冬のパレット
その日はぽつぽつと白い雪が舞い降りる、鉛色の空の日だった。
「なぁ~にしてんの?」
「見てたら分かる」
そう?と、キミカは窓辺に頬杖をついて、足をぶらぶら動かしながらユウトを見守る。
その目は冷静さを保っているようでいて、好奇心と胸の疼きできらきらと輝いていた。
冬の世界がどんなに凍てつこうとも、
ユウトを包む空気だけは温かい。
一面の銀世界の中を、
ユウトはざくざくと、一歩一歩を踏みしめて歩いている。
その歩みは雑然としているようでいて、
時折足を止めて進む道を考えてもいるようだった。
キミカはずっと、ユウトの不可思議な動きを追っていた。
「君華」
ゆったりとした時は流れ、ユウトの足が止まった頃、
キミカは普段滅多に呼んでもらえない名前で呼ばれて、
向き合ったユウトの眼差しの中に形容できない光が瞬いているのを見つけた。
まるで、今とこれからを分ける瞬間を、そこに見つけたような。
「上から見てみて」
予感に逸る気持ちが前へと駆り立てる。
何かを期待していいのだろうか。
希望を持ってみても、いいのだろうか。
キミカはユウトに返事をするのも忘れ、
屋上への階段を駆け上がった。
屋上に積もった雪は、今まで誰にも侵されたことがないように滑らかで、美しかった。
白い絨毯の上を、キミカは一心に走る。
さくさくと、白い風が足元を撫でて後ろに流れていった。
雪のヴェールを纏っているのも厭わず手摺りに手を掛け、ユウトが立っている地面を見つめる。
キミカはそこに広がっている景色に目を見開いて、茫然と立ち尽くし、暫くは何も言えなくなってしまった。
そして今のこの表情を、ユウトに見られずにいることに、感謝した。
いや、もしかしたらユウトは、キミカのこの反応すら見通していたのかもしれない。
「返事は?」
キミカがいつまでも固まっているのに気付いたのか、ユウトの声が下から飛んできた。
返事は一つだった。
冬の空気を切り裂いて、どこまでも凜と響く声も、
とにかく何もかもが、
ユウトの全部が・・・
あたしも、好きだ。
伝えたいことは決まっているのに言葉は上手く吐き出せなくて、
キミカは両手を掲げて精一杯のマル印を作り、ユウトに贈った。
今きっと、ユウトは穏やかな表情でこっちを見てくれているだろうと、キミカは思った。
キミカからはユウトの表情をよく見ることができなかった。
でもいつだってキミカは、ユウトの心を感じ取ることができる。
それが、キミカの知っているユウトだ。
雪のパレットには、
少し歪んだぎこちない文字で、
『スキだ』
昔々に書いてた短編たちを少しずつ載せていってみます。
幼馴染みっぽい二人を書きたかった気がしています。