第7話 ルトラの眼
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今日は20時15分にもう1話投稿します。
ルトラは別れ際、心配そうな顔でこちらをちらちら見ていました。あまりにも不審だったので、不思議に思い自室の鏡を覗き込むと顔が真っ青で病人のようだったのです。これには私も驚きました。
ルトラと会話をしている間は問題ないつもりでしたが、自分でも気がつかないうちに酷くストレスを感じていたみたいです。彼女には気を遣わせてしまって申し訳ない……。
ルトラと打ち解けること自体はできていたと思うのですが、結局のところまだまだ他人に慣れていないのでしょう。とはいえ、ルトラに自分の弱味を見せることができました。これは大きな成長です。それはそれとして、
「こんなに他人と話すことになるとは……」
自分としてもとても意外でした。元々あまり口数の多い方ではなかったですし、幼少期の出来事もあって他人と接することには恐怖心がありました。またいじめられるかも……酷いことをされるかもしれない……そういう不安はずっと持っていました。ましてやこの5年間はほとんど他人と会っていなかったのです。
ところが、ルトラは朗らかでさっぱりとしていて優しい人でした。最後は泣き顔も笑顔も披露して、もっとたくさん話したいと感じてしまうほどに。
まだ少ししか交流していませんから、彼女の全てがわかったとは思えません。本当は私を見下していたのかもしれません。そうでなければ、懐柔して自分の道具にしようとしている可能性だってあります。
しかしながら、今日話した限りではそういう人には感じられませんでした。彼女を疑っている自分がとても醜い人間に思えてきます。でも、まだまだ猜疑心と恐怖が先立ってしまいますし、そんな自分が嫌になります。明日から、上手くやっていけるか心配です。
「それにしても……」
ルトラはかなりの、いいえ絶世の美少女でした。銀色の髪は神秘的な美しさがありました。誰もがその虜になって奪い合いを始めてしまうような、しかし、何人たりとも触れてはならないと思ってしまうような矛盾した煌めきでした。
胸部の膨らみなどは、思わず凝視してしまうほど立派なものでした。女性の方が男性よりも初対面の女性の胸を長い時間見るという噂に、思わず信憑性を感じてしまいました。
脚はしなやかでありながら力強さもあり、虎を思わせるようなところがありました。運動が好きと言っていましたから、何かトレーニングをしているのでしょう。なかなかこれだけ輝いている女性はいないと思います。
もっとも印象的だったのは、眼です。瞳は猫のように丸く大きく、ひとたび目が合うと逸らせなくなってしまう妖しい魅力すら宿っていました。私も、彼女と目が合うと恥ずかしくてなって視線を逸らしたいのに、逸らさない奇妙な感覚を味合わさられました。
そして何よりも、ただただ美しかったのです。感動を覚えるほどに。私が今までこの眼に写してきた何ものよりも綺麗な眼でした。
さらに博学で、人格も優れているとなればルトラに欠点などないのではないでしょうか。才色兼備とは彼女のことを指す言葉なのではないのかと、そんなことすら考えてしまいました。同じ人間なのか疑わしいです。
ただ、意外にも恋愛経験はないのだとか。言い寄ってくる男はいくらでもいたそうですが、大抵の男性はルトラからすると魅力的に映らなかったみたいなのです。もっとも、言い寄ってくるのは男性だけではなかったみたいですが。
なぜなら、彼女の初恋は白虎。現在はシュトゥルムティーガーです。
前者は氷雪地帯に現れる強力なモンスター。後者は幻の虎系モンスターで存在が疑問視されているものの、ルトラ曰く
「必ずいる。いつか証拠を見つけてみせる」
とのこと。言い伝えでは翼が生えていて嵐を操り恐るべき遠距離攻撃を持っているとか。まさに「虎に翼」と言うべきモンスターだと語られています。
とりあえず白虎はAランク冒険者「パーティ」並に強いので、彼女に交際を申し込みたい人はSランク冒険者にならなければいけないのかもしれません。
私は今のところ初恋はありません。そんな余裕のない人生でした。そもそも人を好きになるということ自体わかりません。異性としてとか、恋愛的にとかではなくそもそも他人に好意を抱いたことがないのです。孤児院を訪れていた冒険者や探索者の方たちが多少親身になってくれるくらいで、味方と言える存在はありませんでした。
嫌いになることはあっても、好きになることなどなかったのです。そんな人間関係弱々ガールが超絶美少女にあんな距離の詰め方をされるたら、頭も心も混乱して千々に乱れるのはしょうがないことでしょう。人付き合いとか恋愛関係とかは、とりあえず探索者として安定してから考えましょうそうしましょう。
久しぶりに他人と会話をして心身ともにくたくたです。まだちょっと早いですが寝てしまうことにしました。生まれて初めてふかふかのベッドで寝ました。これがこの世の天国……。最高でした。
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