63.ヒスイとお友達になりたいの
泣きながら頷いたヒスイの濡れた頬を、取り出したハンカチで拭った。受け取った彼が涙を拭くとまた溢れて、泣いてる彼の前でしばらく座っていた。お返事をもらうまで帰らないつもりなの。もちろん、ヒスイが嫌だと言ったら帰るけど。
「お友達、俺で……いいん、ですか?」
泣いた後の苦しい息を堪えながら、ヒスイが僕に首を傾げる。不安そうな彼に、僕は頷いた。大きく何度も縦に首を振って、ちょっとくらくらする。
「ヒスイとお友達になりたいの」
ほかの人じゃなくて、綺麗な緑色の鱗を持ってるヒスイがいい。鱗も縦に割れた目もないけど、一緒にお茶を飲んだりお勉強したり遊んだりしたい。じっと待つ僕に、彼は手を差し出した。
どうするのか分からなくて顔を上げると、サフィーが「こうです」と自分の両手で握手を見せてくれる。握手は知ってる! 同じように右手を出して握り、ぶんぶんと振った。何か違ったみたいで、サフィーが口元を押さえて笑ってる。でもヒスイは嬉しそうだからいいよね。
「よろしく、お願い……します」
ヒスイに僕もお願いしますと返した。これでお友達? 振り返って目で尋ねたら、サフィーが指の先で丸印を出した。よかった、初めてのお友達だ。
「いつもヒスイはこのお部屋にいるの?」
「いえ。書類を運んだりしています」
なんだろう、言葉遣いが違うよ。お友達って丁寧な言葉じゃなくて、もっと僕みたいな話し方だと思う。礼儀作法のお時間じゃないから、普通に話して欲しかった。
「えっとね、僕みたいに話して?」
「ですが」
困った顔をするヒスイへ、サフィーが助け舟を出した。
「番様の希望ですので構いません」
「カイって呼んでね」
「「え?」」
二人で驚いた声を出すから、僕もびっくりした。サフィーが言うには、名前呼びはアスティの許可が必要なんだって。僕が勝手に決めたらいけないみたい。目を見開いたまま、縦に首を振る。アスティにお願いしなくちゃ。
そこで思い出した。アスティを呼びに来るアベルが、こんな話し方する。僕に対するヒスイの話し方と同じだ。やっぱり話し方も名前を呼ぶのも、アスティに相談しよう。
「これからアスティのところへ行く」
「うーん、そうですか。まあ、番様のご意思ですから構わないでしょう」
唸った後、サフィーが手を差し出して僕の左手を掴む。右手はヒスイの手を握った。きょとんとしている彼に、説明する。いきなり外へ連れ出したらびっくりするからね。
「アスティにお話しに行くから、一緒に来て。お仕事は怒られたら僕が一緒に謝るから」
「番様の決めたことだ。素直に従った方がいいぞ」
脅すみたいな言い方しないで! サフィーに唇を尖らせたら、すみませんと笑う。あまり悪いと思ってないでしょ! 護衛の騎士サフィーと手を繋いだ僕、さらに引っ張られるヒスイ。擦れ違う人が不思議層だけど、僕は得意満面だった。
僕を守る騎士はカッコいいし、友人のヒスイも自慢したい。こんな綺麗な緑色の鱗なんだもん。謁見をするアスティがいる大きな広間について、サフィーが開けた扉の隙間から覗く。一番上がサフィー、次にヒスイ、下が僕だよ。身長の順番にしたんだ。ヒスイは一番下だと言ったけどね、背の順番が公平だよ。
覗いた先で、アスティは玉座に腰掛けていた。肘を突いて不機嫌そうな顔をしてる。どこか具合悪いのかな?
「そのような下らぬ用件で面会を求めたのか? さっさと去ね」
怖い声で階段の下にいる人を追っ払っちゃった。怒ったアスティは怖いんだね。