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10.苦いお薬の後は甘い飴を

 少し眠って目が覚めた。何だかお腹が痛い。変なの……硬いパンでも臭い水でもないのに。首を傾げた僕の動きで、アストリッドさんが起きちゃった。ごめんなさい。


「どうしたの? お腹が痛いのね。食べさせ過ぎちゃったみたい」


 おろおろしたアストリッドさんが僕の頬を撫でる。気持ちいい。目を閉じて撫でる手を感じていると、鈴が鳴る音がした。すぐにお部屋に別の人が入ってくる。さっきご飯を運んだり片付けてくれた人達だ。じっと見ていると、アストリッドさんが何かを頼んだ。


 すぐに運ばれてきたのは、薄い緑色の水が入ったコップ。透明のコップは値段が高いから、僕が洗った中にはなかった。割られると大変だと言われたよ。コップを受け取ったアストリッドさんが、ちょっと口を付けてから僕に差し出す。


「少し苦いけど、飲めるかな? 上手に飲めたら飴をあげるわ」


 アストリッドさんは、赤い包み紙を見せた。丸いけど、あれが飴? 飴ってどんな味がするんだろう。不思議でじっと飴を見つめた。つんと頬を突かれて、慌ててアストリッドさんに目を移す。


「お薬なの、飲んで。お腹の苦しいのや痛いのが消えるから……ね」


 お願いと言われて、両手でコップを掴む。でも滑りそうで怖くて動けなくなった。アストリッドさんが手を伸ばして、コップの底を持ってくれる。


「これなら飲みやすいかしら」


「うん、ありがとう」


 お礼を言ってコップに口を付けた。いつもの焼き物のコップと違って、表面がつるつるしてる。唇に当たっても痛くない。傾けて中身を口に入れる。怖いから最初は少し、苦いけどお薬だと聞いたからもっと飲む。


 お腹痛くても苦しくても我慢できるけど、アストリッドさんが心配そうだから。痛いのに何だか嬉しいなんて、変なの。半分以上飲んだところで、アストリッドさんがコップを戻した。残ってるけどいいのかな。


「子どもだから、半分も飲んだら十分よ。飴を入れるから口を開けて」


 びっくりした。赤い包み紙は、食べ物だったの? お腹空き過ぎて紙を食べたことあるけど、がさがさするし、喉に詰まるのに。驚いていると、アストリッドさんの指が包み紙を開けた。透明で金色の丸い物が入ってる。


「あーん」


 この合図は覚えたよ。口を開けるの。今までアストリッドさんは痛いことしなかったから、大丈夫だよね。ころんと音を立てて入った丸い物を転がす。凄い! 甘い味がする。僕が知ってる中で、一番甘いよ。


 口の中にあった苦い味が消えて、甘いのが広がった。美味しい。


「おいひぃ」


 飴が邪魔でうまく話せないけど、でも美味しいと伝えたかった。にっこり笑うアストリッドさんにも分けたくて、飴を手のひらに出す。驚いた顔をした彼女に、僕は気づいた。そうか、僕みたいな汚い子が口にした飴なんて、いらないよね。しょんぼりした僕に、アストリッドさんが笑う。


「どうしたの、もしかして分けてくれるの?」


 小さく頷いたら、「あーん」と口を開けた。アストリッドさんの口にそっと飴を置く。吐きだすかも知れないと思ったけど、ぺろりと舐めた後、顔が近づいた。僕の唇をアストリッドさんがつんつんと合図する。開いた唇に触れた柔らかい感じ、その間を甘い飴が通り抜けた。


 ぼやけて見えないくらい近くにアストリッドさんの顔がある。僕の口に戻された飴は、さっきより少し小さくて。でももっと甘くなった気がした。

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