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第五話 おもろい服装って何?

 エマを寝返らせようと決めて、イリーナに相談する。

「間者に仕立てる魔族が決まった。エマだ。エマを切り崩したい。だが、俺が使うスキルの前提条件を確認すると、忠誠心が高い魔族にはスキルが無効だ」

 イリーナが、うんうんと頷く。

「誰でも寝返らせるなら、それは寝返りではなく、催眠系のスキルになるっすからね」


「そこでだ、エマがどれくらい魔王に忠誠を誓っているか調べられないだろうか?」

 イリーナが素っ気ない顔で、簡単に請け合う。

「忠誠心があるかどうかは、話せばわかるっすよ。うちに任せるっす。きちんと、尋問して、聞き出すっす」


「エマはほとんど口を利かないと聞く。話を聞き出すだけでも苦労が予想されるぞ。ましてや、忠誠心の高さなんて、わかるのか?」

イリーナが得意げな顔で饒舌(じょうぜつ)に語る。

「話し方によるっす。人間も魔族も、常に不満を抱かない存在はいないっす。誰しも心の中で不平を言っているっす。それを聞き分けないと、諜報活動は進まないっすよ」


 気になったので尋ねる。

「もしかして、イリーナも俺に不満を持っていたりするのか?」

 イリーナがあっさりした態度で認めた。

「不満はあるっすよ。だって、この世の中に完璧な存在なんて、いないっす。たとえ神様だって、こんな戦乱の世を作るぐらいっすからね。完璧とは思えないっす」


「そうかもしれんな、では、エマへの内偵を頼む。俺はおもろい服装を調達してくる」

 イリーナと別れる。

 空のバックパックを二つ手に持って、軍の洗濯小屋に行く。


 洗濯小屋の主人は年配の痩せた女性だった。女性主人は色あせたエプロンをして、大量の洗濯物を干していた。

 女性主人はアレンを見つけると、意外そうな顔をして声を掛けてくる。

「軍師様、こんなところに何か御用ですか?」


「誰のものかわからなくなった、使っていい衣類を捜している。できれば、奇抜な衣類を貸してほしい。そう、笑いがとれるくらいにだ」

 女性主人の顔が怪訝(けげん)に歪む。

「それはまあ、誰の物かわからない衣類は、ありますよ。女性下着からピエロの服装まで倉庫にありますけど、何に使うんですか?」


「機密事項で、教えられない。だが、これは、俺と国家を救う作戦だ」

 女性主人はいい顔をしなかった。そこで、アレンは十銀貨を二枚さっと取り出して握らせた。

「もう一度、洗濯になるだろうから、手間賃だ」

 女性主人は態度を(やわ)らげて、衣類置き場になっている倉庫に案内する。


 歩きがてら世間話をする。

「洗濯小屋でなにか困っていることはないか。あれば上に問題の提起をして解決するぞ」

 女性主人は諦めた顔で否定的な意見を口にする。

「いいですよ。問題提起なんて、誰も洗濯小屋の仕事なんて興味ないですよ」


「少なくとも俺は気にしている。籠に放りこんでおけば、かってに洗濯物は綺麗になるとは思わない。誰かが、働いているから、綺麗な衣類を着られるんだ」

 女性主人は苦労の絶えない顔で相槌を打つ。

「他のかたも軍師様と同じ考えてもっていれば、私たちも、もう少し楽できるんですけどね」


 倉庫は縦十五m、横七m、高さが二mほどの木製の倉庫だった。倉庫の両壁には、衣類を収納する棚が、びっしりと並んでいた。

「ここから適当に捜して、持っていってくださいよ。返却する時は私に(じか)にお願いしますよ」

「わかった。できるだけ汚さないようにする」


 アレンは派手なアロハシャツ、カボチャパンツ、プールボアンに猫の被り物等の、奇抜な衣装を選んで、バックパックに詰めて、部屋に戻った。

(衣装は手に入った。あとは、イリーナの働き次第か)


 夕食を済ませて、部屋に帰るとイリーナが戻ってきた。

「どうだった? エマは寝返りそうだったか?」

 イリーナが機嫌よく見立てを話す。

「会話はほとんどなかったっす。でも、あれは、魔王にかなり反感を持っている顔っすね」


「会話がない、だと? 会話の内容じゃなくて、相手の表情で不満があるかどうか、わかるのか? 俺には何もわからなかったぞ」

イリーナが自慢顔で語る。

「こればかりは、経験っすからね。うちは、行けると思うっす。そんで、おもろい服装は手に入ったっすか?」


 さっそく、手に入れてきた衣装を提示して語る。

「色々と手に入ったぞ。トレンチコートに海水パンツなんて組み合わせは、どうだろう?」

 イリーナが渋い顔で駄目出しする。

「それは、面白いんじゃなくて、単なる変態っすね」


「何だと? なら、この縦縞(たてじま)のピエロの衣装はどうだ?」

イリーナが渋い顔のまま批評する。

「ピエロが面白いのは、衣装が奇抜だからではないっす。あれは、芸が面白いっす」


「なら、ねじり鉢巻に、上がピンクのハッピで、下が黒のハーフパンツは、どうだ?」

 イリーナが残念顔で、またも駄目出しする。

「縁日にいる、派手なテキ屋みたいっすね。奇抜かもしれないっすけど、面白くはないっす」


「では、上下が黒の女性下着で、赤の襟巻き巻いて、猫の被り物をしたら、どうだ?」

 イリーナが嫌悪した顔で首を横に振る。

「それは、馬鹿のセクハラっす。エマは不快になるだけっすね」


 半ば自棄(やけ)になり、無茶苦茶な組み合わせを提示する。

「なら、上がチェンメイルで、下が馬の頭が付いたスカートは、どうだ?」

 イリーナが苦い顔で否定する。

「だんだん、狂気の世界に入ってくるっすね」


「なら、襟が広いカラフルな縦縞のプール・ボワンにカボチャ・パンツでは、どうだ?」

 イリーナが真面目な顔で教えてくれた。

「それ、魔族の領内の一地方でよく着るんで、普段着っすね」


「じゃあ何だ? おもろい服装とは」

 イリーナが真面目な表情で提案する。

「御主人の場合は、黒の燕尾服の上下にクリーム色のシャツを着て、革靴を履くっす。それで、お洒落(しゃれ)に決めれば、おもろい服装っす」


 イリーナの意見には、異論があった。

「待て。イリーナのコーディネイトする服装は魔族圏で上流階級がする普通の格好だろう?」

 イリーナがきょとんした顔で語る。

「そうすっよ。人間が魔族の上流階級を真似して、精一杯の背伸びした格好をする。これほど、魔族にとって滑稽な姿はないっす」


「本当か? 本当に、それで笑いが取れるのか? この笑いには命が懸っているんだぞ」

 イリーナは表情も明るく、ごく自然に太鼓判を押す

「心配なら、ご主人は付け髭をするっす。そこまですれば、見た瞬間に、エマは噴き出すっす」

「わかったよ。正装して笑われるって評価ってされると、釈然としない。だが、魔族の上流階級の格好をするよ」


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