125.お仕事を半分片付けた
お屋敷の一番大きな部屋に入ると、箱がたくさん並んでいた。縦に積み重ねた箱もある。
「この部屋から出てはダメよ。積んだ箱を下ろすのは、イェルドに頼むの。何かれば、すぐに私を呼んでね」
「わかった」
「俺がいますから」
気をつけます、とヒスイが約束する。僕もアスティと指切りで約束した。危険なことはしない。重い箱は持ち上げない。それから箱を開けるときは手をケガしないこと。何かあったらアスティを呼ぶ。
ちゃんと数えて約束を繰り返し、作業を始めた。手前の箱から開けるの。奥は後でもいいんだって。運ばれた箱に文字が書いてある。
「おうせつしつ、かびん」
文字を手で追いながら読んで、箱の上にある紐を解く。リボンになってて、引っ張るとするりと落ちた。ヒスイと一緒に蓋を下ろすと、侍女の人が駆け寄った。
「応接室の花瓶です」
読んだ通りに伝えるヒスイにお礼を言って、侍女のお姉さんが運んで行った。重そうに見えたけど、あのお姉さんは熊の獣人だから平気みたい。丸いお耳が可愛いんだよ。
次は文房具、それから本棚で使う仕切り、これは何だろう?
「イェルド、これなぁに?」
「どれ……文鎮と書類箱だな」
全部執務室行きだった。これは通りかかったルビアに渡す。次から次へ箱を開け、書いてある場所を伝えて運んでもらった。
たくさんあるから、時間がかかるし疲れる。途中で休憩して、冷やしたお茶を飲んだ。侍女の人や騎士の人も、あちこちで休憩する。イェルドは、僕達の近くでごろんと寝転がった。
「疲れちゃったのかな」
「きっと休憩が終わったら起きます」
ひそひそと話した後、ヒスイと僕も寝転がってみた。まだ絨毯がない床は冷たいけど、新品のお家だからいいよね。転がったら硬くて痛いから、すぐに起きた。イェルドはまだ寝転がってる。平気なのかな。
休憩を終わりにして、また箱を開ける。空になった箱は、イェルドがぽいっと片づけていた。どこへ入っていくのか、黒い穴に投げ入れるだけ。紐も一緒に投げ入れる。でもイェルドが寝てると、黒い穴もお休みみたいで……僕達は箱を部屋の隅へ並べた。
持ち上がらないのはそのまま置いて、残りを縦に積んでみる。蓋をしてなかったから、傾いちゃった。がたんと大きな音がして、驚いた周りの人が駆け寄る。
「ケガしてませんか」
「大丈夫だった?」
びっくりしたけど、どこも痛くない。手や足を撫でて確認し「平気」と頷いた。皆がほっとした顔になる。心配させてごめんね。
「イェルドさん、起きてください」
寝てたのに騎士の人に起こされたイェルドは、状況を理解すると頭をぽりぽりと掻いた。鋭い爪があるのに、痛くないの? 僕達に「悪いな」と謝って、すぐに箱を黒い穴に放り込む。魔法を使うから、疲れるけど体力はいらないんだって。
「その魔法、僕も出来る?」
「ラーシュがいいと言ったら教えてやる」
約束して、ヒスイと僕は作業を続けた。同じ魔法が使えたら、きっと僕も役に立てる。うきうきしながら、次に魔法を習うお勉強を想像した。今日開けた箱は、お部屋の半分くらい。残りは明日になった。