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72.僕のこと、もう要らない?

 目が覚めて、いつも通りにヒスイと手を繋いで歩く。後ろにルビアが付いてきた。タカト先生に文字の試験をしてもらうの。


 まずは名前を書く。僕より後から始めたけど、ヒスイは文字を読める。ただ書くのはしたことがなくて、僕と似た感じだった。筆を握って、しっかり一文字ずつ書いた。名前の後は、耳で聞いた言葉を書く。


「ドラゴン」


 思い出せてよかった。安心しながら丁寧に書いた。次は何だろう。


「お花」


 お、は、な。順番に文字を並べる。発音した通りの文字を書けば合ってるの。全部書き終えて、試験は終わりだった。全部で5つの言葉を書いたけど、僕は最後のひとつだけ間違えてた。でもヒスイは全部合ってる。


「すごいね、ヒスイ!」


「カイ様も立派です。ここは逆向きになってますね」


 最後の文字の縦棒が左に曲がってるけど、本当は右だった。後ちょっとだけど、間違いは間違いなの。次は頑張る。そう約束して、今日のお勉強は終わり。思ったより早かったな。


 ルビアと手を重ね、空いた手をヒスイと繋ぐ。お友達と一緒に歩くなんて、昔の僕なら夢だったのに。嬉しいし楽しい。お勉強も羨ましかった。知らないことをいっぱい覚えるのはワクワクする。いつか、アスティのお仕事を手伝えたらいいな。


 お昼寝から起きてアスティがいなかったのは寂しいけど、もう少ししたらおやつの時間だ。お部屋に戻って絨毯に座り、近くにあった熊のぬいぐるみに抱き付いた。こうしてると、アスティがヤキモチするの。


「カイ」


 部屋に入ってきたアスティの顔色が悪かった。具合が悪いのかな。不安になる。ヤキモチもしないし、変だよ?


 ぬいぐるみを置いて走って抱き付く。膝を突いたアスティは僕を強く抱き締めて、深呼吸した。気のせいかな、手が震えてるみたい。それにいつもより体が熱いよ?


「アスティ、具合悪いの? おじいちゃんの先生呼ぶ?」


 お医者の先生はおじいちゃん。僕の痛いのを消してくれた。あの人なら、アスティの苦しそうなのも治ると思う。そう伝えたら、首を横に振った。どこも痛くないんだって。なのに顔が青いし、体は熱い。


「大丈夫、カイは必ず私が守るわ」


「うん」


 心配してない。アスティは約束も守るし、僕を大切にしてくれるから。アスティが言うことは全部信じる。頬擦りして待つ僕を抱き上げ、いつもの椅子に座った。まだ顔色が悪いけど、おやつを分けて食べる。


 普段と同じっぽいのに、アスティはあまり話をしなかった。僕の試験の話も頷くだけ。不安が胸に溢れ出した。


「アスティ、僕のこと……もう要らない?」


「っ! そんなことは絶対にない!!」


 強い大きな声で叱るみたいに言われて、ぽろりと涙が出た。怖かったんじゃなくて、嬉しい。捨てないんだよね?


「カイは私の番よ。どんな宝より必要で大切だわ」


 アスティの鱗に頬を押し当て、僕は肌からその言葉を聞いた。一度溢れた不安はなかなか消えなくて、またお仕事に行くアスティを見送るのが怖い。ぐずぐずと泣き止まない僕に困った顔をして、抱き上げて仕事のお部屋に連れて行ってくれた。


 ごめんね、ちゃんとお留守番できなくて。そう思うのに、アベルは何も言わなかった。

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