表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

65/154

62.鱗がないけど、お友達になってくれる?

「……ごめんなさい」


 ぽつりと降ってきた言葉に驚いた。顔を上げると、緑の手で顔を押さえている。何処か痛いのかな。心配になって手を伸ばし、勝手に触れていいか迷う。でも今聞いても答えられないよね? だから後で謝ります。そう決めて僕は手を触れた。


 アスティの鱗と同じひんやりした感じで、ざらりとしている。何度も手を撫でていると、ちらっとこちらを見た。


「勝手に触ってごめんね。嫌だったらやめるよ。お菓子を受け取ってくれる?」


 頷いた彼がお菓子の包みを受け取り、中に入れてくれた。サフィーは何も言わず、扉の脇に立つ。これはお仕事だから、サフィーの邪魔をしたらいけないの。アスティに教わった通り、僕は何も言わずに頷いた。案内された椅子に座る。


 なんだか薄暗い部屋だった。薄いカーテンが閉まってて、灯りもちょっとだけ。でも綺麗に片付いてるし、昔僕がいた地下室より全然明るいよ。きょろきょろして、出されたお茶に手を伸ばす。


「失礼」


 サフィーがさっと近づいて一口飲んだ。これもお仕事だから、サフィーの邪魔しちゃダメなの。待っていたら、お茶の入ったカップを返された。僕はお茶を飲みながら、向かいに座る緑の人を見つめる。名前聞いたら教えてくれるかな。


「あのね、僕はカイというの。お名前を教えてください」


 礼儀作法のリリア先生に言われた注意を思い出し、途中から丁寧に尋ねた。


「ヒスイ、です」


「綺麗な名前だね。緑の鱗にとても似合う」


 にっこり笑ったら、ヒスイは泣きだした。びっくりしたのは、僕だけじゃなくてサフィーも同じ。二人で顔を見合わせて、それから伸ばした手でヒスイの髪を撫でる。鱗より濃いめの緑の髪は硬かった。何度も撫でていたら、やっと泣き止む。


「俺は嫌われ者だから、ぶつかった時怖くて……逃げてごめんなさい。綺麗、とか……初めて言われて」


 お話の内容が良く分からない。でも嫌われてて怖かったのは分かる。アスティに見つけてもらうまでの僕と同じだもの。綺麗も、アスティに初めて言われた。僕はお母さんがいてくれたけど、ヒスイは守ってくれる人がいなかったのかな。


「森色の鱗の人、透き通っていて綺麗。それが昨日からの番様のお言葉です」


 サフィーがルビアから聞いた僕の話をした。驚いた顔をしたあと、ヒスイは「ツガイ、さま?」と尋ねる。気になるのかな。アスティが偉い人だから、僕はお友達がいない。アスティの部下の人や侍女の人はいるけど、僕と仲良くするお友達は見つからなかった。


 先生達もお友達じゃないから、怖いけど僕からお願いする。


「ヒスイが嫌いじゃなかったら、僕とお友達になって欲しいの」


 怖いから一気に言い切った。途中で言葉を止めたら、何も言えなくなりそうだった。言い切って、残ったお茶を最後まで飲み干す。ちくたくと時計の音が聞こえて、しばらく時間が経った。緊張してるからか、あまり長く感じない。


「でも俺は、蜥蜴だから」


「蜥蜴も蛇も好きだよ」


 見開いたヒスイの目がきらりと光った。金色にも見える。それに縦に割けてるね、この辺はアスティ達と同じだ。同じ目じゃないから、羨ましい。


「僕はただの人だから、その目は羨ましい」


 こうなった感じ、と手で縦に割けた目を説明する。瞳孔が縦に割れると表現するみたい。説明がうまく行かない僕を見かねて、サフィーがそっと囁いた。その言葉を使ってもう一度ヒスイに伝える。


「僕ね、瞳孔が縦の目が羨ましいの。ドラゴンのアスティ達と同じだもん。僕も鱗とか生えたらよかったのに」


 心底がっかりしながら呟いた。そこで当初の用件を思い出す。


「鱗がないけど、お友達になってくれる?」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ