131.もう子どもじゃないよ
ラーシュ達と魔法陣の解読をして、新しい魔法をいっぱい覚えた。気づいたら、夕暮れで空は赤い。アスティとの約束の時間になっていた。
「僕、帰らなくちゃ!」
「あ、夢中で気づかなかったな。悪かったよ、送ってやる」
ラーシュが転移魔法を使って、お部屋まで送ってくれた。ヒスイはイェルドに送ってもらうんだって。遅い時間に子どもだけは危ないと言うけど、僕達はもうすぐ大人なのに。お部屋の入り口で別れて、慌ててドアを開いた。
「アスティ、ごめんね。遅れちゃった」
「いいのよ」
微笑んでるのに、アスティの機嫌が悪い? なんか変なの。近づいたら、顔を近づけて匂いを嗅いだ。僕、汗臭いのかな。
「汗臭い?」
「いいえ、ごめんなさい。何でもないの」
泣きそうな顔で言われたら、すごく気になる。汗臭くないならいいよね。ぎゅっと抱き締めた。アスティの匂いがして、安心する。
「僕が子どもだから言わないの?」
こてりと首を傾げ、アスティの首筋に頬をくっ付ける。ひんやりした鱗の感触が、気持ちよかった。でもアスティはまだ僕の背中を抱っこしてない。
「もう嫌いになった?」
「絶対にならないわ!」
怒鳴るみたいに勢いよく否定されて、嬉しくなる。もっと抱き締めたら、アスティの手が背中に回った。ぴたりと肌が触れて、幸せな気持ちが広がる。だからこそ、アスティの様子が気になった。
「何かあったの?」
もう一度尋ねる。これでアスティが黙ってるなら、教えてくれるまで我慢しようと思った。アスティは僕に嘘をつかないから、言いたくなければ黙ってる。僕はそれでいいよ。
「……カイ、今日……ピンクの髪の子と話をした?」
「うん、女の子でしょ? ヒスイと一緒にいた時に話しかけられたよ」
「何を……話したの」
「えっと、僕を好きだと言ってた。ありがとうと返して、でも大切な人がいるからごめんね、をしたの。僕はアスティが好きだもん」
綺麗な紫色の目を見ながら話す。アスティが僕に嘘をつかないから、僕も嘘は言わない。その覚悟で言い切った。じっと見つめ返すアスティが、ようやく笑った。
「そうよね、私ったら疑ってしまったわ。ごめんね、カイ」
「ううん、いいの」
本当に構わないんだ。アスティはこうやって僕に話して、ちゃんとお互いに信じてるから。大好きなアスティが僕を嫌いじゃなければ、それだけで幸せなの。きちんと話して、ちゅっと唇を重ねた。
「僕は、ピンクの髪の子なんて忘れてた。今日はラーシュにいっぱい教わって、頭がいっぱいなの。残った部分はアスティがいるから、別の人は入れないよ」
「ありがとう。私も大好きよ、カイ」
僕の名前を呼ぶ響きが好き。アスティの声は柔らかくて、愛おしいって伝えてくる。僕がアスティを呼ぶ声も、同じように聞こえればいいな。