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18.私以外の誰かが残した痕跡――SIDE竜女王

 竜族にとって、番を見つけることは生きがいでもある。愛し愛される関係を築くため、誰もが必死になって番を探した。見つかった番を生涯慈しみ、共に命果てるまで。それは理想の生き方だった。


 竜女王として頂点に君臨する私も、番との出会いを夢見て過ごしてきた。いつか私だけの愛する人が現れるはず。そう信じて探し続け、ようやく見つけた可愛い子。


 ばさばさだった黒髪は椿油で艶を出し、柘植の櫛で丁寧に梳いた。汚れた手足は洗えば白く、まるで真珠のようだわ。赤い瞳を宝石のように輝かせ、祝いの品にお礼を返す。外見はもちろん、中身も可愛く愛おしい。


「今日は疲れたかしら」


「ううん、平気。いっぱいいっぱい来たね」


「そうよ、カイが可愛いから自慢しちゃったわ」


 照れて顔を伏せるカイの体には、いくつか傷痕が残っている。竜族の中で治癒が得意な水竜の力を持ってしても消せない傷は、心に刻まれた痛みの反映だと聞いた。気持ちが安らぎ、過去を切り捨てれば消える、とも。


 理解していても、早く消してしまいたい。この美しい番の体に、私以外の誰かが残した痕跡など許せなかった。


 ぎゅっと抱き締める私に、おずおずと手を伸ばすカイ。振り解かれることを怖がり、叩かれる可能性に目を潤ませる。こんな幼子に、人族は何をしたのか。すべてを知りたいと思い調査させ、だが届いた報告書に手が震えた。


 先代竜王と戦った時でさえ、怖いと思ったことがない。誰が相手でも怯まず戦い、倒す自信があった。だがカイという番を得て実感する。私は怖さも強さも知らなかっただけ。守るカイがいる今、私は誰より残酷に強く振る舞える。同時に、カイに嫌われたなら……息をすることも出来ないだろう。比喩ではなく、そう感じた。


 報告書を机の上に残し、カイと過ごす時間を大切にする。膝の上に乗せて甘やかし、美味しいお菓子を手ずから与えた。給餌行為と呼ばれる、求愛行動のひとつなのだけど。何も知らずに笑って受け入れる番の、なんて愛らしいこと。


 お昼寝の時間も離れず、膝枕で休ませた。嬉しそうなのに、遠慮がちに裾を握る手を引き寄せる。


「掴んでいいのよ。誰も叱ったりしないわ」


 頷いて眠りに落ちた幼子の前髪を、指先で優しく耳にかけた。手元に引き寄せた報告書に目を通す。おそらくカイは読み書きが出来ないけれど、見せたい情報なんて書かれてないはずだから。読んで歪む私の醜い顔も見せたくなかった。


 怒りで目の前が真っ赤に染まる。感情が昂りすぎて、魔力が溢れた。それでもカイを結界で包んで守ることは忘れない。安心して眠りなさい。私の腕の中は安心していいのよ。そう示しながら、制御できない怒りを噛み締めた。


 初期の調査段階で、ここまで酷い内容なら……残りも推して知るべし。人族の都ひとつ滅ぼしても収まらない激しい怒りと悔しさが、私を駆り立てる。必ずや報いを。竜族の番、大切な伴侶を傷付けた報復は国をも滅ぼすのだから。言い伝え通り、国ごと処分して差し上げましょう。







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 ハッピーエンド確定、6話完結


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