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68.構わん、滅ぼせ――SIDE竜女王

 出てきた兵士をボリスが薙ぎ払い、宰相と名乗る年寄りが出てきた。といっても、ドラゴンから見たら僅か100歳にも満たないひよっこだ。嘲りの意思を含んだ笑みが消えることはなかった。


 腕の中の愛し子は、きちんと手で耳を塞いでいる。実際には風の魔法を使った結界で音を消しているので、押さえなくても耳は役立たないだろう。このような醜い大人同士の駆け引きなど、カイの愛らしい形の耳に聞かせる気はなかった。


 手で耳を押さえる仕草は可愛いし、何より自分で塞いだから聞こえないと納得するはずだ。愛らしいカイの黒髪にキスをひとつ落とした。ほわりと表情が和らぐ姿は、硬い蕾が綻ぶようで心惹かれる。無意識なのに、妙な色気があった。幼い外見と裏腹に、どこまでも清らかで純粋で淫らだ。


 番相手だからそう感じるのだとしても、誘われたい本音を抑える理性が酷使され過ぎか。


「このような暴挙、許されませんぞ! 他国への領空侵犯、ナイセルを滅ぼした話も知っております。アークライト王国と手を組み、貴国へ抗議を……」


 最後まで聞いてやる義理はない。目配せされたボリスが頷いた。他国の名を出し協力体制を振りかざして手を引かせようなど、稚拙な外交手段は無駄だ。そんなものが通用するのは人間同士だけ。ドラゴンは力こそすべて、この場で平伏させればこちらの勝ちだった。


「槍の穂先、剣先を突きつけて話をしようとは笑止千万! 我が主君の前である、等しく首を垂れて迎えよ。そこに反論の余地はない」


 ドラゴンが最上位のこの世界で、人族が生存を許されているのは興味がないからだ。足元で蟻が繁殖しようと、自分の足に噛みつかない限り無視する。ただそれだけのことだった。国として尊重したことも認めた覚えもない。それは魔族も同様だった。


「構わん、滅ぼせ」


「承知いたしました」


「「かしこまりました」」


 サフィーとルビアも声を揃える。上空で旋回する仲間へ向けて、ボリスが咆哮を放った。それは攻撃の許可を出す角笛のようなものだ。号令一下、ドラゴン達が都に散った。それなりの大きさがある都だが、陥落だけなら半日もあれば足りる。制圧まで命じても数日だろう。


「カイ」


 つんつんと耳を押さえる手を突くと、そっと外される。違和感があるのか、首を数回ふるふると振った。落ち着くのを待って、城内を指さす。


「探検して土産を探しましょうか」


「うん!」


 悲鳴を上げて突進した兵士や騎士をボリスが投げ飛ばす。それを横目に、音を遮断した結界内でカイは不思議そうに尋ねた。


「あの人達、何してるの?」


「ボリスに稽古を付けてもらいたいのかな。楽しそうね」


 誘導に気づかないカイは目を輝かせて頷く。楽しそうと笑って城内へ入った。宝石箱やドレスを抱えて逃げる女性、書類や金貨の箱を抱えて呻く男性、どちらも無視して通り過ぎる。宝物庫へ続く扉を吹き飛ばし、遠慮なく中へ踏み込んだ。


「ここ、入ってもいいの?」


「平気よ、もうすぐドラゴニア国の一部になるの。私の国も同然だわ」


 かなり前倒しで予定を説明し、何が欲しいかとカイに尋ねた。きょろきょろと宝石類を見回したカイは、「あれ」と大きめの箱を選ぶ。中には原石に近い宝石が詰め込まれていた。磨かれていないのでさほど光らない宝石を選んだ理由を尋ねると、笑顔で教えてくれる。


「ヒスイと積み木にするの! これで遊んだら綺麗で楽しいと思う。キラキラしてるのは、お金が高いからいけないの」


「ふふっ、そう。いいわよ」


 他の宝石類も持ち帰るけど、ひとまずこの大きな箱をカイ用に確保しましょうね。積み木にする色の綺麗な石、その感覚はある意味正しい。子どもらしい発想に頬を緩めながら、愛しい番を抱き締めた。

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