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さて子供たち、よくお聞き。辻の立木につり下がる籠の話を。

 さて子供たち、よくお聞き。慌て者の黒騎士のお話を。



 ある日ある時ある場所で、慌て者の黒騎士は小鳥の歌を聞きいたとさ。

 小鳥がさえずり言うことにゃ、


「険しい険しい崖の上の、

 古い古いお屋敷に、

 お姫様が捕らわれて、

 石のベッドに石の枕、

 横たえられて眠ってる。

 ピーチクピヨピヨ、ルルルルル」


 慌て者の黒騎士は、早速(さっそく)直様(すぐさま)逸早(いちはやく)、立派なマントを翻し、颯爽と青毛に飛び乗って、早う早うと馬煽り、勢いよろしく走らせて、野を越え山越え谷越えて、駆けに駆けたるその末に、遙かに見えた白い崖。

 逸る気持ちにせかされて、岩に飛びつき割れ目を掴み、

「上へ上へ」

 とよじ登る。  

 自分の声に急かされて、黒騎士はゆっくり早足駆け足と、勢い上げて突き進む。

 眼前迫る長上に、

「止まれ」

 の一声言い忘れ、全速力の勢いで、崖のてっぺんに飛び上がる。


 慌て者の黒騎士は、屋敷を探して右左、辺りを見回すそのために、マントなびかせ背伸びする。

 びゅうと風吹き風はらみ、マントはなびいて膨ららんで、バタバタ震えてそのうちに、煽られ飛ばされ黒騎士は、谷の底へと落ちたとさ。



 さて子供たち、よくお聞き。慌て者の黒騎士のお話を。



 ある日ある時ある場所で、慌て者の黒騎士は小鳥の歌を聞きいたとさ。

 小鳥がさえずり言うことにゃ、


「暑い暑い砂漠の果ての、

 高い高い砂山に、

 お姫様が捕らわれて、

 石のベッドに石の枕、

 横たえられて眠ってる。

 ピーチクピヨピヨ、ルルルルル」


 慌て者の黒騎士は、早速(さっそく)直様(すぐさま)逸早(いちはやく)(くろがね)(よろい)を身につけて、颯爽と青毛に飛び乗って、早う早うと馬煽り、勢いよろしく走らせて、野を越え山越え谷越えて、駆けに駆けたるその末に、遙かに見えた砂の原。

 逸る気持ちにせかされて、砂地に飛び降り砂面を走り、

「前へ前へ」

 とひた走る。  

 自分の声に急かされて、黒騎士はゆっくり早足駆け足と、勢い上げて突き進む。

 眼前迫る砂の丘、

「止まれ」

 の一声言い忘れ、全速力の勢いで、小山のてっぺんに飛び上がる。


 慌て者の黒騎士は、砂山を探して右左、辺りを見回すそのために、鎧を軋ませ背伸びする。

 雲無き空と砂地から、太陽熱波が照りつけて、汗をだくだくそのうちに、蒸して渇いて黒騎士は、倒れて砂に飲まれたとさ。



 さて子供たち、よくお聞き。慌て者の黒騎士のお話を。



 ある日ある時ある場所で、慌て者の黒騎士は小鳥の歌を聞きいたとさ。

 小鳥がさえずり言うことにゃ、


「荒れた荒れた海果ての、

 小さな小さな島の小屋に、

 お姫様が捕らわれて、

 石のベッドに石の枕、

 横たえられて眠ってる。

 ピーチクピヨピヨ、ルルルルル」


 慌て者の黒騎士は、早速(さっそく)直様(すぐさま)逸早(いちはやく)、立派な長槍ひっ抱え、颯爽と青毛に飛び乗って、早う早うと馬煽り、勢いよろしく走らせて、野を越え山越え谷越えて、駆けに駆けたるその末に、遙かに見えた岩の島。

 逸る気持ちにせかされて、海に舟出し嵐の中を、

「前へ前へ」

 と漕ぎ進む。  

 自分の声に急かされて、黒騎士はゆっくり早足駆け足と、勢い上げて突き進む。

 眼前迫る島の岸、

「止まれ」

 の一声言い忘れ、全速力の勢いで、岩場のてっぺんに飛び上がる。


 慌て者の黒騎士は、小屋を探して右左、辺りを見回すそのために、長槍立てて背伸びする。

 黒雲雨雲裂け目から、ぴかりと光った雷鳴が、尖った槍のその上に、めがけて落ちて黒騎士は、打たれて海に落ちたとさ。



 さて子供たち、よくお聞き。慌て者の黒騎士のお話を。



 ある日ある時ある場所で、慌て者の黒騎士は小鳥の歌を聞きいたとさ。

 小鳥がさえずり言うことにゃ、


「遠い遠い国境の、

 可愛い可愛い離宮に、

 お姫様が住んでいて、

 綿のベッドに羽根の枕、

 横たえられて眠ってる。

 ピーチクピヨピヨ、ルルルルル」


 慌て者の黒騎士は、早速(さっそく)直様(すぐさま)逸早(いちはやく)、豪華な衣裳を身に纏い、颯爽と青毛に飛び乗って、早う早うと馬煽り、勢いよろしく走らせて、野を越え山越え谷越えて、駆けに駆けたるその末に、遙かに見えた小宮殿。

 逸る気持ちにせかされて、御門を駆け抜け扉を抜け、

「前へ前へ」

 と突っ走る。  

 自分の声に急かされて、黒騎士はゆっくり早足駆け足と、勢い上げて突き進む。

 眼前迫る大広間、

「止まれ」

 の一声言い忘れ、全速力の勢いで、ひな壇のてっぺんに飛び上がる。


 慌て者の黒騎士は、姫様探して右左、辺りを見回すそのたびに、衣裳の袖裾広がって王様王妃の頬を打つ。

 王様怒って兵を呼び、ぞろぞろ出てきた兵隊が、無礼者ぞと取り囲み、捕らえられたる黒騎士は、十三階段(絞首台)から落ちたとさ。



 さて子供たち、よくお聞き。辻の立木につり下がる(かご)の話を。



 黒い髪の毛ばさばさと、目玉の跡は黒い穴、(くろがね)(くさり)で縛られて、真っ黒タールを塗り込まれ、真っ黒(かご)に入れられて、あちらの山風、こちらの海風と、忙しく揺れ回る黒騎士の、髑髏(どくろ)の中には五色鶸(ごしきひわ)

 小鳥がさえずり言うことにゃ、


「白い白い頭蓋(ずがい)の底の、

 丸い丸い巣の中に、

 可愛い五つの卵が、

 (わら)のベッドに葉っぱの枕、

 横たえられて眠ってる。

 ピーチクピヨピヨ、ルルルルル」




 はい、このお話は、これでお終い。

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