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137.シドは僕の心も体も守ったんだ

 捕まってた間の話をしたら、肘をついてお菓子を齧ったラーシュが「ああ、なるほど」と声を上げた。


「腹が減らなかったんだろ? その間、寝る時間が増えなかったか」


「そうだね、ずっと寝てた」


 一人だったから時間はあったし、シグルドにも会いたいから寝てた。頷く僕に、ラーシュは次のお菓子を口に入れて笑った。


「魔力が多いから出来る技だが、身喰いって現象だ」


「身喰い……」


 言葉が滲ませる物騒な響きに、アスティが心配そうに僕を撫で回す。ずっとお膝から下ろしてくれなくて、恥ずかしいけど嬉しい。子どもの頃みたいだ。重くないといいなと思いながらも、離れたくなかった。


「俺達も出来るが……魔力を体力に変換して補うんだ。自分の魔力を喰うから、身喰いと呼ぶ。害があるとすれば、眠くなることだ」


 ラーシュの説明を補うように、イェルドも話し始めた。僕が知らない魔力の使い方だ。


「魔力を封じられても使えるんで、便利だぞ。ただ、ずっと続けると魔力が回復しなくなって終わりだ。短期決戦のときだけ使える方法さ」


 魔力で体力を補うけれど、魔力の回復が追いつかなくなるみたい。自分の内部で魔力を食べるから、魔法を封じられても使えるんだって。


「よく知ってたな」


 くしゃりと黒髪をかき乱したラーシュに言われて、僕は首を傾げた。そんな方法、使った覚えがない。


「僕、それ知らないよ」


「「は?」」


 ラーシュとイェルドが声を揃えたところへ、パンやスープが運ばれてきた。全員の分じゃなくて、二人分だけ。僕がいない間、心配で食べられなかったアスティも食べるんだ。


「アスティ、あーん」


 素直に口を開けたアスティの口に、スープに浸したパンを入れる。同じものを僕も食べさせてもらった。手にしたスプーンが、お互いに食べさせ合う。


 急にいっぱい食べるとお腹が痛くなるから、休んで起きるまでご飯はこれだけ。安心して食べられるって、幸せだな。


「知らないのに使える技か?」


「無意識に使った可能性って、どのくらいだ」


 ラーシュとイェルドがぼそぼそと話してる。僕の話みたいだけど、たぶんシグルドがしてくれたと思う。


「あのね、僕のここにシドがいるでしょ。もしかしたら助けてくれたかも」


「ああ、それならあり得る」


「死を防ぐために、発動したのかもな」


 シグルドは夢の中だけじゃなくて、僕の体も守ってくれた。嬉しくなって、今夜はしっかりお礼を言おうと決める。照れて「知らねえよ」って言うのかな。


「食べ終えたら寝てください。もちろん、アストリッドもです」


 アベルに叱られて、僕とアスティはお部屋に戻った。手を繋いで、それでも不安でお互いを見つめながら、一緒にお風呂に入る。ベッドに潜り込んで、ぎゅっと背中に腕を回した。アスティの鼓動を聞きながら、目を閉じる。


 そうだ、あの閉じ込められたお部屋……窓がないことより、音がしないことの方が怖かった。音がするときは、あの子が来る時だったから。心を落ち着かせて、アスティの匂いを吸い込んで、冷たい鱗に頬を寄せた。目が覚めても、アスティが消えませんように。

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