第8話 らんでぶーwithルトラ
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本日は2話投稿しております。こちらは2話目です。ご注意ください。
翌朝。私はギルドへ向かいメイアさんのいる受付に行きました。
「おはようございます」
「おはよう!」
ルトラはもう来ていたみたいです。朝から元気ないっぱいで太陽みたいな人です。こちらにニコッと微笑みかけてくれました。ドキドキしちゃいます……。
「お二人そろいましたので、早速今回のクエストの説明をさせていただきたいと思います」
そういうとメイアは一枚の紙を私たちに見せました。クエストの依頼書です。
「ワイカト草原の生態系調査。最近ビッグサイと呼ばれるモンスターが移住してきたのでそれが草原一帯の生態系にどんな影響を与えているか調べて欲しい。ですか……」
「……いきなり重要そうな依頼ですね」
ビッグサイは体長40メートル・体高20メートルの巨大なサイのモンスター。並大抵のドラゴンを上回る力を持ち、もし街を襲撃してきたらギルドの総力を持って対処しなければならないでしょう。
ただ大きいだけではなく分厚い皮膚と膨大な魔力で非常に強固な防御力を持つ上に、高い知能も持っています。世界的にも広く知られたS級モンスターです。
しかし、その戦闘力とは裏腹にとても大人しく縄張りから出てくることもほとんどありません。私たちのような新米探索者でも変に刺激しない限り危険はないでしょう。むしろビッグサイが引っ越してきたことにより、他のモンスターが苛立っていないかに注意すべきだと思います。
「……期限は5日間。行き帰りはワイバーンタクシーを使えるんですね。さすがはギルド本部です」
「移動時間は無駄というのが本部長の考えですから。ワイカト草原は少し遠いですし、今回は一応S級モンスターが対象というのもあります」
ワイバーンに乗るのは初めてだからちょっと楽しみです。メイアさんから手続きに関する説明を聞いた後、早速準備をしてワイバーンタクシーへと向かいました。
ギルド本部には大きな庭があります。その一角にタクシー乗り場が設置されているのです。ワイバーン以外にも馬やラクダにウルフ、イルカのタクシーも見かけました。窓口でメイアさんからもらったチケットを渡して、ワイバーンにタクシーに乗り込みます。
今回乗るワイバーンは小型で、背中にしがみつく為の魔法具を背負っているタイプ。そこを両手で握れば魔法で落下しなくなる上、風や高高度の影響も受けなくなる優れものなのです。
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2時間ほど空の旅を楽しむと目的地に着きました。ここがワイカト草原になります。ワイバーンは私たちを下ろした後、タクシー乗り場へと帰っていきました。帰るときは乗る際に渡された魔道具を使用すれば、迎えに来てくれるそうです。
パッと見た感じでは特におかしなところは無さそうでした。普通の草原といった感じですね。ギルドでこの草原に関する資料はもらって一通り目を通してあります。それとの違いを探すことになるでしょう。
草原がかなり広大な為、私達が期限内に成果をあげられないことも想定しているのだとか。なんでいきなりハードモードなんでしょうか……。気を取り直してルトラと2人で調査を開始します。
ワイカト草原は起伏こそありますが、全体的にかなり見晴らしが良くなっています。遠くにはブランビーと呼ばれる馬系モンスターの群れが見えました。
遠方に映える壮大な山脈、突き抜けるような蒼い空、あたり一面を埋め尽くす鮮やかな緑の草原、そして、見る人を圧倒する絶景の中で華麗に走り去る雄大なブランビー。これこそ、私が見たかったものであり、探索者の醍醐味です。
そうして感動していると、足元にふわふわした感触がします。
「わっ!スネコスリだ!かわいいなぁー。よしよし」
「かわいいですねー。いい感じにもふもふしてます」
「うーんこの犬とも猫ともつかない感じがたまらないなぁ」
スネコスリが擦り寄ってきました。ルトラの脛に頭をこすりつけています。かわいいとかわいいが合わさって究極のかわいいが私の目の前にあります。ここが天国なんでしょうか……?
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ここは魔素が豊富な場所なのでスライムも多く生息していますし、彼らを捕食するモンスターも色々いるはず。実際にスネコスリがいましたし、研究者としてはたまらない場所ですね。
資料の通り危険なモンスターはあまりいません。ダンディライオンとゾウ系モンスターの群れに警戒しておけば大丈夫だと思います。それらにしても、人間の怖さを知っているので手出しはしてこない可能性が高いです。冒険者のみなさんに感謝しないといけませんね。
とはいえ、注意するに越したことはないです。遮蔽物が少なくて身を隠しづらいのが難点ですが、なるべく気配を消していきましょう。
ルトラも高い隠密技術の持ち主のようです。虎系モンスターは鼻も魔力感知も得意ですからね。彼女としてはできて当たり前といったところでしょう。
結局、初日は何事もなく探索し終えました。ダンディライオンの群れを発見しましたがリラックスした様子でしたね。ビッグサイの存在にもあまり気にしていないものと思われます。
ルトラは同じ猫科ということで、ダンディライオンにも少し興味があるようです。何やらメモを取っていました。
ダンディライオンはその名の通り、たてがみの一部がお髭のようになっていてダンディな感じです。ダンディなので無益な殺生は好みません。人間もあまり襲われないそうです。お腹が空いたら別ですが。
このモンスターは他のモンスターや人間を捕食するだけでなく、魔素を食事代わりにします。他のモンスターにも見られる行動です。
体が大きいモンスター、強いモンスターは魔素を取り込む量も多いです。食事よりも魔素がエネルギー補給の主体になってしまうのです。
ビッグサイほどの巨体になると生命活動のほとんどを魔素に頼っていると思われます。ワイカト草原に来たのも、魔素が豊富な土地だからだと推察できます。
「ダンディライオンは異常無しって感じ。たてがみがすごい立派だ〜。それに、平均より少し長いかも。きっと栄養状態が豊富なんだろうね」
「スライムがたくさんいるからでしょうか?でも、資料だとダンディライオンのたてがみには特に言及されていませんでしたよね?」
「そうだよね。特筆すべきことでもないって判断されたのかも。ま、調査を続けていけば分かるよ」
残念ながら今日はビッグサイを見つけることができませんでした。とてつもない巨体を持っていて見晴らしのいい草原なのに見つからないとは……。どれだけこのワイカト草原は広いのでしょうか。
比較的安全だと思われるところで休息をとりました。ルトラと2人で潜伏の魔法を使ってモンスターに存在が気づかれないようにしたのですが、ここでもルトラの能力の高さを思い知りました。
魔法の発動スピードが非常に速く効果も高かったのです。同年代なら相当できる方だろうとうぬぼれていた自分が恥ずかしいです。
「アジサイの魔法も繊細で無駄がなくてとっても上手だと思うよ!」
とルトラは褒めてくれましたが。
本格的に夜の帳が下り、月が昇ってくると私たちの前に幻想的な風景が現れました。スライムのパーティーです。
昼間に比べて魔素が活性化する夜こそ、スライム達の本格的な活動時間です。のろのろ這いずっていた日中とは違い、意外なほど俊敏な動きを見せます。モンスター同士の戦闘や災害で破壊された自然を元の姿か、より良い姿へと変えていきます。
なぜ彼らがこんな働きをするのかはわかっていませんが、生態系を維持するためのものだという考えが主流です。
一つだけわかっているのは、この行動は視覚的にも大変素晴らしく、煌びやかなものであるということです。全身に満ちた魔素によりきらきらと光るスライムたち。それらはみな違った色や大きさをしていて、たとえ同じ個体であっても少しづつ形を変えていきます。動いていても止まっていても体内の水分と魔素の流動がそれを引き起こすのです。
草原中を駆けずり回る可憐で優雅なスライムたちのパーティーは、私たちに得もいわれぬ感動を与えました。さながら、身体が内側から揺さぶられるような感覚に襲われたのです。
「綺麗だね……まるで心臓が震えているみたいだよ」
「私もです……きっと、それは間違いではありません。私たちの体内の魔力器官が共鳴しているんです」
ルトラと2人、しばらく感激に浸っていました。
交代で睡眠をとりました。見張りをしている最中も調査の一環です。夜行性のモンスターがいますし夜の調査も大切です。
まあ夜も特に重要な発見はありませんでしたが……異変がないというのも大事な調査結果です!
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感想もあると作者が感激します。
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