森のレストラン
目にとめていただきありがとうございます。
第2回「下野紘・巽悠衣子の小説家になろうラジオ」大賞応募作品です。
不慣れで申し訳ないですが、よろしくお願いします。
少しでも楽しんでいただけると嬉しいです。
キーワードは「森の」です。
もうどれくらい移動してきたのか。
あの場を逃げ出してから10日、森に入ってから3日が経つ。
なんとか食いつないできたが金が尽き、襲えそうなヤツも見つからず…。
俺は隠れやすくて食料もなんとかなりそうな森に逃げ込んだのだ。
だが、木の実や水だけで過ごすのも飽きてきた。
「死骸でもいい。何か肉が食いたい…」
思わず呟いて腰を下ろし、空腹を紛らわせるように深呼吸をする。
何度か深く息を吸い込んでいると、ふと、覚えのある匂いに鼻が反応した。
「これは…」
間違いない。肉が焼ける匂いだ。
「こんな森に店があるのか?」
不思議に思いつつ、久々の人間らしい食事への期待に胸を踊らせて、俺はフラフラと歩いた。
「ここか…」
匂いの先にあったのは看板のない小さなレストラン。
そっとドアを開けると一人の女が立っていた。
「いらっしゃいませ。お待ちしておりました。」
誰かと間違えているようだが、何か食えれば構わない。
女は俺を席に案内し、肉の乗った皿を運んでくる。
「ごゆっくりどうぞ。」
俺は目の前の塊に興奮し、夢中で食べ進めた。
初めて食べる味だが止まらない。
あっという間に皿は空になった。
食事を済ませた俺は女を呼んだ。
ついでに逃走資金をいただくことにしたのだ。
だが、笑顔で出てきた彼女の首筋にナイフを突きつけた途端、凄い力で床に叩きつけられた。
「何すんだ!お客さまだぞ!!」
怒りに任せて叫ぶ俺の髪を掴み、女は不愉快そうに唇を歪ませた。
「誰が客だよ。お前はただの餌だ。」
吐き捨てるように言い、女は続ける。
「次はお前が魂を誘うんだよ。覚えがあったろ?
肉の焼ける匂い。」
「まさか…」
女がニヤリと笑う。
「指名手配犯のポスターって見たことある?
あいつらが無事に生き延びてると思ってた?
ご希望通り、死骸でございまーす!」
女の高笑いを聞きながら、俺は意識を失った。
薄暗い部屋で、私は“悪魔“と話している。
娘を殺された私が呼び出したのだ。
「この度は情報提供、誠にありがとうございました。
おかげさまで新鮮な悪人の魂が手に入りました。」
「私もきっと、地獄へ落ちるのでしょうね…」
それを聞いて男は不思議そうに首を傾げる。
「はて、我が子を無残に焼き殺される以上の地獄があるのでしょうか?」
そして男はニコリと笑う。
「ご依頼があれば、森のレストランはお客さまのために開店いたします。」
『これ以上、あなたが苦しむことはございません。』
男はヒラリと消え、耳元に囁き声が残った。