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第二話
良い獲物を見つけた。
船上に尾を打つ鯖に、鼻息荒く躍りかかる黒猫を見たのだが、なんだか止める気追う気になれないのが、老いた漁師の本音であった。
や、でも、今日は鯖なんぞ釣っておらん、波乗りして、そっちから船にかかってきたやつは、大方、金にはならん、故に追い回さなくともよいのだと、ただ桟橋に腰を落とすだけの己を、正当化して、のぼせたような猫背で、夕空の星々に目を流すのも、彼の日課である。
菜っ葉の臭みが鼻に障るので、時間を違えた行商人か。
振り返れば、案に相違して、家内の仁王立ちを見たので、仰天である。声ともいえぬ声で、あいやと口にすると、飛ぶ鷲も十中八九目を塞ぎたくなるも過言ではない鷲掴みを、胸ぐらに食らった。
立て続けに割れる硝子を思わせる奇声が、彼には聞き取れないこともないが、指揮棒の如き菜切りの振り回しと、鬼の形相が、おおよそのところを物語っている。
どの程度まで恨み辛みを並べられたのか分からぬまま、家内にどたどた去られてしまったので、沈む太陽に背を向け、佇むことの他何も出来ずにいる彼である。無念。