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姫百合荘のナイショ話  作者: 嬉椎名わーい
6/6

6、アニメと投げキッスとスナイパー

姫百合荘(ひめゆりそう)オープンから7ヶ月が過ぎた金曜日の夜。

「女性専用Bar 秘め百合」は混みあっていたが、カウンターには常連、風太刀(かざたち)記念財団秘書室長・由利花枝(ゆり はなえ)がデン!と居座っていた。

パートナー夜烏子(ようこ)の上司ということもあり、いつもならそれなりに丁寧に接客するクリス店長だが、今日は忙しいので、じゃっかん雑な対応。

「あの時の・・・ あの失敗が・・・」ぐちぐち

すでに10回以上クリスが耳にしたエピソードを、花枝はさらにもう1度語ろうとしていた。

「あーそうすかー フキフキフキ」

グラス拭きに精を出す、清楚な白いブラウス姿のクリス。

「某国の大統領が来日して・・・」

「大統領夫人の警護を担当したんですよね。で、ある朝」

花枝はバーボンのグラスを空けると、テーブルに突っ伏した。

「そうそう、あの朝・・・ テンパッって緊張していた私は、緊張のあまりテンパっていた・・・」

「テンパリがきんちょってたんスよね」

「まあ、そうともいうな・・・ 現場に着いた私は・・・ 自分がサンダル履きであることに気がついた・・・ しかも左右ちがうサンダル!」

うう~、と涙にくれる花枝。

「あれで私の警察官としてのキャリアは終わった!」

「パンちゃん、ギムレットにカルヴァドス、お待ち!」

パン「はいよー」

黒髪ポニーテール、褐色の肌のパンテーラがトレイに飲み物をのせてテーブルへ。

今日はパートナーの龍子(りゅうこ)とともにホールスタッフに入っている。

「パンちゃーん」「パンテーラさまー」と黄色い声が上がるが、隣りのテーブルのオバサンから「今日は彼女がいっしょだから、あんまり愛想よくしてくれないよ!」

「え、彼女?」「ほら、あの子!」「あの人が彼女なんだー」

アイドル顔の龍子、どう反応していいかわからない。(まいった・・・)

客から「龍子さん、今日はミニライブやらないの? 『投げキッス・スナイパー』聴きたいな」

龍子「今日は混んでますからねー、どうでしょ。ちょっと余裕ないかも」

他の客が、「『投げキッス・スナイパー』ってアニメの曲だよね? なんだっけ、『ぷりぷり7』?」

「あ、それで思い出したけど、龍子さんって『ぷりぷり7』の舞ちゃんに似てるよね?」

一瞬固まる龍子、「たまに言われるんですよー。それで『ぷりぷり7』を見るようになって、『投げキッス・スナイパー』を覚えたんです」

パンテーラ、心の中でニンマリ(本当は龍子をモデルにして渡龍門舞(とりゅうもん まい)というキャラが作られたんだけどね)


カウンターでは、新しいグラスを受け取った花枝がグイッとひとくち、

「ぷはーっ あの時の・・・ あの失敗が・・・」

「あーそうすかー フキフキフキ」

花枝のあまりのグダグダぶりに、左右の席が空席になってしまっていた。

その時、店に新しい客、2人連れ。

「てんちょ、こばわー」

私服姿の燃子(もえこ)(相変わらずアルファロメオのエンブレムをつけている)、その後ろから気恥ずかしそうなまりあ。

クリス「おー燃子! あ、まりあやっと来てくれた! あんたと湯香はホント、来てくれないんだから!」

まりあ「お洒落な店が苦手で・・・」もじもじ

2人ともカウンターへ。

「あっユリ姉来てたの?ちょっとつめて」

「もえこちゃん!」

花枝を横にスライドさせ、その隣りにまりあを座らせ、燃子はその隣り。

お気に入りの燃子が遠くなった花枝、(おさわりできない・・・)

2人に挟まれたまりあ、(気まずい・・・)

お気楽な燃子、「クリスてんちょ、まりあ様を連れてきたら1杯タダで飲ませてくれるんだよね?」

花枝「よう、まりあ。ひさしぶり」

まりあ「ども・・・」

燃子「もえこちゃんはグラッパ!」

まりあ「私はアップルタイザーで」

クリス「まりあ、あんたさ血筋からいって絶対お酒に強いって! シードル試してみん?アルコール度低いし」

テーブル客たちがカウンターの方を見て、

「あ、燃子ちゃん来てる。私服もかわいい」「あの人、彼女? カッコいい・・・」「彼女いるんだー、残念」「そりゃ、あれだけかわいいんだから」「彼女いるとポイント下がるよね」

それを耳にしてハッとする燃子、(しまった! もえこちゃんの人気が下がる・・・)

「まりあ様、1杯飲んだらただちに帰って!」

「ひどい! 無理やり連れてきたくせに!」

花枝「まりあが視界さえぎって、もえこちゃんが見えねーよ・・・」ぐちぐち

ゴクゴクとグラスを空けるまりあ、「シールドうまっ!」

花枝「まりあ、バーボンもひとくちいってみ。おいちーよ」

んぐんぐ、といってみるまりあ。

燃子もすっかり顔が赤くなって、「しっかし不思議な因縁やねー。ロシアのスパイだったクリスと警察官だったユリ姉が、カウンターを挟んでバーテンと客の関係になるなんて。うひゃひゃひゃ」

クリス「こら!燃子! 声が大きい!」

花枝「もえこちゃんて、酔うと口が軽くなる『おしゃべり上戸』ってやつ?」

まりあが燃子の頭をぽんぽん叩いて、「いけない子だね。静かに飲まないとダメだよ」

「え?」

バーボンのグラスを燃子の方にかかげて、「君の瞳に乾杯」

クリス「これは・・・」

燃子「まりあ様の様子がおかしい・・・」

そのころ、花枝は自分の世界にはまりこんでいた。

「私はダメだ・・・ ふんぎりがつかないんだよ・・・ 女を恋人にするというふんぎりが・・・ 男への執着を捨てきれない・・・」

クリス「私は男と決別したら幸せになりましたよ。ただ子供はやっぱり欲しいと思うけど・・・」

まりあが花枝の肩を抱いて、「涙をふいて、ユリ姉。君に涙は似合わない」ほっぺたにチュー

花枝「うわあああっ まりあ!」

顔を真っ赤にしてドギマギの花枝。

驚異の目でパートナーを見る燃子、「まりあ様が東京人っぽい・・・」

クリス「頭の中で妄想した、なんちゃって東京人という感じだけど」

まりあはグラスを花枝の方にかかげて、「君のウンコに乾杯」

「単なる酔っ払いじゃねーか!」

あきれかえる燃子、「これが『東京上戸』・・・ 東京人になりたいという心の闇が具現化した姿・・・」

おいおいと泣いてる花枝を憐みの目で見るクリス、「でもユリ姉も明日にはすべて忘れてるから・・・ 『忘れ上戸』だから、この人」



今日も1日の仕事が終わった。

クリス、パン、龍子、燃子、ミラル、ローラ、夜烏子(ようこ)らがダイニングで軽い夜食を取りながら、一杯やっていた。(まりあは帰宅後、即寝た)

パン「しっかし燃子もさー、そんなに張り合わなくてもいいじゃん。仲良くやろーぜ」

燃子「パンちゃんより人気者になりたいのー!」ぷりぷり

クリス「パンちゃん、人のこと言えるのか・・・ いろんな方面にライバル意識むき出しじゃないの」

パンはしばらく考えて、「まーたしかにー、ミラ姉は美しさのライバルだし、ローラはセのテクニックのライバルだし、クリスは酒飲みのライバルだし、真琴は女子力のライバルだし、餃子作りだけは私が勝つけど」

夜烏子の顔をまじまじと見て、「夜烏子も何かの・・・ ライバルだったような・・・」

下がり眉をさらに下げた夜烏子、「あらゆるパラメータが普通レベルの私が、パンちゃんと張り合うようなものあるわけないじゃない」

「いや、それがあったんだよなー。何だったか思い出せない・・・」

「どうせ何かくだらないことでしょ、思い出せないんだから」

「それがけっこう重要なこと・・・ 私のアイデンティティーに関わるような」

「もし、本当にパンちゃんからライバル視されるような能力が私にあるなら嬉しいけど・・・ エクセルとか?」

「そんな細かいことじゃないよ」

眉間にシワをよせ、体を捻じ曲げて必死に記憶をたぐりよせようと苦闘するパン。

「うーーーーん! 思い出せないと気になる・・・」

夜烏子もけっこう力を入れて、パンを見守ってしまう。

「あ!」

パンの顔に光が輝いた。夜烏子を指さし、

「トイレットペーパーの安い店をよく知ってるライバル!」

「バカ!くそパン!死んで!」


食器を片づけ終わるとクリスがあくびして、「今日はめっちゃ疲れてるんだけど・・・ 汗かいてないしシャワー浴びないでこのまま寝ちゃおうかな・・・ 明日の朝浴びるから。ダメ?」とパートナーに尋ねる。

夜烏子は心配そうに、「私はかまわないけど、ただ・・・」

「ただ?」


結局シャワーを浴びないまま、「第2和室」で布団にもぐりこむクリス。

その夜・・・ 部屋に侵入する者たちがあった。

(シャワー浴びてないクリスの体臭!)(これはレアものですぞ!)クンクンクン

「うわあ!なんじゃあ!」と驚いて目を覚ますクリス。

わざわざ匂いを嗅ぎに侵入したのは紅鬼(くき)とミラルであった。

夜烏子はあきれて、「やっぱり・・・ 妖怪『匂い嗅ぎ』が出るんじゃないかと・・・」

2人の侵入者は恥ずかしそうに正座している。

クリスは目をこすりながら「寝かせてくれよお」




姫百合荘の豆知識(18)


(前回からの続き)「ぷりぷり7」の楽曲は基本的に他のアイドルアニメと同様、キャラの声を担当する声優さんたちが歌っている。

が、世間には流通しないものの、モデルとなった「本物」たちが歌うバージョンも存在するのだ!

多い時でも関係者を含め20人を越えることのない、ごく少数の「選ばれし者たち」を観客として、「本物」たちがパフォーマンスをする「シークレット・ライブ」も数えるほどだが開催された。

この、きわめて幸運な「観客」たちとは何者なのか、いずれ語る日も来るであろう・・・




畜産品PR用キャラとしてスタートした「プリティー・プリンセス・セブン」であるが、そのキャラの魅力、アニメの出来の良さから、またたく間に世界的人気コンテンツへと成長していった。

中国・上海では、地下鉄に「ぷりぷり7」のキャラがラッピングされ、熱心なオタクたちが地下鉄駅でキャラの絵を前に土下座して崇拝する、というショッキングな場面も報道された。

またパリ、アニメショップが集中するオペラ座界隈でも・・・


この日は「ぷりぷり7」アニメDVDおよびブルーレイ発売日。

先着700名様だけが初回特典のフィギュア付きスペシャル版を購入できるとあって、アニメショップの前には開店前から長い行列ができている。

「列の一番先頭に置いてある、青い包みは何だ?」

開店の時間となった。

アラブ系の店員が入口を開けると、目の前に置いてある「青い包み」がいきなり立ち上がった。

それは全身を青い布でくるんだ、唯一露出している目にはサングラスをかけた、なんとも不審な人物・・・

北アフリカ出身の店員は驚いたものの、すぐにわかった。

(トゥアレグ族だ! トゥアレグが「ぷりぷり7」DVDを?)

サハラ砂漠で生まれ育った男の、乾いた声が咆哮した。

「ウルウ!フィギュア!」



南米ボリビア、ラパスのスラム街に近い、うらぶれた地域の酒場。

カウンターで1人の酒臭い赤毛のヨーロッパ人が、生きてるのか死んでるのかわからないような目で、アイリッシュ・ウイスキーのグラスの中を見つめていた。

(あの時、俺はあの娘を殺せたろうか・・・)

スウィング・ドアが開いて客が入ってくると、思わず半身になって入口を視界に入れる。

右手は上着の内側に入っていた。

客は単なる地元の若者で、追っ手ではなかった。

(笑えるな・・・ これ以上生きるつもりもないのに、体が勝手に生きるための行動を)

若者は隣の席に座り、ビールを注文するとタブレットを取り出し動画のザッピングを始めた。

酒場でスマホやタブレットをいじるという行為に、赤毛のヨーロッパ人は辟易した。

言いたくもない(最近の若者は・・・)という言葉が、喉元まで出かかる。

自分だって、この若者とそう変わらないくらいなのだが、長年の苦悩が皺となって刻まれた顔は、10以上は老けて見える。

隣りの若者は気に入った動画が見つかったとみえて、ビールを飲みながら、ゆっくり鑑賞を始めた。

異国の言語で歌う、女の子のかわいい声が聞こえてくる。

日本語だろうか・・・ このガキ、酒場で日本のカートゥーンを見てやがる!

殴り倒してやろうか・・・ だがヨーロッパ人は、いつの間にか隣りのタブレットを覗きこんでいた。

字幕はスペイン語なのでストーリーはよくわからないが、とにかくアイドルグループのようだ。

隣りの席との距離を詰めて、ヨーロッパ人は生まれて初めてアニメ・ガールというものをじっくり眺めた。

「これは・・・ なんというカートゥーンなんだ?」

英語まじりのつたないスペイン語で、ついに聞いてしまった。

若者はバカにしたような目つきで、「アニメだよ。プリティー・プリンセス・セブン」

「この中国人みたいな子は誰?」画面を指さして尋ねると、

「それは・・・ ヤウだね」

「ヤウ?」

「ナイト・レインという意味だ」

その時、スウィング・ドアが開いて3人の男が現れた。

「オサリバン!」

ヨーロッパ人はすでにカウンターの下に身を投げ出し、上着の内側のホルスターから38口径の小型リボルバーを抜いていた。

3人の男たちのオートマチックが火を吹くと同時に3発、一瞬にして眉間を撃ち抜かれた3つの死体が入口に転がる。

隣の若者は巻き添えを食って、血だまりの中で死んでいた。

それを感情のない目で見下すヨーロッパ人、「かわいそうに、死神に近づきすぎちまったな。俺が死ねばよかったものを・・・」

死体をよけ、スウィング・ドアを開け、パニックとなった店内を後にする。

「だが、もう少しだけ生きたいという気になった・・・」



西アフリカ、マリ。

古い歴史と文化を有するこの国にもイスラム原理主義が浸透、治安は極度に悪化していた。

フランスは元宗主国として治安維持活動に協力するため、外人部隊でもえりすぐりのエリート集団・第2外人落下傘連隊を派遣。

拠点はここトゥンブクトゥ・・・ 身長180センチ、黒髪を丸めた上にグリーンベレー帽を斜めにかぶった、褐色の肌の女性兵士が元気よく歩いていた。

「さー休憩時間だ。アニメ見るぞーアニメ」

同じく休憩中でくつろいでいる兵士たちが、声をかけてくる。

「パンテーラ、バレーボールしようぜ!」「サッカーしようぜ!」

「うるさいなーアニメ見るっつーてんだろ!」

兵舎に入ると、食堂でコーラを飲みながらノートPCを開く。

「今週はマイちゃんの主役回・・・」

眼鏡をかけたオタクっぽい兵士が、「『ぷりぷり7』を見るのかい? ごいっしょしていいかな?」

「来るな! 近よったら殺す」

動画を再生しながら、にへへー、と幸せそうなパンテーラ。

「あー今回も良かった・・・ ん?何か告知が・・・」

すでに日本語が達者な彼女、アニメの最後に出てきた告知も字幕なしで読める。

「なぬなぬ・・・ 私たちをお嫁にもらってくれませんか? 書類選考の上、バトル大会に参加してね!」

目玉が飛び出し、鼻から竜巻が吹き荒れる。

「マイちゃんを嫁にするだとー!?」

その時、炸裂音が空気を切り裂いた。「襲撃だー! 総員戦闘配置!」

機銃の掃射、迫撃砲弾が着弾する轟音、土煙。

中庭のハーフトラックがロケット弾を撃ちこまれ爆破炎上した。

パンテーラは上官を見つけ出すと、「大尉殿! わたくしパンテーラ・アマリア・メンデス・アルメイダ曹長、ただいまをもちまして除隊させていただきます!」

「なにー!アホかー!」

「日本に行ってトリューモン・マイちゃんを嫁にするのであります!」

「アニメ・ガールをどうやって嫁にするんだ! てゆーか、この状況をどうするんだ!」

「知らーん!」と走り出すパンテーラ、銃弾をかいくぐって一目散に駆けていく。

「マイちーん、待っててねー」すたこらさっさー



第6話 おしまい

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