138.歪んだ愛情の行方――SIDE獣人少女
奪われた! 大切な私の番が、盗人に横から奪われたの。そう叫びながら塔の螺旋階段を飛び降りた。途中で働く落下防止の浮遊魔法を利用し、最短距離で自室に飛び込む。
彼を連れてきた後、あの女の気配がするペンダントを奪った。鱗がぶら下がる趣味の悪い銀鎖、もしかして彼は洗脳されてたのかしら。そんな考えが過ぎる。
この鱗を身につけていたから、きっと汚染された。私が綺麗にしてあげなくちゃ。汚染を除去すれば、彼は私が番だと認識するわ。邪険にしたことを謝り、大切に私を愛しんでくれるはず。
「忌々しい鱗だけど、有効に使わなくちゃ」
竜族は最強種族と呼ばれる。魔法を使う魔族や身体能力に優れた獣人より、圧倒的に強い。次元が違う、格が違うと言われるけど……だから何? 塔の魔術師である私に敵うはずないわ。過去に数十人いた魔術師も、現在は両手に足りる数だけ。私は塔に選ばれた、優秀な魔術師なの。
取り返すために、まずは魔術を探さなくちゃ。先人が遺した恐ろしい魔術や呪術が、この塔に封印されていた。使ってはいけないと言われても、目の前にあれば手を伸ばす。知的好奇心が高いから、塔に入ったんだもの。大切な番を奪い返すために使うなら、過去の偉人達も許してくれるはずよ。
数十年前――私が生まれる前に、前魔王がこの塔を訪れた。魔術の才能がある彼は受け入れられ、10年近く何かを探したと言うわ。魔術の才能があった彼が塔の秘術を使えば、世界も席巻できる証拠だった。彼にできて、私に出来ないわけない。
塔の側壁に沿って積まれた大量の書物を、次々と開いては戻す。繰り返す中で、ようやく見つけた一冊をじっくり読み耽った。竜族が魔法に耐性があったとしても、過去に戦った魔術師がいる。その人の記録からヒントを得るのよ。
「これなら鱗があるから完璧ね」
鱗を媒介に使い、竜族を呪う。見つけた秘術の本を抱え、自室に戻った。取り出した鱗は黒と銀……まずは黒から試しましょう。あの女は銀髪だったから、きっと黒い鱗は別の誰かだわ。そういえば、黒髪の騎士がいたかも。
体の大きな竜族の騎士を思い浮かべ、魔法陣を作り上げる。名前が空欄だから威力は弱まるけど、鱗があるから個人特定は可能だった。描いた魔法陣の空欄に鱗を置き、魔力を流す。回路に魔力が満ちると、鱗が溶けた。魔法陣の欠けた空欄を埋めるように、鱗が同化していく。
「ふふっ、これでいいわ。迎えにいくから待っててね」
にっこり笑って魔法陣へ残りの魔力を注ぎ切った。あの子、震えるかしら。綺麗な顔を歪めて、私を睨むかも知れないわ。でもね、あなたが悪いの。私を捨てようとするから。
呪いが解けて、私を愛するようになれば……あなたも理解するわ。