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145.溢れんばかりの想いをのせて

 まずはお風呂に入る。大急ぎで髪と体を洗って、温風で乾かした。本当は魔法で浄化も出来るんだけど、それだと足りない気がして。お風呂に入れば、花の香りがする石鹸を使うから、僕にいい香りが付く。


 侍女の人に用意してもらった服を着るんだけど、一人じゃ無理だった。夜会や儀式の時のちゃんとした正装を、ヒスイや侍女の人の手伝いで着る。首のところにあるフックを留めて、飾りのリボンを整えた。


「平気そう?」


 くるりと回った僕に、ヒスイが慌てて手招きする。


「大丈夫ですから、早く。髪を結んで飾りをつけないと」


「あ、そうだった」


 ヒスイの前にある椅子に座り、髪を梳いて結んでもらう。髪飾りを付けて、鏡の前で確認した。ヒスイも侍女の人も、口を揃えて「ご立派です」と褒めてくれる。うん、僕も大丈夫だと思う。


「皆、ありがとう」


「こちらが希望されていた花束です」


 庭師のおじいちゃんに頼んだ花束を受け取り、頑張ってくだされと肩を叩かれた。アベルはアスティの仕事量を調整して、僕の時間に合わせてくれた。皆の協力で今日があるの。僕は忘れないし、感謝している。


 ちゃんと言えて、アスティが僕の気持ちを受け取ってくれたら、すぐにお祝いに移れるよう料理人も腕を奮った。絶対に成功させなくちゃ!


 深呼吸して、薔薇の花束を抱きしめる。愛の告白の赤だけじゃなく、色を混ぜてもらった。僕がもらったたくさんの想いを、すべて入れた花束だよ。薔薇以外の花も入ってる。


「待ってます」


 成功して大広間に来るのを待ってる。そう告げて、ヒスイは庭の方へ出て行った。侍女の人も廊下から帰っていく。誰もいなくなった部屋で、花束を抱えて僕は頬を緩めた。アスティが喜んでくれたら、それだけでいい。


 足音は聞こえないから、魔力を探るために目を伏せた。昨日の夜、シグルドも応援してくれたんだ。幸せになれと言われて、頷いた。彼の番はすでにいなくて、それでも僕を嫌わずに応援する。彼のように心の広い人になりたいから。余計なことは言わずに、ありがとうとお礼だけ伝えた。


 アスティの魔力は綺麗な光だ。銀と金が混じったような、でも透明感がある。近づく距離を測って、もう一度深呼吸した。言葉は覚えてる、大丈夫。自分に言い聞かせた。


 もうすぐドアが開く。


「カイ、もう帰って……っ!」


「リ・ラ・フレス・ミル・アストリッド」


 古代語で、アストリッドを愛している。そう告げて、膝を突いた。正式な求婚の時はこうするって、アベルに教わったの。イェルドも古代語の発音を直してくれた。


 昔の僕は「大好き」を伝えたくて「エ・ル・ライア・ミル・アスティ」の言葉を口にした。あの時より、ずっと膨らんだ想いをのせて。驚きに目を見開いた美しい番へ、花束を差し出す。


「愛してる、アスティ。僕のお嫁さんになってください」


 ぽろりとアスティの頬に涙が伝った。透明で綺麗で、アスティの魔力みたいだ。涙を流しながら笑った彼女は美しくて、僕も泣いてしまった。

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