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134.相談出来るシドがいて良かった

 朝になって、ようやくマデレイネは顔を見せた。扉を開けて食事を持ち込み、僕に微笑みかける。


「ご飯にしましょう。昨夜はお腹が空いたでしょ? でもあなたが悪いのよ。私を否定するから、罰なの」


 否定って、番じゃないと言ったこと? 嘘じゃないし、ただの事実だ。僕は人族と魔族のハーフだけど、魔族は番に似た制度がある。だから本能で知ってるよ。僕が選んで、僕を選んだ番はアスティだけ。


 最強の竜女王アストリッド以外、僕は誰もいらない。もし番がマデレイネだとしても、アスティを選ぶよ。僕がアスティを好きなのは、理屈じゃなかった。彼女の愛情は深くて、僕が嫌がることをしない。自由に学ばせてくれて、ご飯を一緒に食べて隣で眠るだけで幸せなんだ。


 幼い頃の僕は、お母さんと居て幸せだった。たとえ苦しい思いをしたとしても、働くことが辛くても。一緒にいてくれるお母さんの笑顔で、幸せになれた。


 アスティもそう。僕と一緒にいると笑う。その笑顔が好きだった。他の誰でもない、僕がアスティを好きなんだよ。君じゃない。


 むっとして僕は何も答えなかった。彼女は気にした様子なく、食事を机の上に並べる。スープとパン、野菜と卵の料理。普通のご飯だけど、僕はテーブルに近づかなかった。


「どうしたの? お腹空いたはずよね」


 ベッドに座ったまま、僕は首を横に振った。声を聞かせるのも、話すのも嫌だった。この子は僕の話をちゃんと聞かない。だから僕も彼女に答えない。


「お願い、食べて」


 無言で首を横に振り続けたら、諦めて帰った。ご飯は残していったけど、僕は手をつけない。アベルやボリスに教わったんだ。信用できない人の運んだ食事は、絶対に口にしないって。約束は守るよ。


 不思議なことに、食事を前にしても「お腹が空いた」と感じない。こてりと首を傾げて、ベッドに横たわった。昨日の夜の続きを夢に見たい。そう願いながら、僕は目を閉じた。





「ん? もう帰ってきたのか」


「うん。ご飯出されたけど、怖いし。お腹空かないんだよ」


 精神的な影響とか、そんなことを呟いたシグルドが説明してくれた。僕の首に巻かれた革は、呪詛と同じ封印の首輪らしい。魔法を封じてるのは首輪が原因だった。外せたら、魔法が使える。でも手で外すことは無理みたい。


 連絡用の鱗は奪われてしまったし、アスティ達が僕を見つけるまで時間がかかる可能性があること。その場合に備えるなら、体力を維持する必要があるみたい。でも食べたくない。


「まあ、何が入ってるか……考えるだけでゾッとするけどな」


 シグルドは昔、悪いお友達がいっぱいいた。呪詛を使ったり、服従の首輪で誰かを支配したり。そんな人の共通点は、お話が通じないこと。今のマデレイネみたいだ。一方的に意見を押し付けて、僕のお話を聞かない。聞いても否定するんだよ。


「食事は何が入ってるの?」


「毒……だな。と言っても、殺すタイプじゃない。言いなりにさせたり、思考をぼんやりさせるやつだ。絶対に食べるなよ」


「うん、わかった。シグルドが居てくれて良かった」


 僕一人じゃ、どうしたらいいか。判断できなかったね。昨日の夜眠った時も、シグルドはすぐに会えた。僕の中にいるシグルドは、魔力を通して繋がってるからだ。僕の魔力は首輪で外へ出せないけど、シグルドは僕と一緒に生きてる。逃げる方法を考えたり、相談できる相手がいるだけで、僕は安心だった。


「いいか、起きてる時は情報を集めろ。腹が立っても、向こうに喋らせるんだぞ。反論したらダメだ」


 言われたことを守って、早くアスティに会いに行きたい。頑張ったんだよ、シグルドも助けてくれたって自慢する! あ、アスティにはちゃんと「シド」って説明するから安心してね。

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