最強ネクロマンサー、ゴブリンを救う(2)
王国と魔国の国境近くの町ザマハにある冒険者ギルドに俺は来ていた。俺が訪れたのに気づいたギルドの受付嬢と目が合うと彼女が微笑んだ。
俺はここではゴブリンハンターのジャックとして、親しまれている。
「おはようございます!ジャックさん!ちょうどいい所に!」
「…ちょうどいい?もしかしてゴブリンの依頼が来てるのか?」
「はい、こちらの青年の母親がゴブリンに捕まってしまったそうで…」
「貴方がゴブリンハンターですか…!?お願いします…!どうか!どうか俺の母親を助けてください!醜悪なゴブリン共に捕まってしまったんです!」
あぁ、やはりこいつがきてたか。あの場にいたのはこいつだけだったからな。森で何か他の獣にでも襲われてないかぎりは、こうなる可能性もあると思ってここに来て正解だった。
さて、いつものやつを始めるとするか。
「…成功報酬は1億エンだ」
「1、1億エン…!?そ、そんなの高すぎます…!!」
「高いか…俺なら100億エン出したとしても母親が助かるなら安いもんだがね…」
「そんな…でもいくらなんでも1億エンなんて出せませんよ…」
「なら依頼は引き受けない。他の奴に依頼するんだな…もっともこの地域のゴブリンはAクラス冒険者ですら手に負えないこともあるが」
「そんな…Aクラスじゃ手に負えないならSランク冒険者に頼まないといけないってことですか…?そんなの本当に1億エンかかってもおかしくないじゃないか…そんな…お願いします…!!今はお金はないけど、母親が助かるなら俺を奴隷として売ってくれてもいい!どうか助けてください…!!」
青年がギルドの床に頭をこすりつけるように土下座している。
「ちょっと、ちょっとジャックさん、あんまり依頼者さんをいじめないでくださいよ…ほら、立ってください。安心して、それだけの想いがあるなら大丈夫ですよ!」
「え…?どういうことですか?」
「お前の覚悟を試したのだ、さすがに1億エンも払えるとは思っていないさ…実際の報酬は100万エンもあれば十分だ」
「そうだったんですか…それでも僕には大金ですが…なんとか親戚中から借りてでも工面します」
「うむ…言っておくがお前が奴隷として売って金は作るなよ。母親を助けてもお前がいなくなっていては彼女が悲しむだろう」
「ご、ゴブリンハンターさん…!!」
「やっぱりゴブリンハンターさんはいい人ですね…!」
ギルドの受付嬢が満面の笑顔で俺の背中をぽんぽんと叩いた。
「ふん、別にいい人じゃないさ」
「また~照れちゃって~」
ふぅ、そろそろこの茶番も飽きてきたな。俺がゴブリン退治の依頼ばかり引き受けているせいで、周りから「あいつってもしかして過去にゴブリンと何かあったのでは…?もしかして故郷がゴブリンに滅ぼされたとか」「いやきっと恋人をゴブリンに陵辱されて…」みたいな憶測で謎のキャラ設定と過去ができあがり、一度きまぐれでその設定に乗っかるように発言してみたら、周りからの評判がよかったせいでこのノリを続けることになった。元々、陰気で根暗、不人気職業で人から蔑まれてばかりだった俺には当時は新鮮で心地よかったが…なれてくるといい加減面倒になってきた。
そんなことを考えてると、背後から視線を感じた。誰なのか気になって振り返ってみると。
そこにいるのはガキだった。何故かわからないが、ちょっとした親近感を感じる。こういうときはクラスが同じ事がある…いやそんな訳がないか。
それよりも目を引くのは横にいる綺麗な女だ。褐色の肌に銀髪…。フードを被っているが、とんでもなく美しいことがすぐにわかる。
あんな奴を捕まえて売れれば…相当な金になるのになぁ。まぁ、いいとりあえずはゴブリン達の所に戻ってちょっとした小芝居でゴブリン共をたたきのめして、あの年増のババァを連れ出して、引き渡せばクエスト達成だ。
◇◆◇
「見つかったんですかシオン様?」
「うん…たぶんあの人で間違いないと思う」
ゴブリン達が出現している地域は魔国と王国の国境近くにある森や街道でよく見られているらしい。僕はエイファとカイルさんと一緒にここまできた。エイファはエルフだから森の探索が得意らしい。ただ結局、どこにゴブリン達がいるのかがわからなかった。おそらくどこか隠れ家のような場所にいるんだろう。
とりあえずゴブリン達の手がかりを探すために近くの町で聞き込みをすることにした。人間の僕とちょっと耳が隠れていれば肌の色が違うこともあってローブを被っていればエルフとは気づかれにくいエイファが一緒に動いてくれた。カイルさんは体格や臭いで気づかれやすいので、街の外に待機してもらった。
そして、聞き込みの結果、とある冒険者にたどりついた。
それはゴブリンハンターと呼ばれる男だった。彼はゴブリン退治やゴブリンに襲われた女の人を救出する依頼ばかりを受けることでこの町ではちょっとした有名人らしい。なんでも、ほかの冒険者に頼むよりも迅速で、失敗することが少ないらしい。
何かあると感じた僕はゴブリンハンターに会うために冒険者ギルドで待つことにした。そして、現れた彼を見てすぐにわかった。
この人はネクロマンサーだ。死の雰囲気というか…どんよりしたオーラみたいなものを感じた。魔王様の時には感じなかったんだけど、人間のネクロマンサーって大概子供の頃からさげすまれてきてるから特有の暗い雰囲気があるんだよね。
あとは彼を尾行すれば目的のゴブリンの元まで連れて行ってくれるだろう。
「それにしてもシオン様はするどいですね、ちょっとした手がかりから、まさかゴブリンネクロマンサーの正体を探し当てるとは…!」
「たまたま当たってただけだよ。ただの冒険者の可能性もあったからね」
「ゴブリン達の居場所がわかれば、あとはシオン様が支配権をあの男から奪えばいいだけですね」
「う~ん、僕に出来るかどうか…圧倒的な実力差がないと成功しないって魔王様言ってたからね…ゴブリンがAクラス冒険者でも手に負えないレベルって事は…けっこう凄腕のネクロマンサーだろうし、できるかなぁ」
「シオン様なら大丈夫ですよ!絶対できます!!」
エイファは凄く僕を信じてくれてるみたいだ。その期待に応えたいな。
次回でゴブリン編は終わりです。
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