな」


 苦笑いし、従姉妹アストリッドに何を要求するか考えながら、さらさらと白紙を埋めていった。いつでも正しく決断するくせに、彼女は後片付けや根回しに無頓着だ。その穴埋めをするのが私の役割だった。それは今回も、今後も変わらないのだから。

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