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08.お皿まで怖がるなんて――SIDE竜女王

 用意させた料理に鼻をひくつかせる。愛らしい仕草に微笑ましくなった。膝の上で同じ向きで座らせ、愛しいカイの背中を抱き締める。


 カイが虐待された事実は掴んでいる。そこから先は今後調査の必要があるだろう。だが現時点で大事なのは、カイを怯えさせないこと。愛しい番に私は危険な存在ではないと認識してもらうことだった。


 突然小刻みに震えるカイが、俯いてしまった。嫌いな食べ物でもあったのか? 心配になり抱き寄せる。さらに震えが大きくなった。


「カイ、何か嫌いなものがあるの?」


「お皿」


 ぽつりと呟いたカイの言葉を一瞬、理解できない。お皿? 皿の色か、柄か、もしくは大きさや材質? 何が気になったのだろう。震えが止まらないカイの顔が見たくて、横抱きに直した。


 青ざめた顔で震えているのに、抱き着いてこない。それは私を怖がっているか、信頼していない証拠に思えた。そっと引き寄せるが抵抗されないので、強めに抱き締める。


 胸の鼓動が聞こえてしまいそう。どきどきする胸を押しつけた状態で、しばらくじっとしていた。徐々に落ち着いたカイの震えが収まる。


「ゆっくりでいいわ。怖いものを減らしていきましょう。食べたくない物はあるかしら」


 首を横に振るカイはちらっとテーブルを見て、私にお皿を指差した。


「あれ」


 皿の上には魚料理が湯気を立てている。下げるように言おうとした私より早く、カイが別の皿を指差した。


「あれも」


 今度は肉、次はサラダだった。困ったわね、食べられる物がなくなるわ。困惑しながら様子を見る。カイの指が示すのは料理そのものではなく、皿のように思えた。上からではなく、下を示している。だけれど、お皿を観察してもわからなかった。


「詳しく教えて。カイの怖い物がわからないの、ごめんなさいね」


 驚いた顔をしたあと、カイは小声で説明を始めた。お皿は割れる、そうしたら殴られる、と。驚いた。こんな小さな子に皿洗いをさせて、手を滑らせて割ったら殴ったというの?


 怒りにオーラを放出しかけて、慌てて抑えた。気をつけないと、この屋敷を吹き飛ばしてしまう。深呼吸して気持ちを落ち着け、ぎこちなくも笑顔を浮かべた。まだ怒りに満ちた内面では、それが精一杯なのだ。


「カイ、食べるときに使うお皿は割れても怒ったりしないわ。私が食べさせるから、怖かったら食器に触れなくていいわよ」


「……はい」


 給仕に立つ侍女は、隠れて涙を拭いた。私は怒りで感情が昂っているけれど、そうじゃなければ泣いていたわね。スプーンを手に取って、大きすぎることに気づいた。私の動きを目で追うカイの口は小さくて、こんな大きなスプーンでは溢れてしまう。ジャム用に用意された小ぶりのティースプーンを手に取り、スープの器から掬った。


 話をしている間に冷めたスープを、一度口元に運ぶ。温度を確かめてから、カイの唇へ近づけた。


「口を開けて、スープよ」


 きょとんとした顔でスプーンと私を、何度も視線で往復する。意味が伝わってないわね。にっこり笑ってスプーンをスープ皿に戻した。代わりに唇をつんつんと指で突く。


「あーん、と言ったら口を開けて。こうよ、出来るかしら?」


 ぱくっと口を開けて見せれば、理解した顔で頷いた。


「できる」


 その時、ぐぅとカイのお腹で可愛い虫の声がした。よほどお腹が空いたのね。スープをもう一度掬い直し、口元へ運び「あーん」と合図を送る。ぱくっと開いた口にスプーンを傾けた。


「んっ」


 びっくりした顔で口を閉じてしまったから、半分ほど唇に溢れた。それを指で掬って舐めたカイの目がきらきらと輝く。このスープの味はお気に召したみたい。嬉しくなって、また口元へ運んだ。


 たくさん食べて、早く元気になりましょうね。

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