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26.知らない人とお話したらいけないの

 ジュゥ、焦げる音がしていい匂いがする。お店の人が魚で作ったタレをかけて焼いた貝が、お皿に載って差し出された。貝殻の半分を使って、上でぐらぐらと身が煮えてる。甘辛い匂いがして、貝の汁が濁っていた。初めて見る食べ物だ。


「カイ、こうやってお皿に中身を出して」


 アスティがするのを見ながら真似をする。貝殻は熱いから布巾で押さえるんだよ。ひとつ真似したらアスティの手を見て、また同じ動きをした。アスティがゆっくり動いてくれて助かる。アスティの取った貝より崩れたけど、すぽんと中身がお皿に落ちた。


「できた!」


「上手ね、食べる時は熱いから冷ましましょうね」


 僕知ってるよ、ふぅふぅと息を吹きかけるの。やって見せたら褒められる。お母さん以外に僕を褒めたり撫でたりする人はいなかったから、アスティがずっと一緒にいる約束をくれたのが嬉しい。ずっとずっと、僕が大人になっても一緒にいたいな。


 ふぅ……よく冷まして、念のために指先で触って確認してから口に入れる。じわっと味が広がって汁が口中に溢れた。中の汁は外より熱かったけど、たくさん冷ましたから平気。はふはふと熱を逃がしながら噛んで飲み込んだ。


「おいしい!」


「よかったわ。たくさん焼いてもらうから、いっぱい食べましょうね」


「ダメだよ、ご飯持ってきた」


 残したらダメなの。そう言ったら、夜まで遊ぶから夜に食べればいいのと笑う。アスティが言うなら大丈夫かな。安心して次の貝にふぅと息を吹きかける。


「カイ、よければ交換しましょうか」


「うん」


 なんでだろう、僕が冷ましたやつを食べるなんて。嫌じゃないの? 皆は僕を汚いって嫌うのに、アスティはしない。抱っこもするし、キスもくれた。僕を好きでいるアスティが不思議だけど、このまま嫌わないでくれると嬉しい。


 僕が冷ますたびに、アスティが交換する。貝だけじゃなくて、イカや魚もあった。クルクル巻いた貝もあったよ。初めて見る食べ物ばかりで、どれも美味しい。海で獲れると聞いたけど、あの海の匂いはこのお魚や貝の匂いかも。ちょっと似てる。


 たくさん食べてお腹がいっぱいになった頃、今度は髭が立派なおじさんが訪ねてきた。僕の隣に座ったんだけど、話しかけてくる。


「こんにちは」


「……誰?」


 僕に話しかける知り合いなんていない。それにお屋敷の人は「知らない人に話しかけられたら逃げなさい」と言ってた。怖くなった僕を、アスティが抱き寄せて膝に乗せる。下から見上げると怖い顔をしていた。声も僕と話す時より低くて怒ってる感じ。


「私の番だ、勝手に話しかけるな」


「おやおや、随分と束縛の激しい女王様だ。俺の国に来たんだ、顔を見せるのが筋だろう?」


「さて、そんな流儀は聞いたことがない」


 むっとした顔のおじさんへ、アスティが怖い声のまま笑った。僕に向けるのと違う、何だか本当は笑ってないみたい。


「この国を平定して我が領土にしたら、そのような雑事の懸念は消えるが」


 どうする? 脅すみたいなアスティのお膝の上で、僕はこてりと首を傾げた。

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