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姫百合荘のナイショ話  作者: 嬉椎名わーい
3/6

3、声と顔と百合トーナメント

百合(ゆり)めっこ」

その恐るべき戦いは、このように始まった。

姫百合荘(ひめゆりそう)オープンから7ヶ月が過ぎた水曜日の夜。

アリスンとアン、湯香(ゆか)真琴(まこと)、さらに朝の早いまりあ(一人寝)は、すでに就寝。

リビングには本日休みシフトのクリスと夜烏子(ようこ)、在宅シフトの紅鬼(くき)とパン、「Bar秘め百合」から帰ってきた龍子(りゅうこ)燃子(もえこ)とローラ、獣畜振興会・広報室の務めを終えたミラルの計8名が集まり、紅鬼が新しく考えた競技の発表を聞いていた。

「ただただ至近距離で5分間、見つめ合うだけです! にらめっこじゃないから笑わせたらダメよ」

パン「相手を感じさせたら勝ち、か・・・ 勝敗の判定は?」

紅鬼「5分たったら『濡れ奉行(ぬれぶぎょう)』が双方のパンツの中を改め、『ウェット』『ドライ』を判定・・・」

みんなからブーブー!変態!と反対の声が上がる。

パン「感じたかどうか、わかればいいんだろ? 私なら見た目でわかるし、匂いでもわかるけど」

紅鬼「ではパンちゃんに審査員をやってもらうとして、パンちゃんの試合の時は・・・ ローラ、できる?」

ローラ「プロのレズビアンとして女が感じてるかどうかくらい、わからんとね」

すでにスッピンにしてしまった風呂上がりの顔を撫でて、「こんなゲームやるんならメーク落とすんじゃなかった・・・ オーラが70%減・・・」

紅鬼「とりあえず1回試しにやってみましょう。クリス、龍子!カモーン!」

ストロベリーブロンドのショートヘアーに茶色い瞳、そばかす顔のロシア人おねえさんクリスと、タレ目アイドル顔の龍子が、ソファーの上に密着して座る。

お互い、相手の顔が超ドアップ。

クリス「ち、近いなー」

龍子「何すればいいの?」

紅鬼「キスも禁止、タッチも禁止です! お互いセクシーな表情や眼差しだけで、相手のハートをトロトロにしてください! レディー・ゴー!」

どちらも変顔をしたわけでもないのだが、ほぼ同時にブーッと吹き出してしまう。

龍子「ダメだ・・・ スッピンだとみんな、けっこう面白い顔してる・・・」

クリス「これスッピンでも美人な人が有利じゃないの?」

パンが困ったように、「どうする紅鬼、このままだとグダグダになるぞ」

「うーん・・・」と考えた末、「よし、サラッと簡単でいいから各自メークしてきましょう! 15分後に再び集合!」

えー、マジかー、めんどくさいなーと声が上がるが、それぞれ部屋に向かう。

紅鬼「あ、それとパンちゃんとミラルは超美形だからメーク禁止! それくらいハンデつけないと」

ミラル「ええっ せめてリップだけでも・・・」

パン「ま、私はふだんからあまりメークしないからいいけど」


こうして15分後。

紅鬼「ちょうど8人だからトーナメントにしましょう。第1試合、ローラVS夜烏子!」

夜烏子「ええーっ私に勝ち目ないじゃーん」

と言いつつ、本日美容院で髪を茶色に染めてきた夜烏子、濃い色の口紅を引いて、これまでの地味なイメージを一新している。

下がり眉の奥二重、「不幸そうな」と言われてきた顔だが、今夜は艶やかに輝いている。

一方、赤毛に灰色の瞳のローラは、メーク時間が短かったせいで未完成な印象。

「レディー・ゴー!」

ローラ「夜烏子、その髪の色とルージュ、似合ってる」

夜烏子「ありがとう、ローラさんのアドバイスのおかげだよ」

だが、やはり2人とも笑ってしまうのであった。

ローラ「みんなが見てると気が散る!」

紅鬼「じゃ電気消しましょうか」

パンがスタンドをもってきて、ソファーの後ろに置く。

オレンジ色の照明の中、ソファーの2人の顔だけが浮かび上がった。

クリス「おお、いい感じ」

紅鬼「では改めて・・・ 始めてくださいまし」


唇が触れ合う1センチ手前で、ローラが囁いた。「夜烏子・・・あなたは本当は、この家でいちばんセクシーな子・・・ 埋もれていた宝石・・・」

「そんな・・・」

ローラの息が、夜烏子の鼻孔をくすぐる。

「早く、あなたを抱きたい・・・ あなたから滴るしずくを飲み干したい・・・」

「ローラ・・・」

悩ましげに目を閉じる夜烏子、その口がしだいに開いていく。

赤い唇、白い歯、その奥でうごめく舌・・・

「ああ・・・」

誰もが夜烏子の負けを確信したその時、ローラが切なそうに顔を歪めて、「ううっ」息を漏らした。

パン「はい! 夜烏子の勝ち!」

ローラはうつむいたまま両手で顔を覆い、「負けを認めます・・・」

驚いたのは夜烏子、「えっ 私も危なかったのに?」

ローラ「夜烏子のあの顔を至近距離で見たら・・・ いやらしいよ夜烏子・・・」

紅鬼「優勝候補ローラ撃沈の番狂わせ! とんでもないモンスターが現れましたね」

夜烏子「だれがモンスターよ!ねえさんのバカ!私、もう寝る!」

プリプリしながら、リビングに隣接する「第2和室」にこもってしまった。

紅鬼「ローラ、夜烏子を1人にしないで」

ローラも続いて「第2和室」へ。


紅鬼「今の試合、ちょうどいい見本だったね。こんな感じでやっていきます。それでは第2試合! ミラルVS龍子!」

龍子「よーし、だいたい戦略は練れてきたかな」

ミラル「うーん、苦手だなー。こういうの・・・」

お互い生真面目な顔で見つめ合ってしまう。

パン「龍子、ファイッ」

紅鬼「パンちゃん、ひいきはなしだよ」

龍子は目を閉じて、「ちゅーをする唇」でミラルに迫ってきた。

ミラル(かわいい・・・)

紅鬼「龍子、目を開けて! ずるい!」

注意されて薄目を開ける龍子、ウットリしてるような表情。

ミラル「パンちゃんの指が龍子のおへそをまさぐる・・・ パンちゃんの唇が龍子の喉をちゅーちゅー吸う・・・ パンちゃんの舌が龍子のアバラを這いまわる・・・」

龍子「ううううーん、うーう!」

両手で頬を押さえて悶えまくる龍子、パンは失意の表情で「龍子の負け・・・」

紅鬼(目を閉じてるのが仇になったな・・・)


「第3戦! クリスVS燃子!」

両者ソファーへ。

クリス「どうした燃子、今日はやけに静かだけど」

燃子「てんちょ・・・ もえこな、今日で死んじゃうん・・・」

クリス「い?」

燃子の頬を、ひとすじの涙が流れる。「おわかれなん・・・」

グッときてしまうクリス、「燃子いくなー!」思いっきり相手を抱きしめる。

パン「クリス、反則負けー」

ミラル「クリスって元スパイなんだよね? ハニートラップにかかってどうする!」

紅鬼「自分がハニートラップ仕掛ける方だったのにね」

クリス「だからスパイに向いてないからやめたって言ってるじゃん・・・」すごすご


「第4戦! パンちゃんVSわたくし!」

紅鬼、ハアハアしながらパンと向かい合う。

パン「紅鬼、試合が始まる前から、すでに・・・」


「セミファイナル! 準決勝第1試合! 夜烏子VSミラル!」

「第2和室」からしぶしぶ出てくる夜烏子とローラ。

「もうやりたくないよ・・・」

ソファーで向かい合う2人の対戦者、ミラルが顔を赤らめ

(うわっローラの匂いもプンプン!)

首すじのキスマークも生々しい、乱れた髪の夜烏子が、潤んだ瞳でミラルを見つめる。

その距離、3センチもない。

「はあ、はあ、はあ・・・」

ミラル(これじゃ2人を相手に対戦してるようなもんだー!)

「ギブアップ・・・」と宣言するとただちに、夜烏子を引っぱって「第2和室」へ。

それを悲し気に見送るクリス、「オレの嫁・・・ やめてくれよう」(クリスにはNTR属性があります)


「準決勝第2試合! 燃子VSパンテーラ!」

気合が入る燃子、(ついにこの時が来たでー! パンちゃんと正面からの勝負! 思えば・・・)

アンが家に連れてくる同級生の間でも1番人気はパン、2番が燃子。

「Bar秘め百合」でも・・・ 調査したわけではないが1番人気はパンにまちがいなく、おそらく2番が燃子だろう。

(このままでは、まりあ様が・・・ 「お前の女は万年2番!」とバカにされてまう・・・ まりあ様が敗北者として一生を送ることになってまう・・・ なんとしても私がパンちゃんより上だということを証明せんと!)

パン「燃子・・・ なんか知らんが燃えてるな」

ソファーで対面する両ファイター、ギン!と激しく闘志をぶつけ合う。

紅鬼「2人とも趣旨わかってるよね?」

龍子「これが事実上の決勝戦かもね」

ローラ「あ、私が審査員を」

紅鬼「運命の一戦・・・ レディー・ファイッ」

その瞬間、パンの右眉はつり上がり左眉は垂れ下がり、右目は涙を流して左目は白目をむき、鼻の穴は興奮に開いて、右の口角はダランとしてヨダレを流し、左の口角はニヤリと冷笑していた。

龍子(にらめっこじゃねー!)

燃子はハートがキュンッとなって思わず胸を押さえてしまう。「ステキッ!」

ローラ「パンちゃんの勝利!って、なんでやねん!」


紅鬼「さあ、とうとう決勝戦! 正直、ここまで盛り上がるとは思ってませんでした。今日の夕食後に思いついたばかりの大会でしたので・・・ それでは夜烏子VSパンちゃん!」

夜烏子はキスマークだらけで、肌はしっとり濡れて光っていた。

至近距離で向かい合うと、むわっとした臭気がパンの鼻に押しよせる。(ローラとミラ姉の匂いがプンプンだー!)

はあはあと息をつく夜烏子、口を半開きにして、

「みんなで私をおもちゃにして・・・」

その目から涙が頬を伝い、体をのけぞらせる。

パンは夜烏子をがっしりと抱きすくめ、「私の負けだーっ!」

皆が涙を流している、感動の幕切れであった。


夜烏子「ねえさん、何か優勝賞品もらえるの?」

紅鬼「じゃあ私のレディース用パテック・フィリップの腕時計あげよう」

夜烏子「うそ!あのムーンフェイズ? やったー!」

龍子「いいなあ」

そこへパジャマ姿の真琴が、眠い目をこすりながら入ってきた。

「みんな、もう2時だよ・・・ 寝ないの?」

紅鬼「あ、ごめん真琴、起こしちゃった?」

真琴「トイレに起きたら、なんか盛り上がってるから・・・」

ここで悔し涙を流して膝を抱えていた燃子が、「真琴、チャンピオンに挑戦してみー」

パン「2人で入って出るのは1人! 2人で入って出るのは1人!」

龍子「それが百合めっこドーム!」

真琴「なになになになに?」

紅鬼「よーし、これが真のファイナルだ!」

こうして再びソファーに臨む夜烏子、真琴は紅鬼のレクチャーを受けている。

「感じさせればいいのか・・・」

紅鬼「レディー・ファイッ」

お互い息のかかる至近距離での睨み合いから、

真琴「このメスブタ、サカってんじゃなーわよ!」

観衆はドン引き・・・

「なんだ、その臭い息と体臭は! よく人前に出られるな、この淫乱茶髪!」

あっけに取られる夜烏子の顔に、真琴の唾が容赦なく降りかかり、顔をそむけてしまうが・・・ その顔には切なげな表情が。

さらにビシバシと、「見てるだけで吐き気がするわ、このセックス狂いの欲求不満!」

夜烏子は自らの体を抱きしめ、涙を流して崩れ折れる。

「うう・・・ もう許して・・・」

パン「勝者、真琴!」

ローラ「これが真琴の真の姿・・・ あくまっこ・・・」

夜烏子「クリス、そんな目で見ないで」しくしく

紅鬼はクリスの肩を抱いて、「軽蔑しないで上げて! あ、軽蔑してあげた方が本人は喜ぶかな?」

夜烏子「もう好きにして」開き直るしかない。

真琴「夜烏子さん、ゴメン! 恨まないでね、もちろん本心じゃないからね」

紅鬼から腕時計を受け取って、「え、これもらえるの? ありがとうございます!」

ウキウキで寝床に戻っていく真琴であった。




姫百合荘の豆知識(15)


(前回からの続き)さて、畜産品PRを目的としたアイドルアニメ「プリティー・プリンセス・セブン」ですが、単なるアニメではない!

これは完全に極秘事項ですが・・・ 7人のメンバーはそれぞれ、実在する人間がモデルとなっているのだ!

その「モデル」たちは、獣畜振興会および関係者の間で、ひそかに募集され推薦されスカウトされ、集められた7人の美女!

彼女たちはキャラクターデザインの原型となっただけでなく、性格や口癖、経歴までキャラ作りに反映されている。

そればかりか実際に7人は集結、ダンスや歌のレッスンを受け、実際にパフォーマンスを行う。

それがモーション・キャプチャー方式でアニメのライブに変換される・・・

アニメで「中の人」と言えば声優を指すのだが、「プリプリ7」は本当に本物の中の人がいるアニメなのだ!(ちなみにCVはプロの声優が担当)


ではなぜ、それだけ才能あるメンバーを集めておきながら、現実のアイドル活動をせず「アニメ」なのか?

ひとつには、メンバーのうち6人が20歳以上とアイドルを始めるには、やや年齢が高いから。(アニメでは実際の彼女たちより3歳くらい年齢を下げてる)

また生身のアイドルが広報活動を行うと、スキャンダル、ストーカー問題、SNS炎上などトラブルがつきまとうから、という理由もある。

本物の観衆を前にステージに立つわけではないので、シャイな性格のメンバーも心おきなくパフォーマンスに専念できる。

そんな仕組みになってるとはつゆ知らぬファンたちは、「どうもこのキャラたち、創作物なのに妙に人間くさいな?」と思いつつ、「プリプリ7」の世界にハマっていくのだった。


そして、もうお気づきのとおり・・・ 姫百合荘の住人の中にも2名、この「プリプリ7」出身者がいる!

誰でしょう?(次回に続く)




木曜日、アンの友達2人が姫百合荘に遊びに来た。(もちろん女子、たとえ子供でも男は姫百合荘に入れない)

クラスで一番大人しい美幸(みゆき)と、クラスで一番うるさい樹摩(じゅま)である。

今日は休みシフトの燃子が、自分の人気を少しでもアップさせようという下心もあって、遊んであげている。

芝生広場で、「大阪のハゲおっちゃんやでー! つかまるとハゲになってまうでー!」

きゃーきゃー逃げまどう子供たちを追いかけまわす。

一見鬼ごっこのようだが燃子がずっと鬼、もといハゲおっちゃんなのだ。

ついに樹摩がつかまった。

「おまえのフサフサした髪を食ってやろうかー」

いつの間にかハゲおっちゃんから般若に変化した燃子の恐ろしさに、樹摩は泣き叫ぶ。

「うぎゃー!びえええー!わああああ!」

その音量の大きさにたじろぐ燃子、そこへ美幸が飛びこんできて、「じゅまをはなせー!」ぽかぽか

しかし燃子も負けずにワンレンの前髪をすべて顔の前にたらし、「貞子・・・ さーだこー」

これには2人の少女も名状しがたい恐怖に包まれ、動けなくなってしまった。

正座した2人のまわりをグルグル回る貞子、「お母さんを大切にするやでー、寝る前に歯みがくやでー」

それを見ながらワケがわからなくなるアン、「もえこちゃん、いつのまにかナマハゲになってるよ!」


紅鬼が「みんなー、おやつにしなさーい! ジュースとマルセイのバターサンドがあるよー」とトレイを運んできたので、縁側に集合。

燃子はアンの膝の上でゴロゴロ甘え、友達2人がその頭やあごを撫でてやる。

「もえこちゃん、かわいい」

アン「くきさあ、わたしペット飼いたいって、いってたじゃんさあ?」

紅鬼「うん、そろそろ家の方もひと段落したし、何か飼おうか?」

アン「でもさあ、猫はもえこちゃんいるからいらないし、犬はゆかがいるからいいや」

紅鬼「アン子・・・ さすがにそれは失礼・・・」

燃子「うにゃー」アンのほっぺたをペロペロ

アン「よさないか、こいつ」

紅鬼は呆れて、「燃子、人間としてのプライドない・・・」

アン「そういえばもえこちゃん、大阪のハゲおっちゃんを流行(はや)らそうとがんばってたけど、いまいち流行(はや)らなかったね」

燃子しょぼーん



第3話 おしまい

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