最強ネクロマンサー、英雄を復活させてしまう
竜人。頭に角、背中に翼の生えた、竜と人の間にいる存在。種族としての平均的な力ですら人間のSランク冒険者を遙かに凌ぐという。彼らは孤高の存在で、数えるほどしか歴史に現れないが、その度にその強大な力を知らしめてきた。
その中でも英雄と呼ばれているこの女の人は一体どれぐらい強いんだろうか。想像すらつかない。
「レイン様は三百年前の王国との奴隷解放戦争で多くの亜人を救った英雄だ。竜人は俗世に関与しないという孤高の存在も多いが、レイン様は弱者を救うために魔王様に協力してくれた。珍しいタイプの竜人…最後は人間の卑劣な罠にかかって死んでしまったが」
「あの、黒騎士さん、どうしたらいいんでしょうか…」
「どうするもなにも…シオン殿のアンデッドとして復活させるしかないのではないか?」
「でも、竜人のアンデッドなんて聞いたことないです」
「それはそうだろう…死者の力が強ければ強いほど、アンデッド化させることは難しくなる。竜人のアンデッドなど…不可能だと思っていたよ。だが、もしかしたら君ならできるかもしれないな」
「えぇ!? そんなのいくらなんでも買いかぶりですよ」
「魔王様がここに送ってきたということは君ならできると思っているからこそだ」
「いやぁ、期待してもらうのはありがたいけど…さすが無理かなぁって」
「やる前から諦めちゃだめだよ、 ご主人様ならきっとできるって!」
「姉様がそういうならできます。姉様の人を見る目は確かですから」
謎の信頼感。困るなぁ、期待されすぎると出来なかった時にがっかりさせてしまうから。
「…とにかくやってみるよ」
ええと…アンデッド化させるときは対象に自分の魔力をそそぐようなイメージで…本当なら直接触るんだけど、今は氷塊に包まれてるから、間接的に魔力を注ぐ。
氷塊がちょっと冷たいけど…。
「うーん…動かないですね。やっぱり駄目かな?」
「あきらめるのは早いのではないか? 何かほかに方法はないのか」
「うーん…僕これまで独学でネクロマンサーしてきたので…高位の存在をネクロマンスして、自分のアンデッド化する方法はよくわからないんだよなぁ」
「よし! ならば、図書館でネクロマンサーの専門書を借りてこようじゃないか!」
「あ、それなら僕も行きます! 」
黒騎士さんが猛烈な勢いで屋敷を出て行った。僕もあわててついていく。
後ろからミミとタマが、「いってらっしゃ~い」と手を振っている。
魔王軍の図書館につくと、羊のような巻き角をはやした女性が、カウンターでうつぶせで座っていた。あれはもしかして…寝てるのかな?
「司書! ネクロマンサー関連の専門書を片っ端から頼む!!」
「ふぁ…図書館では静かにしてくださいよぉ…スピー…」
「寝るな、起きなさい」
黒騎士さんが、司書さんの肩を優しくゆする。
「ふぁ…もぅ、うるさいなぁ。ほんとだったらもう閉館の時間なんですからねぇ。わかりましたよぉ…なんでしたっけ? この間貸した、『できる女上司の誘い方』続刊を持ってくればいいんですよね…? いくら男日照りだからってこんな時間に押しかけてくるなんて、飢えすぎですよぉ…」
「ち、違う! 恥ずかしいから、今はその話はやめろ! だいたいその本は君が私に勧めたんだろう!」
「そうでしたっけ? でも、人の眠りを妨げるのが悪いんですよ。因果応報です…スピー…」
それだけ言って、司書さんは再び眠ってしまった。だいぶフリーダムな人だな。
「…これはだめだな。自力で探すしかないか」
「あのー…あそこの棚にあるのがもしかして、ネクロマンサーの本じゃないですか?」
本棚のとこに「死霊術」という札が張ってある。
「おぉ! さすが、シオン殿だな。これだけの本の中から、目当てのものを見つけ出すとは!」
「えぇと…『天才のためのネクロマンサー学』アンリ・ネクロフィア著…なんだこの本…」
「それは! アンリ様の著者ではないか! 天才のシオン殿にぴったりの内容だと思うぞ」
「いや、僕は別に天才じゃないかと…」
「そう謙遜するな。さっそくその本を読んで、レイン様を復活させる手段を探そうではないか」
「うーん…じゃあ一応読んでみますか」
僕はぱらぱらと本をめくっていると、目次に、超強い亜人の英雄をアンデッド化させたい場合どうするべきか、という項目があったので、そのページまで本をめくってみる。
そこに書いてあったのは。
『竜人のアンデッド化は私の目標なのじゃ。基本的にネクロマンサーは自分より実力を持つアンデッドを使役することはできないのじゃ。しかし…一つだけ方法があるけど…それはやっちゃいけないことなので内緒なのじゃー!』
「いや…教えてよ」
「魔王様はおちゃめなお方なのだ…」
その後、ほかの本も読んだけど、おおむね竜人をアンデッド化させることは不可能に限りなく近い事だと書かれていた。仮にできたとしても、不完全な形になってしまうだろうとも。
「レイン様は英雄だからな。不完全なゾンビのような形で復活させてしまったら、批判されるだろう…だからこそ魔王様もああやって氷塊できれいな状態のまま維持しておくだけにとどめているのだ…」
「そうなんですか…」
でも、少しほっとしてしまった。僕が竜人のアンデッドを使役するなんて、さすがに想像もできないし。
「残念だがとりあえず戻るか」
「そうですね…」
屋敷に戻ると、ミミとタマが飛び出てきた。玄関が何か濡れてるみたいだけど何かあったんだろうか? 竜人の遺体が入った氷塊もなくなってる。もしかしてどこかに移動したのかな?
「ご主人様! きてきて!! すごいよ!!」
「…やばいです」
「一体何があったというのだ?」
「さぁ?」
二人に手を引っ張られて、屋敷の食卓に戻ると、そこには角生えた銀髪の美女が翼をパタパタさせながら、優雅にお茶を飲んでいた。
「おぉ、帰ってきたのかね。あなたが私のあるじ様だね?」
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