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121.不安はあるけれど――SIDE竜女王

 カイは自分で前魔王と話を付けたみたい。大人しく魔力を明け渡した前魔王は溶け込み、カイの奥底で眠ることになった。


 不安がないといえば嘘になる。可愛く愛しいカイの中に、あの凶悪な男が混じることで、何らかの変調を来したら? その心配は、ラーシュやイェルド、アベルによって否定されたが。


 憑依の魔術と同じだ。過去に消滅し存在しないはずの魔術を、あの男は復活させて操った。今回も同じことがないよう、気を配らなければ。そう思うが、魔力と人格を引き離せば、自由に使えなくなる。この法則はどの種族も同じだった。


 無事に引き剥がしたと聞き、目覚めたカイを抱き締める。会話も今まで通りのカイで、体の中で眠っている間に話をしたらしい。拙い表現が多いものの、一生懸命説明してくれた。


 封印対象が消えたことで、魔法陣が消滅した羊皮紙を巻いたカイは、黒猫のぬいぐるみの中へ戻した。これを抱えて歩けば、シドがいるみたいでしょ? そう言って笑う。


 ラーシュやアベルも、賛成だった。こうして羊皮紙が入った黒猫のぬいぐるみを持ち歩けば、あの中に封印されている、と勘違いさせることが可能だ。少なくとも、1回は危険を回避できるだろう。


 一緒に風呂に入れないのは残念だが、明日もある。ここは譲るべきだろう。私はあの子を大切にしたいが、束縛したいわけじゃない。自ら私の元へ留まって欲しいのだ。閉じ込めて自由を奪い、悲しそうに目を伏せるカイは嫌だった。


 元気よく出かけていくカイを見送り、彼が忘れていった黒猫のぬいぐるみを拾い上げる。枕の隣に座らせ、ちょいと細工をした。中の羊皮紙に、僅かな魔力を浴びせる。これで、魔力が漏れ出したように装えるか。


 部屋に備え付けの風呂でさっと汗を流し、部屋のソファで銀髪を乾かす。しんと静かな部屋は、物足りなくて寂しい。カイと出会うまで、この状況が当たり前だった。なのに、今は耐えられそうになかった。


「早く帰ってきて、私のカイ」


 呟いて苦笑いする。ぱたぱたと廊下を走る音がして、扉が開いた。私の小さな声に応えたように、カイは走る。広げた腕に飛び込んだ幼子は、濡れた黒髪で笑った。


「アスティ、いた!」


「いるわ。カイを置いていくわけないでしょう?」


 あなたがいない場所なんて、私には価値がない。重い本音をさらりと隠し、安心させる言葉を選んだ。頬を寄せて、魔法でカイの髪を乾かす。


「うわっ、すごい!」


「カイも出来るようになるわ」


 前魔王の魔力があれば、魔法も使える。アベル辺りに教師を頼もうかしら。彼は忙しいだろうから、別の教師を手配した方がいいかも。いっそ魔族、ラーシュでもいいわね。


「魔法? 使ってみたい」


 目を輝かせるカイのために、忙しく思考を巡らせながら頷いた。


「ええ、私もカイの魔法が見たいわ。きっと可愛くて素敵でしょうね」


「僕ね、風で飛んでみたい。あと、お水を作ってお花に掛けるの!」


 可愛らしい魔法ばかり思いつく番の頬にキスをすれば、お返しをもらった。不安はあるけれど、大丈夫、あなたの強さを信じてるわ。

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