第1話 アジサイ、樹海に立つ
初投稿です。冒険し始めるのは6話からです。ヒロイン?が出てくるのは5話くらいです。
最初の3話〜4話は適当に読み飛ばしていただいても大丈夫です。
私、アジサイは「探索者」を目指しています。
モンスターを倒したり街を守ったりする「冒険者」ではありません。
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水面に浮かぶ自分の姿を見ていると、5年分の時の流れを感じます。孤児院から出てきたときはどこもかしこも子どもっぽかった私です。けれど、ずいぶん成長しました。
貧相だった身体は全体的に肉付きがよくなりました。ミートスライムと韋駄天ウサギを食べていたおかげでしょう。胸もかなり大きく成長してしまいました。ここまであるとちょっと邪魔になってしまうのですが。
適度な運動……というか毎日サバイバル生活だったので無駄な脂肪もついていません!すらりと伸びた手足は密かな自慢です。
身長もぐんぐん伸びてきたのでちんちくりんは脱出できたと思います。孤児院では散々馬鹿にされましたからね……。私の境遇も相まって音の出るおもちゃというか、人間サンドバッグみたいな扱いを受けていました。
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「おらっ!なに偉そうに椅子なんか使ってんだよ!てめえは!」
「あんたなんか床で犬食いするのがお似合いだわ〜」
「なんだその反抗的な目は!」
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悲しくて辛い思い出です。
嫌なことを思い出してしまいました。切り替えていきましょう。
今ならわかりますが、私が可愛いのも原因だったのでしょう。ぱっちり開いた目はいわゆるアーモンドアイというやつです。でも、少し目つきがキツイです。それが子どもには嫌なやつというか、悪者っぽく見えたのだと思います。
肩まで伸ばしている黒髪も艶々に輝いています。自力で綺麗なボブカットにできるまで大変でした。なにせ樹海に住んでいるので、他の人に切ってもらうことができなかったのです。この髪も、孤児院の女子には憎らしかったのでしょうね。
私自身、当時は母と死別したこともあって荒んでいました。まわりの人間はみんな敵に見えていて、過剰な反応をしてしまっていたはずです。まあ今でも人付き合いには自信が持てないのですが……。
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ところで、こいつはなんで樹海なんかに住んでいるんだ?と思われる方も大勢いらっしゃることだと思います。そこで、ここにいたるまでの経緯についてご説明させていただきます。
まずは私の両親の紹介をしましょう。私の母は平民でしたが父は貴族、それも公爵になります!しかし、父には同じ貴族の妻がいました。私は婚外子なのです!
あと、一応貴族の令嬢でもあります。愛人の子どもでも貴族として認められますし、実際に大物貴族の当主の中にも私と同じ境遇の方がいます。
しかし、ただのメイドに過ぎない母と子どもを作った父に対する風当たりは、かなり強かったそうです。 特に義母からの圧力は相当なものだったとか。詳しいことは分かりませんが。
愛人の1人に過ぎなかった母は、私が6歳のときに亡くなりました。元々身体が弱かったのです。父に捨てられたショックと貧しい生活が、母の命をじわじわと蝕んでいたのです。
はっきり言って人でなしの父だったと思います。まだ私が母のお腹の中にいたにもかかわらず、着の身着のまま母を屋敷から追い出してしまいました。身寄りのなかった母は誰にも頼ることができず、その結果、私に満足な栄養を与えることができませんでした。
いつか母を死に追いやった父には報いを受けさせたいと考えています。母との記憶は少ししかありませんが、産んで6歳まで育ててくれた恩があるので、父に仇討ちすることでせめて安らかに眠ってもらいます。
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それでもって、母を失った後は孤児院で育てられました。
私が生まれ育った街・アーダーンの孤児院では様々な教育が受けられるようになっています。これはチャンスだと思い、私は探索者としての道を選んだのです。
そこでは、孤児院出身の冒険者やボランティアの冒険者から探索者として役立つ知識・技術を学ぶことができました。本当は探索者から教わりたかったのですが、探索者というのは数が少ないのです。
冒険者と探索者は一緒に仕事をすることも多いし、職業として重なる部分もあります。十分とは言えませんが役に立つことを彼ら色々と学ぶことができました。
たまに孤児院を訪れた探索者から指導してもらうこともありました。人によって指導する内容も考え方も様々でした。ただし、「有名な探索者は大抵若い時にサバイバル生活を経験している」というのはみなさん共通の見解でした。
絶海に浮かぶ無人島だったり一年中吹雪が吹き荒れる雪山だったりと、過酷な場所で生き抜いた経験が探索者として活きてくるらしいです。
このアドバイスもあり、11歳のときに孤児院を出て樹海で一人暮らしを始めました。直接の原因は孤児院の院長がとんでもないセクハラ野郎に変わったからですが。
ちなみに、セクハラ院長はその後職を追われています。孤児院育ちの冒険者に成敗されたとも地元の貴族に粛清されたとも言われています。はっきりしたことはわかりません。まあ、セクハラ野郎が来なかったとしても、遅かれ早かれ私は逃げ出していたと思います。
それくらい孤児院での扱いは酷いものでした。服は布切れ一枚、ご飯は残飯かよくてスープにパン一つ。布団ももらえなかったのです。
みんなが机でわいわい食事を摂る中、私は床の上で犬の餌皿に入れられた残飯を食べていました。とても食べられたものではないものが出る日もありましたが、残せば折檻が待っていました。殴る、蹴るはマシな方で、床にぶちまけられたものを犬食いさせられたこともあります。
寝るときは部屋の隅で丸まっていましたが、冬場はとても耐えられませんでした。布団に入れてもらうために、スープとパンを献上する必要があったのです。
孤児院の子どもは色々と手伝いをしなければならないのですが、それも全て代わりにやらされました。そこまでしてようやく使わせてもらえたのです。性別ごとに寝る部屋は別れていたのは幸いでした。
衛生的な理由からトイレは使わせてもらえましたが、使うたびに罵倒されました。女子だけだったとはいえ、毎回暴言を浴びせられながらのトイレは大変な苦痛を味わいました。
大人たちからは「不義の子」「汚れた子ども」などと呼ばれ、反抗的な態度をとると体罰が待っていました。
孤児院に訪れる冒険者達に助けを求めることもできたかもしれません。しかしながら、当時の私には自分以外の誰も信用できなかったのです。
ただし、冒険者がいる間は大人たちが外面のために私へのいじめを禁止していました。そのおかげで教育だけは受けられたのです。冒険者がいるときだけで、それ以外のときは孤児院の大人たちも積極的な私を苦しめていましたが……。
この地獄のような場所から抜け出すため、そしていつか奴らに目に物を見せるため、私は樹海での1人暮らしを始めたのです!
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主人公の存在自体が報復になります。