第3話 悪役(っぽい)令嬢面接でコミュ障を晒す
タイトルを一部変えました。第1話も少し変えています。
ようやく、ヘンテコな見た目のギルド本部に着きました。
基本的にギルド本部の正面大扉は開けっぱなしになっているようで、立て札に注意書きが書いてありました。日夜を問わず大勢の人が行き交うこの場所にはそれがあっているのでしょう。人が多い場所はすごく苦手なのですが、我慢して入るしかありません。
こそこそ忍び込むように中に入ると、正面に受付がありました。この時間はあまり混んでいない様子です。ここには食堂や酒場、商店に会議室など様々な設備が揃っていて今はそちらが混雑しているみたいです。
「こんにちは、どのようなご用件でしょうか?」
受付の近くできょろきょろしていたので不審に思ったのでしょう。受付カウンターに座っていた少女から声をかけられてしまいました。私と同じくらいの年齢に見えます。立派だぁ……。
何かの縁ですし、ここで探索者として登録してもらうことにしましょう。えいやっ、と勇気を出して受付に近づきます。
「探索者登録をお願いします(かすれ声)」
「かしこまりました。こちらの書類に必要事項をご記入くださいね」
「アッハイ」
「ご記入を終えましたら、またこちらにお越しくださいませ(ニコッ」
「アッ……ハイ……」
口から魂が抜け出てしまいましたが、無事に書類を受け取れたのでOKです。無事とは。
渡された書類にもくもくと書き込んでいきます。1人でやる作業は得意です。他人と関わらなくていいから。自分で言ってて悲しくなってきました。ぐすん。
何はともあれ、内容は個人情報と簡単なアンケートです。楽に埋められますがいったい何に使うのでしょうか。少し疑問ではありましたが、すらすら書き進めていきました。そして、書き終わったならまた受付に行かなければいけません。嫌だなぁ……。
「ありがとうございます。記入漏れもございませんね。それでは審査がありますので、こちらを持って4号館の審査室にお進みください」
「あっ、ありがとうございます」
深い青髪が印象的な受付の少女になんとか礼を述べて、審査室に向かいました。
☆☆☆☆☆
基本的にこの審査で落とされることはないと言われています。よほど健康か経歴に問題がない限り受かるでしょう。特に冒険者はその傾向が強いのは有名な話です。もし私が落とされるとしたら人付き合いとかコミュニケーション能力とか、そこら辺でしょう……。
重要なのはどのランクからスタートさせるかというところになります。冒険者も探索者も下からE、D、C、B、A、Sランクとなっていますが、大抵はEかDからのスタートが多いです。
たまにCランクスタートもいるらしいですが、前職が冒険者だったり軍人だったりします。僅か数例ですがBランクスタートも過去にはいたそうです。
パーティやクランの格付けもEからSで行われています。あんまりEランクのパーティ、クランというのは聞きませんが。問題を起こしたり一時的に規定人数を割っていたりすると、たまにEランクになることもあるそうです。
まあ、今のところ私はどちらにも入るつもりがないのであまり関係ありませんが。人と話すのが怖くてね……。
☆☆☆☆☆
審査はごく一般的な体力テスト、割と難しい筆記試験、簡単な面接でした。
「それじゃあ体力テストを始めますね。あまり合否に関係ないので気楽に受けてください」
「はっ、はい!」
「最初は100メートル走です。言い忘れていましたが、体力テストでは魔法はダメですが、魔力での身体強化は使っていいですよ。それでは、位置について、ヨーイ、ドン!」
合図に合わせて飛び出す。足の速さはそれなりのものだと思います。必死にストライドを伸ばしてゴールイン。
「……すごい!4秒5です!平均より5秒も速いです!冒険者の審査でもあんまりでないタイムですよ!」
次は、樽投げ。樽を上に投げて高さを競います。
「うおりゃ!」
「おおっ!10メートル20センチ!これもなかなかの記録ですよ」
3つ目はジャンピングコンペティション。放物線を描くようにジャンプして、最高到達点と飛距離を測かります。
「えーい!」
「これは断然すごい記録ですよ!最高到達点は18メートル、飛距離は25メートル!探索者の審査ではトップ3に入ります!」
最後は1万メートル大障害。スタミナのテストです。普通の障害レースでは存在しない高難易度の障害があります。
「うおおおお!新記録ですよ!おめでとうございます!」
「はぁ……はぁ……ありがとうございます」
体力テストはいい結果を出せましたので、いっぱい自信があります。続いて筆記試験です。
「それでは試験を始めてください。試験時間は1時間です」
がんばって答案用紙を埋めます。ところどころ魔法を要求されるあたり一筋縄ではいかない試験です。問題自体も高難易度に設定されています。しかし、私の手が止まることはありませんでした。
筆記試験が終わると、いよいよ面接です。逃げ出したくなってきましたが、ここが踏ん張りどころですから。よぉし!がんばるぞ!
しかしながら、面接はからきし駄目でした……。面接中ずっと震えていましたし、扉もおそるおそる開けて不審者みたいでしたから。
「出身はどちらですか?」
「じゅじゅじゅ樹海ですっ」
「樹海?」
「あっあっあのっアッ、アーダーンですぅ」
終始こんな状態でした。
☆☆☆☆☆
全ての審査を終えました。体力テストと筆記試験はかなり自信がありますが、面接はからきし駄目でした。面接中ずっと震えていましたし、扉もおそるおそる開けて不審者みたいでしたから。1時間後に結果発表するそうです。それまでエントランスでどきどきしながら待ちます。
できるだけすみっこで縮こまっていると、ようやく審査の結果が発表されました。協調性と魔力器官の問題、その他諸々で私はDランクでのスタートになりました。
1番の問題点は協調性で、5年間ほとんど人と関わらなかったことと生い立ちがネックになったとのこと。魔力器官については無理をしないように釘を刺したかっただけだそうです。
コミュニケーション能力はこれから改善していかないといけませんが、正直あまり自信はありません……。どうすればいいんでしょう……。
しかし、それ以外の項目では非常に高い評価を得ていたそうです。それこそCランク相当のものを。
コミュニケーション能力がほどほどになれば、直ちにCランクに上がれるだろうとのことでした。経験を積めば最速で半年後にBランクになれるとも。これは素直に嬉しいです。
それはさておき、びくびく怯えながら先程の受付カウンターに戻り、最後の手続きを済ませます。
「これで登録完了です。ご活躍をお祈りしています!」
「……ありがとうございます」
明るく応援されました。私には真似できそうにない愛想のよさです。頭髪の色も相まって見た目はクールで物静かそうなのに。私?私は心臓バクバクの顔面蒼白で、処刑台に上がる気分でした。
ふらふらとそんなことを考えていたら、彼女に声を掛けられました。
「探索者に登録する人はほとんどいなくて3ヶ月に1人くらいなのに、今日は2人も来て驚きました!もう1人の人も私たちと同い年なんですよ!多分最初のクエストは合同になると思うので仲良くしてあげてくださいね」
同い年だったんですね。というか
「……私にそんな個人情報教えちゃって大丈夫なんですか?」
「ギルド長に伝えろと言われたので」
彼女は少し目を泳がせながら話しました。どうしたのでしょうか。私の目はもっと泳いでいます。魚かな?
ギルド長直々に仲良くしろと言っているのも気にかかります。なぜギルド長などという大物が……。世界中のギルドを束ねる超大物ですよ……。
「私はメイア。よろしくね」
「……よろしくお願いします」
差し出された手を握り返します。ぶるぶる震えすぎてまさに握手っていう感じです。
とにかく、ようやく探索者になれました。ここから頑張っていきましょう。
お読みいただきありがとうございます。
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