123.匂いを嗅いでいいのは番だけ
今日は、サフィーと一緒にお菓子を作る。お昼までに作れば、お茶の時間に出せるって。ヒスイも手伝ってくれるの。
アスティに美味しいお菓子を出したい。ルビアに頼んだら、料理はサフィーが得意ですと教えてくれた。ルビアは苦手なんだよ。
「ルビアに作らせると、なぜか焦げて黒くなります」
黒い焦げたのって、炭? 食べられるのかな。お菓子用の粉や卵、ナッツを用意する。お菓子の作り方は、サフィーが本を見せてくれた。
「いいですか、重要なのは量をきちんと計ること。それから順番を変更しないことです」
「わかった」
「頑張ります」
慎重に二人で粉を計る。重さピッタリだよ。卵を割って、隣に牛乳も用意した。書いてある通り、順番に従って混ぜていく。捏ねたら平らにして型を抜いた。
「これは犬?」
「こっちはドラゴンです」
「ナッツは細かく……このくらい?」
あれこれ騒ぎながら、沢山の型を使って色んな形のお菓子を作った。これを焼くのは、危ないから大人の仕事。サフィーに任せることにした。オーブンに入れたお菓子に手を合わせる。
「美味しくなりますように」
「俺もお願いします」
粉がついた手を洗ったけど、ヒスイから甘い匂いがする。焼き菓子に入れたお砂糖かな。くんくん首筋の匂いを嗅いでいたら、サフィーが注意した。
「そういうのは、番とだけだ。首の匂いは特別なんだぞ」
「そうなの?」
びっくりする。アスティの首の匂いを嗅いでも、誰も何も言わなかったのは、番だから? じゃあ、ヒスイの匂いはダメなんだね。
「ごめんね、ヒスイ」
「いいえ。俺は気にしませんが、竜族の方は厳しい方が多いので……次から気をつけましょうね」
ヒスイは僕より大人みたい。いけないことをしたのに、怒らなかった。僕は人族で育ったから、そういうお話を知らないの。いろいろ教えてもらおう。
ヒスイと手を繋いで、お庭に出る。最近は授業もなくて、お屋敷を作る作業のお手伝いが多かった。僕達は色を塗ったり、小さな道具を運ぶお仕事だ。今日もお手伝いすることあるかな。
「え? 番様とヒスイは今日休みと聞いてます。だからお菓子を作っていたのでは?」
あれ? 僕はお仕事は午後からで、お昼までは時間があるからお菓子を作れると思ってた。顔を見合わせて、お手伝いに行くと伝える。
「せっかくの休みですから、空を飛んでみませんか。俺の背に乗せますよ」
誘われて、ヒスイとちらちら目を合わせる。それから二人で頷いた。
「「乗る!」」
サフィーは青い鱗のドラゴン。水や氷を使った魔法が得意で、落ち着いた性格の人だよ。でも空を飛ぶと性格が変わるみたい。
すごい勢いで上昇したり急降下したり、僕達は大興奮で手綱を握った。魔法で落ちないとわかってても、下へ向かうとお腹がぞわっとする。ぶわぁってなって、じわじわするんだ。すごく楽しかった。
気づいたらお昼を過ぎていて、慌ててアスティのところへ向かう。もしかして、僕がいないから食べてないかも。心配は当たってしまい、出かける時は気をつけようと決めた。
「お菓子を焼いたんだよ、おやつに食べよう」
「ふふっ、それでカイから甘い匂いがするのね」
くんと僕の首筋の匂いを嗅いだアスティ。僕の番だから平気。ちゃんと覚えたよ。笑いながらそう伝えて、アスティの首筋に顔を埋めた。