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61.お詫びと書類を届けに

「どうしても外せないのか」


「無理です」


「……っ! 出来るだけ早く帰ってくるから」


 アスティは僕と一緒に行きたかったんだけど、迎えに来たアベルさんに無理だと言われちゃった。サフィーと一緒に、ちゃんと手を繋いで歩く約束をして手を振る。何度も振り返りながら、アスティはお仕事に行った。


 今日は誰かが会いにくる日だって。偉い立場のアスティにお願い事したり、ご機嫌を伺いに来る。ご機嫌をどうやって伺うのか、今度聞いてみよう。謁見は、女王のアスティにとって大事なお仕事みたい。


 不機嫌そうだけど出掛けたアスティを見送り、最後の角を曲がるまで手を振る。それから一度お部屋に入って、侍女の人からお菓子の入った袋を受け取った。これは昨日の森色の人にお詫びで渡すんだ。


 準備は出来たかな? サフィーが待ってるから早くしないと。布の靴から、新しく作ってもらった靴に履き替える。お部屋の中は布の靴でいいけど、外はだめなの。硬いものを踏むとケガしちゃうんだ。


 痛くない靴を履いて、僕は忘れ物を思い出した。慌てて靴を脱いで、そのまま絨毯の上を走っていく。ベッドの隣にある机の引き出しを開けて、中から紙を取り出した。昨日、落としていった紙を返さなくちゃ。きっと大切な書類だと思う。


 紙が折れたり汚れないように、白いケースに入れてもらった。


「俺がもちますよ」


 一瞬「平気」と答えかけて、左手のお菓子の包みに気づいた。これを持って右手に紙が入ったケースを持ったら、手が繋げない。昨日の失敗もそのせいだから、お願いした方がいいよね。


「お願いします」


「はい、確かに預かります」


 サフィーはお菓子も持ってくれると言ったけど、これは僕が運ぶの。ごめんなさいして、お菓子を受け取ってもらいたいから。重くないから平気だよ。手を繋いだサフィーは、ゆっくり歩く。


「昨日ぶつかったのは、どんな人でしたか」


「うんとね、緑の森みたいな透き通った鱗の人だった。いっぱい鱗があってキラキラしてたよ」


「竜族ではないようですね」


 不思議に思って首を傾げたら、竜族が人の姿をしている時、鱗は少しだけと教えてくれた。首や頬、肩など。少しだけ出る。アスティも首のところや耳の近くはあるけど、他の場所はあまり鱗を見なかった。お風呂に入った時に見たのは、膝より上や服で隠れる場所にも銀色の鱗が輝いてたけど。


「全身に生えているように見えたなら、蛇か蜥蜴の獣人でしょう」


 話を聞いている間に、お屋敷の前にある執政棟と呼ばれる建物に着いた。アスティから聞いたのは、ここの3番目の扉のお部屋だ。サフィーも数えながら歩いて、小さな数字が書かれた扉で足を止めた。


 ノックして待つ。ドキドキする。早く開いて欲しいけど、ゆっくりでもいいような感じ。答えの声は聞こえなかったけど、扉が開いた。


「あっ!」


「昨日はごめんなさい。えっと、これどうぞ」


 考えてきた言葉が消えちゃって、僕はお菓子の包みを差し出した。

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